211 / 300
17 しあわせの作り方
しあわせの作り方 2
しおりを挟む
「今、卒展用の写真を撮っているんだけど、みっこにそのモデルをお願いして、長崎まで行ったんだよ。
でも時間がなくて…
みっこは本業で忙しくて、スケジュールが合う日も限られてて、急に日程が決まって、さつきちゃんに声かけられなかったんだ。ごめん。悪いと思ってるよ」
「…どうして」
「え?」
「どうして言ってくれなかったの?」
「だから、日程が急に決まって」
「電話一本かけてくれればすむことじゃない? それともなにか、わたしに言えないことでもしてるの?」
「そんなことないよ」
「川島君。みっことつきあってるの?」
「え? なに言ってるんだ。そんなはずないじゃないか」
「みっこのこと、好きなの?」
「そりゃ… 好きだけど。それは友だちやモデルとしてで、別に恋愛感情はないよ」
「嘘」
「嘘じゃない。みっこには純粋に、ぼくの作品づくりのために、協力してもらってるんだ。だから、『好き』とか『つきあってる』とか、そんな風に受け取ってほしくないんだよ」
「…」
「昔、恵美ちゃんにモデルやってもらってたの、覚えてる?
恵美ちゃんもいいモデルだったけど、恋愛関係でもめて、酷い別れ方してしまったから、ぼくはその二の舞はしたくないんだ。
その点、みっこは一流のプロモデルで、ぼくなんかが撮らせてもらえるのは、奇跡みたいにありがたいことだよ。
彼女はカメラマンとの関わり方も心得ているし、さつきちゃんの親友だし、ぼくとさつきちゃんがつきあってるのを当然知ってるから、恵美ちゃんみたいに、恋愛絡みでゴタゴタしたりしないよ。
彼女とは、『モデルとカメラマン』として、きっちりやっていけるはずだよ」
「…」
「さつきちゃん?」
「…」
「聞いてる?」
「………わかった」
「え?」
「もういい」
「もういいって?」
「じゃあ。おやすみなさい」
「あ… ああ。ほんとにいいの?」
「うん」
「ほんとに納得してくれた?」
「ええ。おやすみなさい」
「ああ… おやすみ」
そう言って電話を切ったあと、わたしは無理に自分を納得させようとした。
彼の言うように、高校時代から去年の秋まで、川島君は蘭恵美さんに、恋愛感情抜きでモデルになってもらい、写真を撮っていた。
そのことで、回りからは冷やかされたり、下衆っぽい目で見られたりもした。
だけど、川島君にしてみれば、作品づくりのためにモデルの女の子とふたりっきりで出かけるのなんて、特別な意味を持たないことなんだ。
川島君はそうやって、『友だちとして』、『モデルとして』、女の子とつきあえる。
だからみっこのことも、『卒業展のモデル』と割り切って、長崎まで撮影に出かけた。
それだけなんだ。
理性で、自分にそう言い聞かせることはできる。
でも、心のどこかに、ざわざわした感情が残る。
森田美湖はもともとわたしの親友で、川島君はわたしを通して、彼女と仲良くなった。
なのに、そのわたしになんの伺いも立てず、みっこにモデルを頼んで、わたしが知らないうちにふたりだけで撮影に行くなんて、わたしだけのけ者にされたみたいで、気分が悪い。
川島君にはそういう、乙女心をわかってないような鈍感さがあるけど、自分の作品のできにこだわる彼には、そういう『友だちになった順番』なんて、多分、どうでもいいことなんだろうな。
つづく
でも時間がなくて…
みっこは本業で忙しくて、スケジュールが合う日も限られてて、急に日程が決まって、さつきちゃんに声かけられなかったんだ。ごめん。悪いと思ってるよ」
「…どうして」
「え?」
「どうして言ってくれなかったの?」
「だから、日程が急に決まって」
「電話一本かけてくれればすむことじゃない? それともなにか、わたしに言えないことでもしてるの?」
「そんなことないよ」
「川島君。みっことつきあってるの?」
「え? なに言ってるんだ。そんなはずないじゃないか」
「みっこのこと、好きなの?」
「そりゃ… 好きだけど。それは友だちやモデルとしてで、別に恋愛感情はないよ」
「嘘」
「嘘じゃない。みっこには純粋に、ぼくの作品づくりのために、協力してもらってるんだ。だから、『好き』とか『つきあってる』とか、そんな風に受け取ってほしくないんだよ」
「…」
「昔、恵美ちゃんにモデルやってもらってたの、覚えてる?
恵美ちゃんもいいモデルだったけど、恋愛関係でもめて、酷い別れ方してしまったから、ぼくはその二の舞はしたくないんだ。
その点、みっこは一流のプロモデルで、ぼくなんかが撮らせてもらえるのは、奇跡みたいにありがたいことだよ。
彼女はカメラマンとの関わり方も心得ているし、さつきちゃんの親友だし、ぼくとさつきちゃんがつきあってるのを当然知ってるから、恵美ちゃんみたいに、恋愛絡みでゴタゴタしたりしないよ。
彼女とは、『モデルとカメラマン』として、きっちりやっていけるはずだよ」
「…」
「さつきちゃん?」
「…」
「聞いてる?」
「………わかった」
「え?」
「もういい」
「もういいって?」
「じゃあ。おやすみなさい」
「あ… ああ。ほんとにいいの?」
「うん」
「ほんとに納得してくれた?」
「ええ。おやすみなさい」
「ああ… おやすみ」
そう言って電話を切ったあと、わたしは無理に自分を納得させようとした。
彼の言うように、高校時代から去年の秋まで、川島君は蘭恵美さんに、恋愛感情抜きでモデルになってもらい、写真を撮っていた。
そのことで、回りからは冷やかされたり、下衆っぽい目で見られたりもした。
だけど、川島君にしてみれば、作品づくりのためにモデルの女の子とふたりっきりで出かけるのなんて、特別な意味を持たないことなんだ。
川島君はそうやって、『友だちとして』、『モデルとして』、女の子とつきあえる。
だからみっこのことも、『卒業展のモデル』と割り切って、長崎まで撮影に出かけた。
それだけなんだ。
理性で、自分にそう言い聞かせることはできる。
でも、心のどこかに、ざわざわした感情が残る。
森田美湖はもともとわたしの親友で、川島君はわたしを通して、彼女と仲良くなった。
なのに、そのわたしになんの伺いも立てず、みっこにモデルを頼んで、わたしが知らないうちにふたりだけで撮影に行くなんて、わたしだけのけ者にされたみたいで、気分が悪い。
川島君にはそういう、乙女心をわかってないような鈍感さがあるけど、自分の作品のできにこだわる彼には、そういう『友だちになった順番』なんて、多分、どうでもいいことなんだろうな。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

チートなタブレットを持って快適異世界生活
ちびすけ
ファンタジー
勇者として召喚されたわけでもなく、神様のお告げがあったわけでもなく、トラックに轢かれたわけでもないのに、山崎健斗は突然十代半ばの少し幼い見た目の少年に転生していた。
この世界は魔法があるみたいだが、魔法を使うことが出来ないみたいだった。
しかし、手に持っていたタブレットの中に入っている『アプリ』のレベルを上げることによって、魔法を使う以上のことが出来るのに気付く。
ポイントを使ってアプリのレベルを上げ続ければ――ある意味チート。
しかし、そんなに簡単にレベルは上げられるはずもなく。
レベルを上げる毎に高くなるポイント(金額)にガクブルしつつ、地道に力を付けてお金を溜める努力をする。
そして――
掃除洗濯家事自炊が壊滅的な『暁』と言うパーティへ入り、美人エルフや綺麗なお姉さんの行動にドキドキしつつ、冒険者としてランクを上げたり魔法薬師と言う資格を取ったり、ハーネと言う可愛らしい魔獣を使役しながら、山崎健斗は快適生活を目指していく。
2024年1月4日まで毎日投稿。
(12月14日~31日まで深夜0時10分と朝8時10分、1日2回投稿となります。1月は1回投稿)
2019年第12回ファンタジー小説大賞「特別賞」受賞しました。
2020年1月に書籍化!
12月3巻発売
2021年6月4巻発売
7月コミカライズ1巻発売

私には、大切な人がいます。でも、この想いは告げないつもりです。――そのつもりだったのですが……まさかの展開です。
茉丗 薫
ライト文芸
5年前、神領舞白はフィギュアスケート一筋に生きることを決意した。
欧州から日本に一時帰国した彼女は、町中で思いがけない人物に出会う。
彼、蓮見日向は舞白の幼馴染で、そして……。
家族に顔を見せるだけのつもりだった一時帰国は、二人にとって思わぬ急展開につながるのだった――。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる