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16 Double Game
Double Game 11
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その日の講義は午前中で終わり、夕方からはアリーナでファッションショーのリハーサルをする予定になっていたので、わたしは手伝いに行くつもりにしていた。
みっこは今、東京に戻っているけど、リハーサルの時間に合わせて帰ってくるということだったので、それまでカフェテリアで時間を潰すことにして、わたしはいちばん窓ぎわのテーブルに席をとって、スナック菓子とジュースをお供に、鞄から文庫本を取り出して読みはじめた。
「…で、やっぱりそうだったのよ。わたし、びっくりしちゃったぁ!」
「すっご~い! それってゴシップじゃない?」
「そうなの。わたし、あいつとのデートより、そっちの方ばっかり気になってたわ。だってあんなダンドリ男、はじめっから本命じゃなかったし」
「でも、そんな所で森田美湖と遇うなんて、意外よね~」
『森田美湖』?
どのくらい本を読んでいただろう。
『森田美湖』というフレーズが不意に耳に入ってきて、わたしは思わず活字から目を離し、声のした方を振り返った。
少し向こうのテーブルでは、今風の女の子たちが数人、ドリンクを飲みながらたむろっていて、噂話に花を咲かせている。
「ね。ね。なんの話し?」
新しい女の子がやってきて、会話に加わる。
「あ。実はねわたし、この前のコンパで知り合った男と、長崎にドライブに行ったのよ。そいつはBMWに乗ってて割とお金持ちそうなんだけど、それを鼻にかけてて、クルマの中でも自慢話ばっかりでさ。
長崎で回った観光地も、『るるぶ』なんかに載ってるお勧めコースってのがみえみえなのに、いかにも知ったかぶりでウンチクたれてて、なんかシラけるのよね~。
食事とかも、お店調べてたんだったら、前もって予約しとけっつーの。おなかすいてるのに、連れてかれた中華レストランは満席で、ず~っと待たされてさぁ。
わたしが『他の店に行こう』って言うと、いきなりうろたえちゃって、『いちばん美味しいお店の料理を、君に食べさせたいんだよ』なんて、気取った言い訳しちゃってさ。しかもあまり美味しくないし。
きっと、自分の立てたマニュアルを変えられると、不安になるタイプなのね~。
そんな、融通が利かないくせに見栄っ張りな男とのデートなんて、疲れるばっかりで、全然盛り上がんなかったわよ」
「もう~。あんたの話しはいいからさ」
「あ、そっか」
他の子に突っ込まれ、彼女はちょっと話を区切ると、新しく加わった女の子に向かって、話しはじめた。
「それでね。グラバー園に行ったら、いたのよ。森田美湖が!」
「森田美湖って、最近テレビによく出てるモデルでしょ? この学校の子だって話だけど」
「そうそう! わたしもときどき講義室や学食で見かけるけど、もうほんっと綺麗なのよ!
顔なんてすっごく小さくて、スレンダーで脚が長くって。もう羨ましすぎるわ。さすがモデルやってるだけあって、着こなしもうまくて。あのセンスはふつうの子には、マネできないわね~」
「え~? たいしたことないよ。わたしはあまり好きじゃないな。そんなにすごいブランド服着てるわけでもないし、カッコとかいつも地味だし。だいいち、モデルのくせにチビじゃん。それなのに、近くで見るとツンとしてて、『わたしはあなたたちとは違うのよ』って感じで、全然親近感ないし」
「まあ、それはいいから。それで? 森田美湖がグラバー園にいたって?」
「そうなの。それが、カメラマンみたいな男の人といっしょだったのよ。洋館の前で撮影してたから、わたしも思わず『フォーカス』しちゃった」
「ええっ? 見せて見せて!」
「なに? ピンぼけでよくわかんないじゃない」
「これって、なにかのロケかなぁ。でもカメラマンの人、割とカッコよさそう」
「でも、ロケとかだったら、カメラマンがひとりってことないんじゃない?」
「そうよね。ふつう、ヘアメイクさんとかいるよね?」
「でしょ? 駐車場でも見かけたのよ。ほら、クルマに乗るところ」
「小さくってよくわかんないわね~」
「『フェスティバ』かぁ」
つづく
みっこは今、東京に戻っているけど、リハーサルの時間に合わせて帰ってくるということだったので、それまでカフェテリアで時間を潰すことにして、わたしはいちばん窓ぎわのテーブルに席をとって、スナック菓子とジュースをお供に、鞄から文庫本を取り出して読みはじめた。
「…で、やっぱりそうだったのよ。わたし、びっくりしちゃったぁ!」
「すっご~い! それってゴシップじゃない?」
「そうなの。わたし、あいつとのデートより、そっちの方ばっかり気になってたわ。だってあんなダンドリ男、はじめっから本命じゃなかったし」
「でも、そんな所で森田美湖と遇うなんて、意外よね~」
『森田美湖』?
どのくらい本を読んでいただろう。
『森田美湖』というフレーズが不意に耳に入ってきて、わたしは思わず活字から目を離し、声のした方を振り返った。
少し向こうのテーブルでは、今風の女の子たちが数人、ドリンクを飲みながらたむろっていて、噂話に花を咲かせている。
「ね。ね。なんの話し?」
新しい女の子がやってきて、会話に加わる。
「あ。実はねわたし、この前のコンパで知り合った男と、長崎にドライブに行ったのよ。そいつはBMWに乗ってて割とお金持ちそうなんだけど、それを鼻にかけてて、クルマの中でも自慢話ばっかりでさ。
長崎で回った観光地も、『るるぶ』なんかに載ってるお勧めコースってのがみえみえなのに、いかにも知ったかぶりでウンチクたれてて、なんかシラけるのよね~。
食事とかも、お店調べてたんだったら、前もって予約しとけっつーの。おなかすいてるのに、連れてかれた中華レストランは満席で、ず~っと待たされてさぁ。
わたしが『他の店に行こう』って言うと、いきなりうろたえちゃって、『いちばん美味しいお店の料理を、君に食べさせたいんだよ』なんて、気取った言い訳しちゃってさ。しかもあまり美味しくないし。
きっと、自分の立てたマニュアルを変えられると、不安になるタイプなのね~。
そんな、融通が利かないくせに見栄っ張りな男とのデートなんて、疲れるばっかりで、全然盛り上がんなかったわよ」
「もう~。あんたの話しはいいからさ」
「あ、そっか」
他の子に突っ込まれ、彼女はちょっと話を区切ると、新しく加わった女の子に向かって、話しはじめた。
「それでね。グラバー園に行ったら、いたのよ。森田美湖が!」
「森田美湖って、最近テレビによく出てるモデルでしょ? この学校の子だって話だけど」
「そうそう! わたしもときどき講義室や学食で見かけるけど、もうほんっと綺麗なのよ!
顔なんてすっごく小さくて、スレンダーで脚が長くって。もう羨ましすぎるわ。さすがモデルやってるだけあって、着こなしもうまくて。あのセンスはふつうの子には、マネできないわね~」
「え~? たいしたことないよ。わたしはあまり好きじゃないな。そんなにすごいブランド服着てるわけでもないし、カッコとかいつも地味だし。だいいち、モデルのくせにチビじゃん。それなのに、近くで見るとツンとしてて、『わたしはあなたたちとは違うのよ』って感じで、全然親近感ないし」
「まあ、それはいいから。それで? 森田美湖がグラバー園にいたって?」
「そうなの。それが、カメラマンみたいな男の人といっしょだったのよ。洋館の前で撮影してたから、わたしも思わず『フォーカス』しちゃった」
「ええっ? 見せて見せて!」
「なに? ピンぼけでよくわかんないじゃない」
「これって、なにかのロケかなぁ。でもカメラマンの人、割とカッコよさそう」
「でも、ロケとかだったら、カメラマンがひとりってことないんじゃない?」
「そうよね。ふつう、ヘアメイクさんとかいるよね?」
「でしょ? 駐車場でも見かけたのよ。ほら、クルマに乗るところ」
「小さくってよくわかんないわね~」
「『フェスティバ』かぁ」
つづく
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