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14 Summer Vacation
Summer Vacation 19
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ふたりの間に流れる空気が、なんだか気まずい。
こんなことって、今までほとんどなかった。
出会った頃やつきあいはじめは、気恥ずかしさが先にたって、ふたりとも思わず無口になることもあったけど、いろんなことをひととおり経験して、なんでもざっくばらんに話せるようになった今、こういう空気が澱んだ沈黙は、不安になってしまう。
川島君と離れていた1ヶ月ちょっと。
その間にわたしたちには、予想外のブランクができてしまったのかもしれない。
駅で別れ際の川島君は、みっこのことを色っぽい目で見ていたし、みっこも川島君との別れが惜しい様子だった。
わたしのことなんて、上の空。
そう言えば、九重のときと違って、川島君は旅行の間、みっこの写真を遠慮なく撮っていたし、みっこも川島君に対して、夏休み前より気安くなっている気がする。
今夜だって、ほんとの『邪魔者』は、実はわたしの方で、もしかして、川島祐二と森田美湖は、すっかりいい仲になっていて、川島君はわたしのことなんて、もう、どうでもよくなってるんじゃないの?
東京なんかに、来るんじゃなかった。
わざわざ、そんな辛い事実を確かめるために来るなんて、バカみたい。
そんなことを妄想しながら、わたしは川島君のあとを、トボトボとついていった。
駅から10分ほど歩いたところに、川島君が住んでいる小さなアパートがあった。
学生コーポって感じの、どこにでもあるような、外に階段のついた二階建ての白い建物。
川島君はわたしより先に階段を登ると、玄関のドアを開けながら言う。
「さつきちゃん、ちょっとここで待ってて」
「え?」
「今、部屋の中、すっごい散らかってるんだよ。最近は仕事が忙しくて片づける暇もなくて。まさか今夜、さつきちゃんが来るなんて思わなかったから、大急ぎで片づけるよ」
「わたしも手伝うわよ」
「いいよいいよ。仕事の写真とか、機材とか、人に触られたくないものもあるし、すぐに終わるから」
そう言いながら川島君は部屋に入り、わたしの鼻先でバタンとドアを閉じた。
部屋の中からはドタンバタンと、慌てて片づけをしているような音が響いてくる。
なんだか、釈然としない。
そりゃ、男の人のひとり暮らしって、掃除も怠りがちかもしれないけど、わたしにも部屋を見せられないなんて…
いったい川島君は、なにを隠そうとしているの?
まさか、女ものの下着とか、歯ブラシとか化粧品とか…
悪い方にばかり、考えがいってしまう。
「お待たせ。どうぞ」
しばらく外で待たされたあと、川島君は息を弾ませながら、ドアを開けた。額や背中には、うっすらと汗が滲んでいる。
部屋に入ったわたしは無意識に、チェックするようにあたりを見渡した。
ほとんど家具のない1DKのこじんまりとした部屋は、いかにも『目障りなものは全部、押し入れに突っ込みました』って感じで、不自然に綺麗で、生活感がない。
「ふうん。川島君、こんなところに住んでるのね」
簡単なベッドと机のある部屋に通されたわたしは、ひとりごとのようにそう言って、川島君が出した座布団に座るなり、口をとがらせた。
「川島君、わたしに見せられないものでもあるの?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ、部屋を片づける前に、わたしを入れてくれてもいいじゃない。なんだかショックだった」
「…いや。やっぱり見せられないな」
「え?」
「ダメなんだよ」
その言葉に、ドキリとする。
『ダメ』って…
川島君はなにを言いたいの?
まさか、『わたしたちはもうダメ』なんて言うんじゃ…
つづく
こんなことって、今までほとんどなかった。
出会った頃やつきあいはじめは、気恥ずかしさが先にたって、ふたりとも思わず無口になることもあったけど、いろんなことをひととおり経験して、なんでもざっくばらんに話せるようになった今、こういう空気が澱んだ沈黙は、不安になってしまう。
川島君と離れていた1ヶ月ちょっと。
その間にわたしたちには、予想外のブランクができてしまったのかもしれない。
駅で別れ際の川島君は、みっこのことを色っぽい目で見ていたし、みっこも川島君との別れが惜しい様子だった。
わたしのことなんて、上の空。
そう言えば、九重のときと違って、川島君は旅行の間、みっこの写真を遠慮なく撮っていたし、みっこも川島君に対して、夏休み前より気安くなっている気がする。
今夜だって、ほんとの『邪魔者』は、実はわたしの方で、もしかして、川島祐二と森田美湖は、すっかりいい仲になっていて、川島君はわたしのことなんて、もう、どうでもよくなってるんじゃないの?
東京なんかに、来るんじゃなかった。
わざわざ、そんな辛い事実を確かめるために来るなんて、バカみたい。
そんなことを妄想しながら、わたしは川島君のあとを、トボトボとついていった。
駅から10分ほど歩いたところに、川島君が住んでいる小さなアパートがあった。
学生コーポって感じの、どこにでもあるような、外に階段のついた二階建ての白い建物。
川島君はわたしより先に階段を登ると、玄関のドアを開けながら言う。
「さつきちゃん、ちょっとここで待ってて」
「え?」
「今、部屋の中、すっごい散らかってるんだよ。最近は仕事が忙しくて片づける暇もなくて。まさか今夜、さつきちゃんが来るなんて思わなかったから、大急ぎで片づけるよ」
「わたしも手伝うわよ」
「いいよいいよ。仕事の写真とか、機材とか、人に触られたくないものもあるし、すぐに終わるから」
そう言いながら川島君は部屋に入り、わたしの鼻先でバタンとドアを閉じた。
部屋の中からはドタンバタンと、慌てて片づけをしているような音が響いてくる。
なんだか、釈然としない。
そりゃ、男の人のひとり暮らしって、掃除も怠りがちかもしれないけど、わたしにも部屋を見せられないなんて…
いったい川島君は、なにを隠そうとしているの?
まさか、女ものの下着とか、歯ブラシとか化粧品とか…
悪い方にばかり、考えがいってしまう。
「お待たせ。どうぞ」
しばらく外で待たされたあと、川島君は息を弾ませながら、ドアを開けた。額や背中には、うっすらと汗が滲んでいる。
部屋に入ったわたしは無意識に、チェックするようにあたりを見渡した。
ほとんど家具のない1DKのこじんまりとした部屋は、いかにも『目障りなものは全部、押し入れに突っ込みました』って感じで、不自然に綺麗で、生活感がない。
「ふうん。川島君、こんなところに住んでるのね」
簡単なベッドと机のある部屋に通されたわたしは、ひとりごとのようにそう言って、川島君が出した座布団に座るなり、口をとがらせた。
「川島君、わたしに見せられないものでもあるの?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ、部屋を片づける前に、わたしを入れてくれてもいいじゃない。なんだかショックだった」
「…いや。やっぱり見せられないな」
「え?」
「ダメなんだよ」
その言葉に、ドキリとする。
『ダメ』って…
川島君はなにを言いたいの?
まさか、『わたしたちはもうダメ』なんて言うんじゃ…
つづく
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