198 / 300
16 Double Game
Double Game 3
しおりを挟む
放課後の広い被服科教室には大勢の学生がいて、賑やかだった。
テーブルや壁にはデザイン画や布地、ボタンやレースの端切れなんかが散乱していて、ファッションショー前の追い込みの慌ただしさを物語っている。
みんなそれぞれ、トルソーに衣装を飾りつけたり、一心不乱にビーズの刺繍をしていたり、ミシンでドレスを縫ったりしている。
文化祭まであと少しのせいか、みんな必死の形相で製作に取り組んでいて、教室全体がピリピリした空気に包まれていた。
文化祭のフッションショーは、去年と同じように、数人でチームを組んで、それぞれが決めたコンセプトに合わせて、数着の服を作っているという話だった。
小池さんのチーム『Misty Pink』は、デザインとパターンを彼女がひとりでやっていて、それをアシストする形で、縫い子さんが4人ほどついている。
出展する服のコンセプトやデザインを、メンバーみんなで決めている他のチームと違って、『Misty Pink』は小池さんのワンマンチーム。
さすが学園のファッションコンクールでグランプリをとって、『毎日ファッション・コンクール』にも入賞しているカリスマデザイナーだけあって、それでも『小池さんのチームに入りたい』という学生は多く、縫い子さんのレベルは高かった。
『フィッター』とはいっても、それはショーのときの裏方で、わたしには服を作る技術なんてもちろんないから、製作の手伝いはできない。
だけど、服を作っていく過程には興味があったから、こうやって時々、みんなの邪魔にならないように、差し入れのお菓子を持ってきたり、ちょっとした雑用係をさせてもらっている。
白い生地でできたドレスをみっこに着せて、小池さんは服のディテールやシルエットをチェックしている。
ひとりごとをつぶやきながら、彼女は所々に待ち針や安全ピンを打っていく。それはとっても真剣な眼差しで、緊張感が漂っている。その隣では縫い子さんに選ばれたミキちゃんが、小池さんの手伝いをしていた。
「小池さん、このドレス、まだトワルじゃないですか? 本番までもう二週間もないけど、間に合うんですか?」
みっこは小池さんに言われるまま、腕を広げたり、首をかしげたりしながら訊いた。デザイン画を見ながら、わたしはみっこに訊いた。
「トワルって?」
「デザインやサイズを調整するための、仮縫いの衣装のことよ。型紙ができたからって、いきなり本番用の布を裁断するわけじゃないのよ」
そんな仮縫い用の生地でできたドレスの袖に、レースを軽く縫いつけながら、小池さんは自信ありげに言う。
「大丈夫。これで最後の一着だし、いざとなったら徹夜でも何でもして、絶対間に合わせるから。残りのドレスはほとんど完成してるしね」
「でも、小池さん、すごいです。今回8着も出品するなんて」
「みっこちゃんがモデルだと、いろいろイメージが湧いてきちゃってね。欲張りすぎかなと思ったけど、構成上どれも削れないし。それにアシストさんたちがみんな優秀で、仕事が速いから、なんとかなりそうよ」
そう言いながら小池さんは、となりで作業をしているミキちゃんに、微笑みかけた。
「わたし、尊敬する小池さんのアシスタントになれて、ほんとにラッキーです。こうやって小池さんのお仕事を手伝っていると、いろいろ勉強になることばかりなんです」
ミキちゃんは頬を上気させて嬉しそうに言い、小池さんのレースの取りつけ位置を見ながら、反対の袖に仮縫いしていく。
つづく
テーブルや壁にはデザイン画や布地、ボタンやレースの端切れなんかが散乱していて、ファッションショー前の追い込みの慌ただしさを物語っている。
みんなそれぞれ、トルソーに衣装を飾りつけたり、一心不乱にビーズの刺繍をしていたり、ミシンでドレスを縫ったりしている。
文化祭まであと少しのせいか、みんな必死の形相で製作に取り組んでいて、教室全体がピリピリした空気に包まれていた。
文化祭のフッションショーは、去年と同じように、数人でチームを組んで、それぞれが決めたコンセプトに合わせて、数着の服を作っているという話だった。
小池さんのチーム『Misty Pink』は、デザインとパターンを彼女がひとりでやっていて、それをアシストする形で、縫い子さんが4人ほどついている。
出展する服のコンセプトやデザインを、メンバーみんなで決めている他のチームと違って、『Misty Pink』は小池さんのワンマンチーム。
さすが学園のファッションコンクールでグランプリをとって、『毎日ファッション・コンクール』にも入賞しているカリスマデザイナーだけあって、それでも『小池さんのチームに入りたい』という学生は多く、縫い子さんのレベルは高かった。
『フィッター』とはいっても、それはショーのときの裏方で、わたしには服を作る技術なんてもちろんないから、製作の手伝いはできない。
だけど、服を作っていく過程には興味があったから、こうやって時々、みんなの邪魔にならないように、差し入れのお菓子を持ってきたり、ちょっとした雑用係をさせてもらっている。
白い生地でできたドレスをみっこに着せて、小池さんは服のディテールやシルエットをチェックしている。
ひとりごとをつぶやきながら、彼女は所々に待ち針や安全ピンを打っていく。それはとっても真剣な眼差しで、緊張感が漂っている。その隣では縫い子さんに選ばれたミキちゃんが、小池さんの手伝いをしていた。
「小池さん、このドレス、まだトワルじゃないですか? 本番までもう二週間もないけど、間に合うんですか?」
みっこは小池さんに言われるまま、腕を広げたり、首をかしげたりしながら訊いた。デザイン画を見ながら、わたしはみっこに訊いた。
「トワルって?」
「デザインやサイズを調整するための、仮縫いの衣装のことよ。型紙ができたからって、いきなり本番用の布を裁断するわけじゃないのよ」
そんな仮縫い用の生地でできたドレスの袖に、レースを軽く縫いつけながら、小池さんは自信ありげに言う。
「大丈夫。これで最後の一着だし、いざとなったら徹夜でも何でもして、絶対間に合わせるから。残りのドレスはほとんど完成してるしね」
「でも、小池さん、すごいです。今回8着も出品するなんて」
「みっこちゃんがモデルだと、いろいろイメージが湧いてきちゃってね。欲張りすぎかなと思ったけど、構成上どれも削れないし。それにアシストさんたちがみんな優秀で、仕事が速いから、なんとかなりそうよ」
そう言いながら小池さんは、となりで作業をしているミキちゃんに、微笑みかけた。
「わたし、尊敬する小池さんのアシスタントになれて、ほんとにラッキーです。こうやって小池さんのお仕事を手伝っていると、いろいろ勉強になることばかりなんです」
ミキちゃんは頬を上気させて嬉しそうに言い、小池さんのレースの取りつけ位置を見ながら、反対の袖に仮縫いしていく。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
医者兄と病院脱出の妹(フリー台本)
在
ライト文芸
生まれて初めて大病を患い入院中の妹
退院が決まり、試しの外出と称して病院を抜け出し友達と脱走
行きたかったカフェへ
それが、主治医の兄に見つかり、その後体調急変
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる