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17 しあわせの作り方
しあわせの作り方 10
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「お待たせ、みっこ」
彼女は、いた。
さっきまでの場所にいなくて一瞬焦ったけど、最初に会ったときのように、みっこはブランコに座って、わずかに揺らしながら、うつむいていた。
まだ公園にいてくれたことにホッと安心し、できるだけ明るくみっこの側に歩み寄る。
待っている間に、みっこも少しは気分が落ち着いたらしく、わたしに気がつくと立ち上がり、ちょっとぎこちなく、おそるおそるこちらを見返した。
「はい、これ」
わたしはトートバッグを差し出した。
「なあに? これ」
トートバッグを見つめて、みっこは訝しげに訊ねる。
「今日作ったケーキ。これ、みっこにあげる」
「え? いいの? でも…」
「いいのよ、気にしないで。どうせ気晴らしに作ったものだから、みっこが食べてくれると嬉しいから」
「ほんとに? ありがとう。嬉しい」
大事そうにトートバッグを受け取ったみっこは中を覗き込み、その瞬間、花が咲いたように明るい表情になった。
「わあ、美味しそう! すごく綺麗ね!」
「うん。久々の会心作なのよ」
「そんな… ほんとにもらってもいいの?」
「だから、いいんだって」
みっこはちょっと思案するように首をかしげたが、ふと、思いついたように言った。
「ね。ここでいっしょにこのケーキ、食べましょ」
「え? ここで?」
「ええ。会心のケーキだったら、さつきだって食べたいでしょうし。あたしもいっしょに食べたいし」
「でも、フォークとか、お皿とかないし」
「ちょっと待ってて。あそこのコンビニで買って来るから。あ、これ持ってて」
彼女はそう言うと、わたしの返事も待たず、トートバッグをわたしに預けて、煌々とあかりの灯っている公園前のコンビニに、駆けていった。
「はい。お待たせ。せっかくだから『午後の紅茶』も買ってきちゃった。やっぱりケーキにお茶はつきものよね」
コンビニから戻ったみっこは、そう言いながら近くのベンチに座り、トートバッグからケーキケースを大事そうに取り出す。
「なんだかもったいないわね。こんな可愛いケーキを、こんなとこで食べちゃうなんて。ナイフ入れてもいい?」
「もちろん、いいわよ」
クスッと笑いながら、みっこはコンビニで買ってきたプラスチックのナイフでケーキを切り分け、紙のお皿に載せる。
「いただきま~す」
そう言って手を合わせ、彼女はケーキを頬張る。
「ん。おししい! やっぱりさつきは、お菓子づくりの天才ね!」
もぐもぐさせた口に手を当てながら、みっこはわたしのケーキを褒めてくれた。
ナトリウム灯のオレンジ色の光が、みっこを向こうから照らしているので、その表情は影になってよく見えないけど、彼女の声は明るかった。
さっきまではあんなに激しく動揺していた彼女だったけど、ようやくふだんのみっこに戻れたのかな。
だったらいいんだけど。
つづく
彼女は、いた。
さっきまでの場所にいなくて一瞬焦ったけど、最初に会ったときのように、みっこはブランコに座って、わずかに揺らしながら、うつむいていた。
まだ公園にいてくれたことにホッと安心し、できるだけ明るくみっこの側に歩み寄る。
待っている間に、みっこも少しは気分が落ち着いたらしく、わたしに気がつくと立ち上がり、ちょっとぎこちなく、おそるおそるこちらを見返した。
「はい、これ」
わたしはトートバッグを差し出した。
「なあに? これ」
トートバッグを見つめて、みっこは訝しげに訊ねる。
「今日作ったケーキ。これ、みっこにあげる」
「え? いいの? でも…」
「いいのよ、気にしないで。どうせ気晴らしに作ったものだから、みっこが食べてくれると嬉しいから」
「ほんとに? ありがとう。嬉しい」
大事そうにトートバッグを受け取ったみっこは中を覗き込み、その瞬間、花が咲いたように明るい表情になった。
「わあ、美味しそう! すごく綺麗ね!」
「うん。久々の会心作なのよ」
「そんな… ほんとにもらってもいいの?」
「だから、いいんだって」
みっこはちょっと思案するように首をかしげたが、ふと、思いついたように言った。
「ね。ここでいっしょにこのケーキ、食べましょ」
「え? ここで?」
「ええ。会心のケーキだったら、さつきだって食べたいでしょうし。あたしもいっしょに食べたいし」
「でも、フォークとか、お皿とかないし」
「ちょっと待ってて。あそこのコンビニで買って来るから。あ、これ持ってて」
彼女はそう言うと、わたしの返事も待たず、トートバッグをわたしに預けて、煌々とあかりの灯っている公園前のコンビニに、駆けていった。
「はい。お待たせ。せっかくだから『午後の紅茶』も買ってきちゃった。やっぱりケーキにお茶はつきものよね」
コンビニから戻ったみっこは、そう言いながら近くのベンチに座り、トートバッグからケーキケースを大事そうに取り出す。
「なんだかもったいないわね。こんな可愛いケーキを、こんなとこで食べちゃうなんて。ナイフ入れてもいい?」
「もちろん、いいわよ」
クスッと笑いながら、みっこはコンビニで買ってきたプラスチックのナイフでケーキを切り分け、紙のお皿に載せる。
「いただきま~す」
そう言って手を合わせ、彼女はケーキを頬張る。
「ん。おししい! やっぱりさつきは、お菓子づくりの天才ね!」
もぐもぐさせた口に手を当てながら、みっこはわたしのケーキを褒めてくれた。
ナトリウム灯のオレンジ色の光が、みっこを向こうから照らしているので、その表情は影になってよく見えないけど、彼女の声は明るかった。
さっきまではあんなに激しく動揺していた彼女だったけど、ようやくふだんのみっこに戻れたのかな。
だったらいいんだけど。
つづく
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