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茉莉 佳

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17 しあわせの作り方

しあわせの作り方 5

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「さっきも電話したのに、コールバックしてくれなかったのね」
「あ、ごめん。ちょっと手が離せなくて」
「いいんだけど… 昨日のリハ、『見に来る』ってさつき言ってたのに、来ないから心配になって、電話してみたのよ」
「ごめん。ちょっと、急用が入っちゃって、行けなくなったの」
「そう… 残念」
「あっ。わたし、今から出かける所だから」
「そうなの?」
「うん、ちょっと買い物に。ごめんね」
「…ううん。あたしこそ、いきなり電話しちゃって、ごめんね。またゆっくり、話ししようね。いろいろ相談したいこともあるし」
「そうね。じゃあ」
「…じゃあね」

よそよそしく電話を切って、わたしは買い物に出かけた。
トーンの下がった声のニュアンスから、みっこにはもう伝わっただろな。
わたしが彼女のこと、なんとなく避けてるのが。

もちろんわたしは、みっこのことが大好き。
いちばんの親友だと思っている。
だけど今は、彼女に対していろんなコンプレックスや嫉妬があって、まともに話せない。

みっこが、川島君の卒業展のモデルをした。

彼女の実力や容姿からすれば、それはなんの不思議もないことだけど、やっぱり、彼女が選ばれたことに嫉妬し、不安になってしまう。
川島祐二にとって、わたしは『恋人』ではあっても、『モデル』としての価値はないってこと。
そして、そんないきさつを、彼女から言ってもらえなかったことで、余計に寂しさと悔しさが募ってくる。
親友なのに、なんだか裏切られた気分。

 買い物の間中、そんな想いがエンドレスで、頭の中をグルグルまわり続けた。
こんなもやもやした気持ちでいるから、買い物から帰ってもしばらくはなにもする気がおこらず、わたしはベッドに転がったまま、ダラダラした時間を過ごてしまった。
ようやくケーキづくりにとりかかったのは、夕食も終わって、すっかり日も暮れてしまった頃。
母から『邪魔になるから、出しっ放しのケーキ道具をなんとかしなさい』と急かされて、わたしはようやく重い腰を上げ、ケーキづくりを再開させた。

生クリームをハンドミキサーで、軽く角が立つくらいに泡立てる。
そのクリームを、スポンジの表面にナッペしていき、残りのクリームは絞り出し袋に入れて、スポンジの上に形よく飾っていく。
買ってきたフルーツは、ゼラチンにシロップを混ぜたものでコーティングし、配色を考えながら、スポンジの上に盛っていく。
ちょっと大人な味にしたかったので、シロップにはリキュールを多めに入れてみた。
地味なスポンジづくりと違って、ナッペとデコレーションは、ケーキづくりでいちばん楽しい作業。
さっきまでの悶々とした気分も忘れて、わたしはケーキづくりに没頭していった。


「よし。できあがり!」

そう言って、思わず笑みがこぼれる。
今日のケーキはラズベリーとブルーベリー、グレープフルーツやキーウィをたっぷり使った、フルーツデコレーションケーキ。
生クリームはちょうどいいやわらかさで、絞り出した形も綺麗だし、フルーツもシロップでつややかに輝いて、おいしそう。
我ながらいい出来で、思わずほっこり、顔がほころんでしまった。
とそのとき、電話のベルが鳴り、
「さつき~電話よ。森田さんから」
と、お姉ちゃんが玄関から、わたしを大声で呼ぶ声がした。

「もしもし?」
「さつき…」
電話に出てみると、みっこの沈んだ声。
「何回もごめんね。さつき、今は時間、大丈夫?」
「うん。大丈夫だけど」
「あたし、今、さつきんに近い公園の公衆電話からかけてるの。ちょっと来られない?」
「えっ? 今から?」
「顔見て、話したいし」
「でも…」
「無理そうならいいわ。もう帰るから」
「ううん。さっきまでケーキ作ってて、ちょうど完成したところなの。今から着替えて、10分くらいで行けるけど」
わたしがそう答えると、みっこは少し安堵したような声になった。
「うん、待ってる。ごめんね。いきなり呼び出して」

手近にあったワンピースに着替えて、わたしは急いで公園に向かった。
いったいどうしたんだろう?
みっこの声は、なんだか物思いに耽るように、重く、沈んでいた。
なにか悩みでもあるんだろう?
話って…

つづく
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