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17 しあわせの作り方
しあわせの作り方 8
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「…あたしが、好きなのは…」
「え?」
「あたしが好きなのは……… 文哉さん」
消え入りそうな声で、みっこは告白した。
…意外。
あれほどかたくなに口を閉ざしていたみっこだったのに。
しかも相手は、予想どおりというか、望んだとおりというか…
とにかく、川島君じゃなかった。
「文哉さんって… 藤村文哉さん?」
「ええ」
「プロデューサーの?」
「そう」
「藤村さんって…」
「そう。結婚してる。だから… さつきにも言いづらかったの」
「わたし… モルディブで、みっこと藤村さんが、夜、外にいるのを見たわ」
「えっ?!」
わたしの言葉にみっこは目を丸くして、大袈裟な反応を見せた。
「実は最後の夜、わたしと川島君も夜の海で泳いでいて、わたしたちが帰るとき、藤村さんとみっこがホテルから出てくるのが、遠くからチラッと見えたのよ」
彼女の過敏な反応から、見たことを全部話してしまうのはやっぱりまずいと思い、適当にボカしておく。
「そ、そう…」
濡れ場を見られていなかったことに安堵したのか、彼女はほっと胸を撫で下ろした。わたしはカマをかけてみた。
「あのあと、みっこと藤村さんは、どこかに行ったの?」
「ええ… その辺でちょっとおしゃべりして、しばらくふたりで、夜の海を見てたの」
「それだけ?」
「ええ」
「ふ~ん…」
ちょっとショック。
みっこはわたしに、嘘をついた。
確かに厳密には、それは『嘘』とは違うかもしれない。
彼女お得意の、『嘘をついてるわけじゃないけど、ほんとのことも言ってない』っていう、はぐらし方。
そりゃあ、『藤村さんと夜の海を見てエッチした』なんて、言いづらいのはわかるけど、わたしたちは『親友』なんだから、彼女の口から、本当のことを打ち明けてほしかった。
なんとなく、奥歯にものがはさまったようなじれったさが残り、わたしの口調も辛辣になってくる。
「これから、みっこは藤村さんと、どうするつもり?」
「前にも言ったわ。『見込みはない』って」
「みっこはそれでいいの?」
「よくはないけど…」
「じゃあ、奪っちゃえば? 『恋と戦争は手段を選ばない』なんていうじゃない」
「相手の女の気持ちを考えると、そんなこと、できない」
「どうしてそんなに、いい子ぶるの?」
「そんな… いい子ぶってるわけじゃないわ」
「だったら、そんな八方塞がりの恋なんて、もうやめちゃえばいいのに。不毛じゃない」
「不毛だなんて… ひどい!」
「素直な感想言っただけよ。男なんていくらでもいるんだから、さっさと新しい恋探せばいいのよ。みっこならできると思うけどな」
その言葉で火がついたように、みっこは口をとがらせる。
「そんな簡単に言わないでよ。そうできるんだったら、あたしだってそうしたいわよ!」
感情を昂らせ、切羽詰まった顔で、彼女は一気に話しはじめた。
「そうしたいわよ! でもダメ。理性とはうらはらに、彼のこと、どんどん好きになっちゃって。
手に入れられない人だって… 入れちゃいけない人だって思うと、逆に想いが募ってきて、苦しいのよ。
会う度に、伝えたくなるこの気持ちを呑み込んで、胸がつかえて苦しくて、泣き出してしまいそうになるのを必死に抑えて、ふつうに接しているしかないのよ。
いっしょにどこかに行っても、いっしょになにかをしていても、ずっと相手の女の影を、彼のとなりにどうしても見ちゃって、申し訳ない気持ちと、罪悪感でいっぱいになって、何度も『もう会うまい』って心に決めるんだけど、それでも会えない苦しさの方が辛くて、他のなにでもその気持ちは埋められないのよ。
どうしようもないの。
どうしようもないのよ!」
溜まりに溜まった心のつかえを一気に出し終えると、みっこはその場にしゃがみ込み、ひざに顔を埋めて肩を震わせた。
「…」
わたしは黙ったまま、しゃがみこんでいるみっこの側に、立っていた。
つづく
「え?」
「あたしが好きなのは……… 文哉さん」
消え入りそうな声で、みっこは告白した。
…意外。
あれほどかたくなに口を閉ざしていたみっこだったのに。
しかも相手は、予想どおりというか、望んだとおりというか…
とにかく、川島君じゃなかった。
「文哉さんって… 藤村文哉さん?」
「ええ」
「プロデューサーの?」
「そう」
「藤村さんって…」
「そう。結婚してる。だから… さつきにも言いづらかったの」
「わたし… モルディブで、みっこと藤村さんが、夜、外にいるのを見たわ」
「えっ?!」
わたしの言葉にみっこは目を丸くして、大袈裟な反応を見せた。
「実は最後の夜、わたしと川島君も夜の海で泳いでいて、わたしたちが帰るとき、藤村さんとみっこがホテルから出てくるのが、遠くからチラッと見えたのよ」
彼女の過敏な反応から、見たことを全部話してしまうのはやっぱりまずいと思い、適当にボカしておく。
「そ、そう…」
濡れ場を見られていなかったことに安堵したのか、彼女はほっと胸を撫で下ろした。わたしはカマをかけてみた。
「あのあと、みっこと藤村さんは、どこかに行ったの?」
「ええ… その辺でちょっとおしゃべりして、しばらくふたりで、夜の海を見てたの」
「それだけ?」
「ええ」
「ふ~ん…」
ちょっとショック。
みっこはわたしに、嘘をついた。
確かに厳密には、それは『嘘』とは違うかもしれない。
彼女お得意の、『嘘をついてるわけじゃないけど、ほんとのことも言ってない』っていう、はぐらし方。
そりゃあ、『藤村さんと夜の海を見てエッチした』なんて、言いづらいのはわかるけど、わたしたちは『親友』なんだから、彼女の口から、本当のことを打ち明けてほしかった。
なんとなく、奥歯にものがはさまったようなじれったさが残り、わたしの口調も辛辣になってくる。
「これから、みっこは藤村さんと、どうするつもり?」
「前にも言ったわ。『見込みはない』って」
「みっこはそれでいいの?」
「よくはないけど…」
「じゃあ、奪っちゃえば? 『恋と戦争は手段を選ばない』なんていうじゃない」
「相手の女の気持ちを考えると、そんなこと、できない」
「どうしてそんなに、いい子ぶるの?」
「そんな… いい子ぶってるわけじゃないわ」
「だったら、そんな八方塞がりの恋なんて、もうやめちゃえばいいのに。不毛じゃない」
「不毛だなんて… ひどい!」
「素直な感想言っただけよ。男なんていくらでもいるんだから、さっさと新しい恋探せばいいのよ。みっこならできると思うけどな」
その言葉で火がついたように、みっこは口をとがらせる。
「そんな簡単に言わないでよ。そうできるんだったら、あたしだってそうしたいわよ!」
感情を昂らせ、切羽詰まった顔で、彼女は一気に話しはじめた。
「そうしたいわよ! でもダメ。理性とはうらはらに、彼のこと、どんどん好きになっちゃって。
手に入れられない人だって… 入れちゃいけない人だって思うと、逆に想いが募ってきて、苦しいのよ。
会う度に、伝えたくなるこの気持ちを呑み込んで、胸がつかえて苦しくて、泣き出してしまいそうになるのを必死に抑えて、ふつうに接しているしかないのよ。
いっしょにどこかに行っても、いっしょになにかをしていても、ずっと相手の女の影を、彼のとなりにどうしても見ちゃって、申し訳ない気持ちと、罪悪感でいっぱいになって、何度も『もう会うまい』って心に決めるんだけど、それでも会えない苦しさの方が辛くて、他のなにでもその気持ちは埋められないのよ。
どうしようもないの。
どうしようもないのよ!」
溜まりに溜まった心のつかえを一気に出し終えると、みっこはその場にしゃがみ込み、ひざに顔を埋めて肩を震わせた。
「…」
わたしは黙ったまま、しゃがみこんでいるみっこの側に、立っていた。
つづく
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