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16 Double Game
Double Game 3
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放課後の広い被服科教室には大勢の学生がいて、賑やかだった。
テーブルや壁にはデザイン画や布地、ボタンやレースの端切れなんかが散乱していて、ファッションショー前の追い込みの慌ただしさを物語っている。
みんなそれぞれ、トルソーに衣装を飾りつけたり、一心不乱にビーズの刺繍をしていたり、ミシンでドレスを縫ったりしている。
文化祭まであと少しのせいか、みんな必死の形相で製作に取り組んでいて、教室全体がピリピリした空気に包まれていた。
文化祭のフッションショーは、去年と同じように、数人でチームを組んで、それぞれが決めたコンセプトに合わせて、数着の服を作っているという話だった。
小池さんのチーム『Misty Pink』は、デザインとパターンを彼女がひとりでやっていて、それをアシストする形で、縫い子さんが4人ほどついている。
出展する服のコンセプトやデザインを、メンバーみんなで決めている他のチームと違って、『Misty Pink』は小池さんのワンマンチーム。
さすが学園のファッションコンクールでグランプリをとって、『毎日ファッション・コンクール』にも入賞しているカリスマデザイナーだけあって、それでも『小池さんのチームに入りたい』という学生は多く、縫い子さんのレベルは高かった。
『フィッター』とはいっても、それはショーのときの裏方で、わたしには服を作る技術なんてもちろんないから、製作の手伝いはできない。
だけど、服を作っていく過程には興味があったから、こうやって時々、みんなの邪魔にならないように、差し入れのお菓子を持ってきたり、ちょっとした雑用係をさせてもらっている。
白い生地でできたドレスをみっこに着せて、小池さんは服のディテールやシルエットをチェックしている。
ひとりごとをつぶやきながら、彼女は所々に待ち針や安全ピンを打っていく。それはとっても真剣な眼差しで、緊張感が漂っている。その隣では縫い子さんに選ばれたミキちゃんが、小池さんの手伝いをしていた。
「小池さん、このドレス、まだトワルじゃないですか? 本番までもう二週間もないけど、間に合うんですか?」
みっこは小池さんに言われるまま、腕を広げたり、首をかしげたりしながら訊いた。デザイン画を見ながら、わたしはみっこに訊いた。
「トワルって?」
「デザインやサイズを調整するための、仮縫いの衣装のことよ。型紙ができたからって、いきなり本番用の布を裁断するわけじゃないのよ」
そんな仮縫い用の生地でできたドレスの袖に、レースを軽く縫いつけながら、小池さんは自信ありげに言う。
「大丈夫。これで最後の一着だし、いざとなったら徹夜でも何でもして、絶対間に合わせるから。残りのドレスはほとんど完成してるしね」
「でも、小池さん、すごいです。今回8着も出品するなんて」
「みっこちゃんがモデルだと、いろいろイメージが湧いてきちゃってね。欲張りすぎかなと思ったけど、構成上どれも削れないし。それにアシストさんたちがみんな優秀で、仕事が速いから、なんとかなりそうよ」
そう言いながら小池さんは、となりで作業をしているミキちゃんに、微笑みかけた。
「わたし、尊敬する小池さんのアシスタントになれて、ほんとにラッキーです。こうやって小池さんのお仕事を手伝っていると、いろいろ勉強になることばかりなんです」
ミキちゃんは頬を上気させて嬉しそうに言い、小池さんのレースの取りつけ位置を見ながら、反対の袖に仮縫いしていく。
つづく
テーブルや壁にはデザイン画や布地、ボタンやレースの端切れなんかが散乱していて、ファッションショー前の追い込みの慌ただしさを物語っている。
みんなそれぞれ、トルソーに衣装を飾りつけたり、一心不乱にビーズの刺繍をしていたり、ミシンでドレスを縫ったりしている。
文化祭まであと少しのせいか、みんな必死の形相で製作に取り組んでいて、教室全体がピリピリした空気に包まれていた。
文化祭のフッションショーは、去年と同じように、数人でチームを組んで、それぞれが決めたコンセプトに合わせて、数着の服を作っているという話だった。
小池さんのチーム『Misty Pink』は、デザインとパターンを彼女がひとりでやっていて、それをアシストする形で、縫い子さんが4人ほどついている。
出展する服のコンセプトやデザインを、メンバーみんなで決めている他のチームと違って、『Misty Pink』は小池さんのワンマンチーム。
さすが学園のファッションコンクールでグランプリをとって、『毎日ファッション・コンクール』にも入賞しているカリスマデザイナーだけあって、それでも『小池さんのチームに入りたい』という学生は多く、縫い子さんのレベルは高かった。
『フィッター』とはいっても、それはショーのときの裏方で、わたしには服を作る技術なんてもちろんないから、製作の手伝いはできない。
だけど、服を作っていく過程には興味があったから、こうやって時々、みんなの邪魔にならないように、差し入れのお菓子を持ってきたり、ちょっとした雑用係をさせてもらっている。
白い生地でできたドレスをみっこに着せて、小池さんは服のディテールやシルエットをチェックしている。
ひとりごとをつぶやきながら、彼女は所々に待ち針や安全ピンを打っていく。それはとっても真剣な眼差しで、緊張感が漂っている。その隣では縫い子さんに選ばれたミキちゃんが、小池さんの手伝いをしていた。
「小池さん、このドレス、まだトワルじゃないですか? 本番までもう二週間もないけど、間に合うんですか?」
みっこは小池さんに言われるまま、腕を広げたり、首をかしげたりしながら訊いた。デザイン画を見ながら、わたしはみっこに訊いた。
「トワルって?」
「デザインやサイズを調整するための、仮縫いの衣装のことよ。型紙ができたからって、いきなり本番用の布を裁断するわけじゃないのよ」
そんな仮縫い用の生地でできたドレスの袖に、レースを軽く縫いつけながら、小池さんは自信ありげに言う。
「大丈夫。これで最後の一着だし、いざとなったら徹夜でも何でもして、絶対間に合わせるから。残りのドレスはほとんど完成してるしね」
「でも、小池さん、すごいです。今回8着も出品するなんて」
「みっこちゃんがモデルだと、いろいろイメージが湧いてきちゃってね。欲張りすぎかなと思ったけど、構成上どれも削れないし。それにアシストさんたちがみんな優秀で、仕事が速いから、なんとかなりそうよ」
そう言いながら小池さんは、となりで作業をしているミキちゃんに、微笑みかけた。
「わたし、尊敬する小池さんのアシスタントになれて、ほんとにラッキーです。こうやって小池さんのお仕事を手伝っていると、いろいろ勉強になることばかりなんです」
ミキちゃんは頬を上気させて嬉しそうに言い、小池さんのレースの取りつけ位置を見ながら、反対の袖に仮縫いしていく。
つづく
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