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18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 4
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「あっ。ちょうどよかった。さつき~!」
そのとき、みっこが人ごみをかわしながら手を振って、小走りにこちらにやってくるのが見えた。
息を弾ませてわたしのそばに来たみっこは、わたしたちを見てにこやかに言う。
「あ。川島君といっしょだったんだ」
「こんにちは、みっこ」
冷ややかな視線から手のひらを返したように、川島君は親しげな笑顔をみっこに向けて、挨拶を返した。わたしへの態度とずいぶん違って感じるのは、気のせい?
「こんにちは川島君。いきなりだけど、さつきを借りてもいい?」
「え? …いきなりどうしたんだ?」
「ショーの最終リハの時間がちょっと早まったらしいの。もうすぐはじまるから、いっしょに行かない?」
「えっ? う、うん…」
わたしは戸惑った。
川島君とこういう状態で別れるのは、なんだか中途半端。
「どうしたの? さつき」
わたしがグズグズしているのを見て、みっこは不審そうに尋ねる。説明するかのように、川島君が口を挟んだ。
「さつきちゃん、今ちょっと、ご機嫌ななめなんだよ」
「どうして? けんかでもしてるの?」
「うん、ちょっと… ね。いろいろあって」
川島君はそう言って肩をすくめてみせ、みっこに目配せする。
そのとき、わたしは見逃さなかった。
みっこが、その『いろいろ』に反応して、どう切り返そうか一瞬迷うように、視線が泳いだのを。
なに? そのふたりの態度。
まるでみっこと川島君が、わたしにないしょで、なにか謀りあってるみたい。
それに、『今ちょっと、ご機嫌ななめ』って、まるで腫れ物を触るような、その言い方。
「別に、ご機嫌ななめとかじゃないわよ!」
イライラして、思わず声の調子を高めた。
今、川島祐二と森田美湖がわたしの目の前にいて、話しをしているのを見るのは、すごくイヤ。
わたしが知らない、東京や長崎でのふたりを妄想しちゃって、生理的な嫌悪感を感じてしまう。
なんとかしたい。
なんとかみんなの仲が壊れないように…
わたしが壊さないようにしなきゃいけない。
そんな気持ちはあるんだけど、どうしていいかわからない。
「いいわよみっこ。リハーサル行きましょ。さ!」
ふたりがいっしょにいる所を見なければ、少しは気が鎮まるかもしれない。
そう思って、わたしはみっこの腕を引っ張り、この場を離れようとした。
「さつきちゃん!」
川島君がわたしを呼び止める。
「川島君。わたしもうリハーサル行くから」
「じゃあ、ショーのあと、ロビーで待ってるからな。いい? さつきちゃん?!」
背中に川島君の声を受けながら、それを無視して、わたしはみっこを急かし、足早にアリーナへ向かった。
「さつき。ちょっと待って」
グラウンドを抜けて、キャンパスの裏の森の麓まで来たところで、みっこは足を止めた。
「ね。リハーサルまでは、まだ少し時間があるわ。あたし、ちょっと寄りたいところがあるの。さつきといっしょに」
そう言って、彼女はわたしを見つめて微笑み、ブラウスの袖をくいっと引っ張った。
「え? 寄りたいところ?」
「こっちよ」
みっこは行く先を指さし、キャンパスの裏の丘へ上がる森の小径に入っていった。いったいどこへ行くつもりなんだろ?
キャンパス全体が遠くまで見渡せる、小高い丘へ続く小径を、みっこは歩いていく。
頂上が近づくにつれて、カーニバルのざわめきも次第に遠くなり、風景画のようにゆったりと、わたしたちの足元に広がっていった。
さっきまでの喧噪の中にいるより、こうして離れて遠くから眺めている方が、お祭りも客観的に見ることができる。
頂上近くの大きなもみの木までたどり着くと、みっこはその根元に腰を降ろした。
「さつきも座らない?」
そう言ってみっこは、自分の隣の草むらに、目をやる。
「ここって…」
「去年の学園祭の夜、ここからグラウンドのかがり火を見ながら、さつきといろんな話ししたわよね。懐かしいな~」
「ここがみっこの、寄りたかったところ?」
わたしの問いに、眼下のカーニバルを見つめながら、みっこはうなずいた。
つづく
そのとき、みっこが人ごみをかわしながら手を振って、小走りにこちらにやってくるのが見えた。
息を弾ませてわたしのそばに来たみっこは、わたしたちを見てにこやかに言う。
「あ。川島君といっしょだったんだ」
「こんにちは、みっこ」
冷ややかな視線から手のひらを返したように、川島君は親しげな笑顔をみっこに向けて、挨拶を返した。わたしへの態度とずいぶん違って感じるのは、気のせい?
「こんにちは川島君。いきなりだけど、さつきを借りてもいい?」
「え? …いきなりどうしたんだ?」
「ショーの最終リハの時間がちょっと早まったらしいの。もうすぐはじまるから、いっしょに行かない?」
「えっ? う、うん…」
わたしは戸惑った。
川島君とこういう状態で別れるのは、なんだか中途半端。
「どうしたの? さつき」
わたしがグズグズしているのを見て、みっこは不審そうに尋ねる。説明するかのように、川島君が口を挟んだ。
「さつきちゃん、今ちょっと、ご機嫌ななめなんだよ」
「どうして? けんかでもしてるの?」
「うん、ちょっと… ね。いろいろあって」
川島君はそう言って肩をすくめてみせ、みっこに目配せする。
そのとき、わたしは見逃さなかった。
みっこが、その『いろいろ』に反応して、どう切り返そうか一瞬迷うように、視線が泳いだのを。
なに? そのふたりの態度。
まるでみっこと川島君が、わたしにないしょで、なにか謀りあってるみたい。
それに、『今ちょっと、ご機嫌ななめ』って、まるで腫れ物を触るような、その言い方。
「別に、ご機嫌ななめとかじゃないわよ!」
イライラして、思わず声の調子を高めた。
今、川島祐二と森田美湖がわたしの目の前にいて、話しをしているのを見るのは、すごくイヤ。
わたしが知らない、東京や長崎でのふたりを妄想しちゃって、生理的な嫌悪感を感じてしまう。
なんとかしたい。
なんとかみんなの仲が壊れないように…
わたしが壊さないようにしなきゃいけない。
そんな気持ちはあるんだけど、どうしていいかわからない。
「いいわよみっこ。リハーサル行きましょ。さ!」
ふたりがいっしょにいる所を見なければ、少しは気が鎮まるかもしれない。
そう思って、わたしはみっこの腕を引っ張り、この場を離れようとした。
「さつきちゃん!」
川島君がわたしを呼び止める。
「川島君。わたしもうリハーサル行くから」
「じゃあ、ショーのあと、ロビーで待ってるからな。いい? さつきちゃん?!」
背中に川島君の声を受けながら、それを無視して、わたしはみっこを急かし、足早にアリーナへ向かった。
「さつき。ちょっと待って」
グラウンドを抜けて、キャンパスの裏の森の麓まで来たところで、みっこは足を止めた。
「ね。リハーサルまでは、まだ少し時間があるわ。あたし、ちょっと寄りたいところがあるの。さつきといっしょに」
そう言って、彼女はわたしを見つめて微笑み、ブラウスの袖をくいっと引っ張った。
「え? 寄りたいところ?」
「こっちよ」
みっこは行く先を指さし、キャンパスの裏の丘へ上がる森の小径に入っていった。いったいどこへ行くつもりなんだろ?
キャンパス全体が遠くまで見渡せる、小高い丘へ続く小径を、みっこは歩いていく。
頂上が近づくにつれて、カーニバルのざわめきも次第に遠くなり、風景画のようにゆったりと、わたしたちの足元に広がっていった。
さっきまでの喧噪の中にいるより、こうして離れて遠くから眺めている方が、お祭りも客観的に見ることができる。
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「さつきも座らない?」
そう言ってみっこは、自分の隣の草むらに、目をやる。
「ここって…」
「去年の学園祭の夜、ここからグラウンドのかがり火を見ながら、さつきといろんな話ししたわよね。懐かしいな~」
「ここがみっこの、寄りたかったところ?」
わたしの問いに、眼下のカーニバルを見つめながら、みっこはうなずいた。
つづく
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