206 / 300
16 Double Game
Double Game 11
しおりを挟む
その日の講義は午前中で終わり、夕方からはアリーナでファッションショーのリハーサルをする予定になっていたので、わたしは手伝いに行くつもりにしていた。
みっこは今、東京に戻っているけど、リハーサルの時間に合わせて帰ってくるということだったので、それまでカフェテリアで時間を潰すことにして、わたしはいちばん窓ぎわのテーブルに席をとって、スナック菓子とジュースをお供に、鞄から文庫本を取り出して読みはじめた。
「…で、やっぱりそうだったのよ。わたし、びっくりしちゃったぁ!」
「すっご~い! それってゴシップじゃない?」
「そうなの。わたし、あいつとのデートより、そっちの方ばっかり気になってたわ。だってあんなダンドリ男、はじめっから本命じゃなかったし」
「でも、そんな所で森田美湖と遇うなんて、意外よね~」
『森田美湖』?
どのくらい本を読んでいただろう。
『森田美湖』というフレーズが不意に耳に入ってきて、わたしは思わず活字から目を離し、声のした方を振り返った。
少し向こうのテーブルでは、今風の女の子たちが数人、ドリンクを飲みながらたむろっていて、噂話に花を咲かせている。
「ね。ね。なんの話し?」
新しい女の子がやってきて、会話に加わる。
「あ。実はねわたし、この前のコンパで知り合った男と、長崎にドライブに行ったのよ。そいつはBMWに乗ってて割とお金持ちそうなんだけど、それを鼻にかけてて、クルマの中でも自慢話ばっかりでさ。
長崎で回った観光地も、『るるぶ』なんかに載ってるお勧めコースってのがみえみえなのに、いかにも知ったかぶりでウンチクたれてて、なんかシラけるのよね~。
食事とかも、お店調べてたんだったら、前もって予約しとけっつーの。おなかすいてるのに、連れてかれた中華レストランは満席で、ず~っと待たされてさぁ。
わたしが『他の店に行こう』って言うと、いきなりうろたえちゃって、『いちばん美味しいお店の料理を、君に食べさせたいんだよ』なんて、気取った言い訳しちゃってさ。しかもあまり美味しくないし。
きっと、自分の立てたマニュアルを変えられると、不安になるタイプなのね~。
そんな、融通が利かないくせに見栄っ張りな男とのデートなんて、疲れるばっかりで、全然盛り上がんなかったわよ」
「もう~。あんたの話しはいいからさ」
「あ、そっか」
他の子に突っ込まれ、彼女はちょっと話を区切ると、新しく加わった女の子に向かって、話しはじめた。
「それでね。グラバー園に行ったら、いたのよ。森田美湖が!」
「森田美湖って、最近テレビによく出てるモデルでしょ? この学校の子だって話だけど」
「そうそう! わたしもときどき講義室や学食で見かけるけど、もうほんっと綺麗なのよ!
顔なんてすっごく小さくて、スレンダーで脚が長くって。もう羨ましすぎるわ。さすがモデルやってるだけあって、着こなしもうまくて。あのセンスはふつうの子には、マネできないわね~」
「え~? たいしたことないよ。わたしはあまり好きじゃないな。そんなにすごいブランド服着てるわけでもないし、カッコとかいつも地味だし。だいいち、モデルのくせにチビじゃん。それなのに、近くで見るとツンとしてて、『わたしはあなたたちとは違うのよ』って感じで、全然親近感ないし」
「まあ、それはいいから。それで? 森田美湖がグラバー園にいたって?」
「そうなの。それが、カメラマンみたいな男の人といっしょだったのよ。洋館の前で撮影してたから、わたしも思わず『フォーカス』しちゃった」
「ええっ? 見せて見せて!」
「なに? ピンぼけでよくわかんないじゃない」
「これって、なにかのロケかなぁ。でもカメラマンの人、割とカッコよさそう」
「でも、ロケとかだったら、カメラマンがひとりってことないんじゃない?」
「そうよね。ふつう、ヘアメイクさんとかいるよね?」
「でしょ? 駐車場でも見かけたのよ。ほら、クルマに乗るところ」
「小さくってよくわかんないわね~」
「『フェスティバ』かぁ」
つづく
みっこは今、東京に戻っているけど、リハーサルの時間に合わせて帰ってくるということだったので、それまでカフェテリアで時間を潰すことにして、わたしはいちばん窓ぎわのテーブルに席をとって、スナック菓子とジュースをお供に、鞄から文庫本を取り出して読みはじめた。
「…で、やっぱりそうだったのよ。わたし、びっくりしちゃったぁ!」
「すっご~い! それってゴシップじゃない?」
「そうなの。わたし、あいつとのデートより、そっちの方ばっかり気になってたわ。だってあんなダンドリ男、はじめっから本命じゃなかったし」
「でも、そんな所で森田美湖と遇うなんて、意外よね~」
『森田美湖』?
どのくらい本を読んでいただろう。
『森田美湖』というフレーズが不意に耳に入ってきて、わたしは思わず活字から目を離し、声のした方を振り返った。
少し向こうのテーブルでは、今風の女の子たちが数人、ドリンクを飲みながらたむろっていて、噂話に花を咲かせている。
「ね。ね。なんの話し?」
新しい女の子がやってきて、会話に加わる。
「あ。実はねわたし、この前のコンパで知り合った男と、長崎にドライブに行ったのよ。そいつはBMWに乗ってて割とお金持ちそうなんだけど、それを鼻にかけてて、クルマの中でも自慢話ばっかりでさ。
長崎で回った観光地も、『るるぶ』なんかに載ってるお勧めコースってのがみえみえなのに、いかにも知ったかぶりでウンチクたれてて、なんかシラけるのよね~。
食事とかも、お店調べてたんだったら、前もって予約しとけっつーの。おなかすいてるのに、連れてかれた中華レストランは満席で、ず~っと待たされてさぁ。
わたしが『他の店に行こう』って言うと、いきなりうろたえちゃって、『いちばん美味しいお店の料理を、君に食べさせたいんだよ』なんて、気取った言い訳しちゃってさ。しかもあまり美味しくないし。
きっと、自分の立てたマニュアルを変えられると、不安になるタイプなのね~。
そんな、融通が利かないくせに見栄っ張りな男とのデートなんて、疲れるばっかりで、全然盛り上がんなかったわよ」
「もう~。あんたの話しはいいからさ」
「あ、そっか」
他の子に突っ込まれ、彼女はちょっと話を区切ると、新しく加わった女の子に向かって、話しはじめた。
「それでね。グラバー園に行ったら、いたのよ。森田美湖が!」
「森田美湖って、最近テレビによく出てるモデルでしょ? この学校の子だって話だけど」
「そうそう! わたしもときどき講義室や学食で見かけるけど、もうほんっと綺麗なのよ!
顔なんてすっごく小さくて、スレンダーで脚が長くって。もう羨ましすぎるわ。さすがモデルやってるだけあって、着こなしもうまくて。あのセンスはふつうの子には、マネできないわね~」
「え~? たいしたことないよ。わたしはあまり好きじゃないな。そんなにすごいブランド服着てるわけでもないし、カッコとかいつも地味だし。だいいち、モデルのくせにチビじゃん。それなのに、近くで見るとツンとしてて、『わたしはあなたたちとは違うのよ』って感じで、全然親近感ないし」
「まあ、それはいいから。それで? 森田美湖がグラバー園にいたって?」
「そうなの。それが、カメラマンみたいな男の人といっしょだったのよ。洋館の前で撮影してたから、わたしも思わず『フォーカス』しちゃった」
「ええっ? 見せて見せて!」
「なに? ピンぼけでよくわかんないじゃない」
「これって、なにかのロケかなぁ。でもカメラマンの人、割とカッコよさそう」
「でも、ロケとかだったら、カメラマンがひとりってことないんじゃない?」
「そうよね。ふつう、ヘアメイクさんとかいるよね?」
「でしょ? 駐車場でも見かけたのよ。ほら、クルマに乗るところ」
「小さくってよくわかんないわね~」
「『フェスティバ』かぁ」
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

御手洗さんの言うことには…
daisysacky
ライト文芸
ちょっと風変わりな女子高校生のお話です。
オムニバスストーリーなので、淡々としていますが、気楽な気分で読んでいただけると
ありがたいです。
時々、僕は透明になる
小原ききょう
青春
影の薄い僕と、7人の個性的、異能力な美少女たちとの間に繰り広げられる恋物語。
影の薄い僕はある日透明化した。
それは勉強中や授業中だったり、またデート中だったり、いつも突然だった。
原因が何なのか・・透明化できるのは僕だけなのか?
そして、僕の姿が見える人間と、見えない人間がいることを知る。その中間・・僕の姿が半透明に見える人間も・・その理由は?
もう一人の透明化できる人間の悲しく、切ない秘密を知った時、僕は・・
文芸サークルに入部した僕は、三角関係・・七角関係へと・・恋物語の渦中に入っていく。
時々、透明化する少女。
時々、人の思念が見える少女。
時々、人格乖離する少女。
ラブコメ的要素もありますが、
回想シーン等では暗く、挫折、鬱屈した青春に、
圧倒的な初恋、重い愛が描かれます。
(登場人物)
鈴木道雄・・主人公の男子高校生(2年2組)
鈴木ナミ・・妹(中学2年生)
水沢純子・・教室の窓際に座る初恋の女の子
加藤ゆかり・・左横に座るスポーツ万能女子
速水沙織・・後ろの席に座る眼鏡の文学女子 文芸サークル部長
小清水沙希・・最後尾に座る女の子 文芸サークル部員
青山灯里・・文芸サークル部員、孤高の高校3年生
石上純子・・中学3年の時の女子生徒
池永かおり・・文芸サークルの顧問、マドンナ先生
「本山中学」
百々五十六の小問集合
百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ
ランキング頑張りたい!!!
作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。
毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
JK版ダンシング【横須賀ストーリー】✨💕✨👩❤️💋👨✨💕過疎化の進む地元横須賀をダンスで復興へ✨💕
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
ライト文芸
ピンチをチャンスへ✨✨💕
日本一の過疎地『横須賀市』。地元女子高生が横須賀ネイビーパーカーをまとってダンスで復興へ。
ダジャレから始まった企画で横須賀市の『政策コンペ』へ出典することに。
JKが横須賀を変える。そして、日本を。
世界じゅうに……。
ダンスで逆境を切り開け!
透明の「扉」を開けて
美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。
ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。
自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。
知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。
特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。
悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。
この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。
ありがとう
今日も矛盾の中で生きる
全ての人々に。
光を。
石達と、自然界に 最大限の感謝を。

海洋学者は海を見ながら終わりを望む
TEKKON
ライト文芸
「リノア。もうそっちへ行ってもいいかな」
海洋学者は今は亡き妻にそう呟いた
※ 当作品は蝶尾出版社『1000文字小説』に掲載された作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる