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16 Double Game
Double Game 4
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「みっこちゃんのボディラインって、ほんとに無駄がなくて、綺麗よね」
みっこの体をチェックしながら、小池さんはホレボレするように言う。みっこはちょっとはにかんだ。
「ありがとうございます。胸もムダがないでしょ」
「あははは。かたちはいいし、わたしはこのくらいの大きさがいちばん好きだけどね。デカ過ぎる胸じゃ、わたしのデザインするようなスレンダーで可愛い系の服には、似合わないしね」
「小池さんの服は、可愛さの中にも大人のフェミニンが漂ってて、ただの子供っぽいピンクじゃない、ミステリアスさがいいですよね」
「ありがと。今年のテーマは、『Misty Pink』にゴシックなイメージを加えて、中世っぽくしてみたのよ」
「そんな感じですね。レースとかフリルの使い方がとってもゴージャスで、お姫さまみたいで素敵です」
「ふふ。去年のネタをちょっと持ち越したんだけどね」
「去年は、すみませんでした」
「あ。いいのよ、もう。みっこちゃんは去年、モデル休業してたんでしょ? どうしてなの?」
作業をしながら、小池さんはさりげなく質問をしたけど、端でそれを聞いていたわたしは、ちょっとドキリとした。みっこはなんて答えるんだろ?
しかし彼女は、口のはしに笑みを浮かべながら、あっさりとした口調で返した。
「去年は失恋中で、『もうモデルなんてやらない』って、ふてくされてたんですよ」
「へぇ~? みっこちゃんでも、失恋なんてするんだ」
「ええ。あたしって、わがままで扱いにくい性格だから、もてないんですよね~」
「今、彼氏いないの?」
「募集中です。だれかいい人、いませんか?」
「あはは。わたしと同じね。まあ独り身同士、仲良くやりましょ☆」
小池さんは愉快そうに笑った。
そうやって、さらりと言えるみっこを見ていると,なんだか安心してしまう。
去年はあんなに引きずっていた藍沢氏への恋心も、みっこにはもう、『思い出』になってしまったんだろうな。
「よしっ。こんなもんかな。ちょっと回ってみて」
仮縫いしていたレースの糸をハサミで切ると、小池さんはポンとみっこの背中をたたく。
みっこはクルリと回る。
シーチングの生成りのトワルは重くて、のっそりと広がるだけだった。
「うん。いいわよ。じゃあ、待ち針が刺さってるから、怪我しないように脱いでね」
注意深くドレスを脱ぐみっこを手伝い、補正と仮縫いの終わったトワルのドレスを、小池さんはトルソーに着せた。
そこまでやって『ふぅ』とため息つき、小池さんはわたしの持ってきたクッキーをつまみながら、ようやく緊張から解き放たれたようなゆったりした表情で、自分の服に着替え終わったみっこに言った。
「お疲れさま。今日はだいぶはかどったわね」
「お疲れさまでした。小池さんはこのあと裁断に入るんでしょ」
「まあね。今日も午前様かなぁ」
「大変ですけど、頑張って下さい」
「そう言えばみっこちゃんも、この衣装合わせのあと、夜はアリーナでリハでしょ? ステージの方も大変そうね」
「そんなことないですよ。楽しいです」
「それにしても今回のショーは、面倒な演出考えたわね~。そりゃ、派手でいいでしょうけど。
モデルさんや裏方さんの負担も気遣ってほしかったわね。みっこちゃん、もうダンスの振りは覚えた?」
「バッチリですよ。期待してて下さい」
「さすがね~。みっこちゃんって、小さい頃からバレエやってたんでしょ」
「でも今回のダンスは、バレエとは全然違うんですよ。手の振りとかが独特で、最初はちょっと戸惑いました。なんでも元は、ゲイのダンスなんですって」
「ゲイか~。そりゃ本番が楽しみね。わたしたちは衣装製作で修羅場ってるから、リハは見に行けないけど、頑張ってね」
そう言って、小池さんはニコリと微笑んだ。
つづく
みっこの体をチェックしながら、小池さんはホレボレするように言う。みっこはちょっとはにかんだ。
「ありがとうございます。胸もムダがないでしょ」
「あははは。かたちはいいし、わたしはこのくらいの大きさがいちばん好きだけどね。デカ過ぎる胸じゃ、わたしのデザインするようなスレンダーで可愛い系の服には、似合わないしね」
「小池さんの服は、可愛さの中にも大人のフェミニンが漂ってて、ただの子供っぽいピンクじゃない、ミステリアスさがいいですよね」
「ありがと。今年のテーマは、『Misty Pink』にゴシックなイメージを加えて、中世っぽくしてみたのよ」
「そんな感じですね。レースとかフリルの使い方がとってもゴージャスで、お姫さまみたいで素敵です」
「ふふ。去年のネタをちょっと持ち越したんだけどね」
「去年は、すみませんでした」
「あ。いいのよ、もう。みっこちゃんは去年、モデル休業してたんでしょ? どうしてなの?」
作業をしながら、小池さんはさりげなく質問をしたけど、端でそれを聞いていたわたしは、ちょっとドキリとした。みっこはなんて答えるんだろ?
しかし彼女は、口のはしに笑みを浮かべながら、あっさりとした口調で返した。
「去年は失恋中で、『もうモデルなんてやらない』って、ふてくされてたんですよ」
「へぇ~? みっこちゃんでも、失恋なんてするんだ」
「ええ。あたしって、わがままで扱いにくい性格だから、もてないんですよね~」
「今、彼氏いないの?」
「募集中です。だれかいい人、いませんか?」
「あはは。わたしと同じね。まあ独り身同士、仲良くやりましょ☆」
小池さんは愉快そうに笑った。
そうやって、さらりと言えるみっこを見ていると,なんだか安心してしまう。
去年はあんなに引きずっていた藍沢氏への恋心も、みっこにはもう、『思い出』になってしまったんだろうな。
「よしっ。こんなもんかな。ちょっと回ってみて」
仮縫いしていたレースの糸をハサミで切ると、小池さんはポンとみっこの背中をたたく。
みっこはクルリと回る。
シーチングの生成りのトワルは重くて、のっそりと広がるだけだった。
「うん。いいわよ。じゃあ、待ち針が刺さってるから、怪我しないように脱いでね」
注意深くドレスを脱ぐみっこを手伝い、補正と仮縫いの終わったトワルのドレスを、小池さんはトルソーに着せた。
そこまでやって『ふぅ』とため息つき、小池さんはわたしの持ってきたクッキーをつまみながら、ようやく緊張から解き放たれたようなゆったりした表情で、自分の服に着替え終わったみっこに言った。
「お疲れさま。今日はだいぶはかどったわね」
「お疲れさまでした。小池さんはこのあと裁断に入るんでしょ」
「まあね。今日も午前様かなぁ」
「大変ですけど、頑張って下さい」
「そう言えばみっこちゃんも、この衣装合わせのあと、夜はアリーナでリハでしょ? ステージの方も大変そうね」
「そんなことないですよ。楽しいです」
「それにしても今回のショーは、面倒な演出考えたわね~。そりゃ、派手でいいでしょうけど。
モデルさんや裏方さんの負担も気遣ってほしかったわね。みっこちゃん、もうダンスの振りは覚えた?」
「バッチリですよ。期待してて下さい」
「さすがね~。みっこちゃんって、小さい頃からバレエやってたんでしょ」
「でも今回のダンスは、バレエとは全然違うんですよ。手の振りとかが独特で、最初はちょっと戸惑いました。なんでも元は、ゲイのダンスなんですって」
「ゲイか~。そりゃ本番が楽しみね。わたしたちは衣装製作で修羅場ってるから、リハは見に行けないけど、頑張ってね」
そう言って、小池さんはニコリと微笑んだ。
つづく
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