223 / 300
18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 2
しおりを挟む
「もしかしてぼくと… 別れたい?」
「えっ?」
そんなこと、わたし…
考えたこともない。
わたしは強く、かぶりを振った。
不安そうな表情のまま、川島君はわたしの顔をのぞきこむ。
「ほんとに? でも、さつきちゃん。ぼくのこと避けてるだろ?
最近いろいろあったから、もうぼくのこと、嫌いになったのかなと思って…」
「そんなこと。ない」
「ほんとに?」
返事の代わりにうなずき、わたしは恐る恐る訊ねる。
「川島君こそ、わたしとは別れたいんじゃない?」
「そんなこと、あるわけないよ」
「わたしのこと、まだ好き?」
「『まだ』じゃない。ずっと好きだよ」
「ほんとに?」
「いつか海で約束したじゃないか。来年も再来年も、さつきちゃんの誕生日には花束を贈るって。ずっとずっと、さつきちゃんのことは、好きだよ」
「…ん」
そう言ってうなずいた瞬間、涙がこぼれそうになる。
そんなわたしの手を川島君はぎゅっと握りしめて、明るく言った。
「大丈夫だよ。なにも心配いらないって。今日は天気もいいし、思いっきり楽しもうな。今までのモヤモヤを全部吹き飛ばすくらいに、な!」
「うん」
やっぱりわたしは、この人が好き。
ディズニーランドのことや森田美湖のことなど、いろいろ不安で、訊いてみたいことはたくさんあるけど、それは今は置いといて、彼の言うとおり、今日こそは楽しい一日を、川島君といっしょに過ごしたい。
たこ焼きに焼き鳥、フライドポテト。
色とりどりのノボリの立った、賑やかな模擬店から漂ってくる、美味しそうな香り。
『ラムちゃん』やメイドさんなど、ちょっとエッチなコスプレ衣装をまとって、黄色い声を張り上げている呼び込みの可愛い女の子たち。
目についたお店で、川島君はいろんな食べ物を買ってくれた。
道ばたの大道芸にはいっしょに拍手を送り、わたしが行きたいと言った展示やイベントにも、快くつきあってくれて、いっしょに楽しんでくれる。
川島君の言ったとおり、今日の文化祭で過ごす時間が楽しくなるよう、いろいろ気を遣ってくれた。
そうやって尽くされると、わたしのわだかまりも少しずつ解けていき、川島君に向ける笑顔も、自然なものになっていくのを感じる。
よかった。
今日こうして、川島君とデートできて。
「よう、おふたりさん! 元気そうじゃないか」
「お邪魔してるわよ。川島君」
模擬店の店先でふたりでクリームソーダを飲んでいるとき、わたしたちに声をかけてきた人たちがいた。
振り向くとそこには、ディレクターの藤村さんとカメラマンの星川先生が、にこやかな表情で立っている。川島君は驚いて訊いた。
「星川先生。藤村さん。もう来られたんですか?」
「早い便で着いたんだよ。その分、ステージが終わったらとんぼ返りだけどな。ファッションショーの時間には、まだだいぶあるみたいだな」
「えっ? みっこのファッションショーを見に来られたんですか?」
わたしも驚いて藤村さんに尋ねる。
「そうだよ。みっこちゃんから招待券をもらったんだよ。彼女がステージに立つのなんて、ほんとに久し振りだからね。しかも注目の若手デザイナーのブランドって話じゃないか。今からショーが楽しみだよ」
「開演は6時からだけど、3時半からリハーサルがあるんです。もうすぐ楽屋に入るはずだから、藤村さんも行きませんか?」
「そうか。さつきちゃんもショーの手伝いするんだね。まあ、今はばたばたしているだろうから、終わったあとにでも、ゆっくり挨拶するよ」
「ショーは一般も撮影OKなんでしょ? わたしは観客席からこっそり、撮らせてもらうわ」
そう言いながら星川先生は、肩からかけた大きなカメラバッグを、ポンと叩いた。
「先生。そんなデカい一眼レフに長玉くっつけてちゃ、『こっそり』じゃないですよ」
川島君が星川先生を冷やかすと、先生はにこにこ微笑みながら応える。
「ショーもだけど、今日は川島君の返事も聞きたかったのよ」
「え? わざわざ、恐れ入ります」
星川先生の視線に少し照れるように、川島君はかしこまって言った。
『返事』って…
いったいなに?
つづく
「えっ?」
そんなこと、わたし…
考えたこともない。
わたしは強く、かぶりを振った。
不安そうな表情のまま、川島君はわたしの顔をのぞきこむ。
「ほんとに? でも、さつきちゃん。ぼくのこと避けてるだろ?
最近いろいろあったから、もうぼくのこと、嫌いになったのかなと思って…」
「そんなこと。ない」
「ほんとに?」
返事の代わりにうなずき、わたしは恐る恐る訊ねる。
「川島君こそ、わたしとは別れたいんじゃない?」
「そんなこと、あるわけないよ」
「わたしのこと、まだ好き?」
「『まだ』じゃない。ずっと好きだよ」
「ほんとに?」
「いつか海で約束したじゃないか。来年も再来年も、さつきちゃんの誕生日には花束を贈るって。ずっとずっと、さつきちゃんのことは、好きだよ」
「…ん」
そう言ってうなずいた瞬間、涙がこぼれそうになる。
そんなわたしの手を川島君はぎゅっと握りしめて、明るく言った。
「大丈夫だよ。なにも心配いらないって。今日は天気もいいし、思いっきり楽しもうな。今までのモヤモヤを全部吹き飛ばすくらいに、な!」
「うん」
やっぱりわたしは、この人が好き。
ディズニーランドのことや森田美湖のことなど、いろいろ不安で、訊いてみたいことはたくさんあるけど、それは今は置いといて、彼の言うとおり、今日こそは楽しい一日を、川島君といっしょに過ごしたい。
たこ焼きに焼き鳥、フライドポテト。
色とりどりのノボリの立った、賑やかな模擬店から漂ってくる、美味しそうな香り。
『ラムちゃん』やメイドさんなど、ちょっとエッチなコスプレ衣装をまとって、黄色い声を張り上げている呼び込みの可愛い女の子たち。
目についたお店で、川島君はいろんな食べ物を買ってくれた。
道ばたの大道芸にはいっしょに拍手を送り、わたしが行きたいと言った展示やイベントにも、快くつきあってくれて、いっしょに楽しんでくれる。
川島君の言ったとおり、今日の文化祭で過ごす時間が楽しくなるよう、いろいろ気を遣ってくれた。
そうやって尽くされると、わたしのわだかまりも少しずつ解けていき、川島君に向ける笑顔も、自然なものになっていくのを感じる。
よかった。
今日こうして、川島君とデートできて。
「よう、おふたりさん! 元気そうじゃないか」
「お邪魔してるわよ。川島君」
模擬店の店先でふたりでクリームソーダを飲んでいるとき、わたしたちに声をかけてきた人たちがいた。
振り向くとそこには、ディレクターの藤村さんとカメラマンの星川先生が、にこやかな表情で立っている。川島君は驚いて訊いた。
「星川先生。藤村さん。もう来られたんですか?」
「早い便で着いたんだよ。その分、ステージが終わったらとんぼ返りだけどな。ファッションショーの時間には、まだだいぶあるみたいだな」
「えっ? みっこのファッションショーを見に来られたんですか?」
わたしも驚いて藤村さんに尋ねる。
「そうだよ。みっこちゃんから招待券をもらったんだよ。彼女がステージに立つのなんて、ほんとに久し振りだからね。しかも注目の若手デザイナーのブランドって話じゃないか。今からショーが楽しみだよ」
「開演は6時からだけど、3時半からリハーサルがあるんです。もうすぐ楽屋に入るはずだから、藤村さんも行きませんか?」
「そうか。さつきちゃんもショーの手伝いするんだね。まあ、今はばたばたしているだろうから、終わったあとにでも、ゆっくり挨拶するよ」
「ショーは一般も撮影OKなんでしょ? わたしは観客席からこっそり、撮らせてもらうわ」
そう言いながら星川先生は、肩からかけた大きなカメラバッグを、ポンと叩いた。
「先生。そんなデカい一眼レフに長玉くっつけてちゃ、『こっそり』じゃないですよ」
川島君が星川先生を冷やかすと、先生はにこにこ微笑みながら応える。
「ショーもだけど、今日は川島君の返事も聞きたかったのよ」
「え? わざわざ、恐れ入ります」
星川先生の視線に少し照れるように、川島君はかしこまって言った。
『返事』って…
いったいなに?
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる