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14 Summer Vacation
Summer Vacation 14
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チェックインを済ませ、二階の部屋でひと心地ついたあとは、すぐに食事タイム。
マントルピースのあるダイニングルームで食べるフレンチ・ディナーは、とっても美味しくて、洒落ていた。藤村さんはソムリエに、ワインを見立ててもらっている。
「こちらでいかがでしょうか? ブルゴーニュ産の85年ものになります。グランクリュの畑から採れた最高級のピノ・ノワールを使用しており、繊細で優雅でフルーティな特徴を持つブルゴーニュワインの神髄を、よくお楽しみ頂ける逸品でございます」
ソムリエはワインのラベルを藤村さんに見せながら、慣れた手さばきでコルクの栓を抜き、香りをかいだあと、グラスに赤い液体を少し注ぎ、藤村さんに差し出した。ワインボトルのラベルを確認するように眺めた藤村さんは、グラスを揺らして、味わうように少しだけ口に含む。
「畑名のワインなんだね。うん。いい香りだ。ボディは強いけど、ふくよかで飲みやすい。これを頂くよ」
藤村さんはそう言いながら、『かしこまりました』と言うソムリエに、『いいワインをありがとう』とお礼を言って、微笑んだ。
そうやって、ワインを選んでいるところなんかを見ていると、やっぱり藤村さんって、素敵なおじさまだな~って思ってしまう。
グラスを傾けるときの、キャンドルライトに照らされた深い陰影のある面立ちが、とっても品があっておとなっぽくて、魅力的。どんなわがままでも余裕で受け止めてくれそうで、みっこが好きになるのもわかる気がするな~。
「文哉さんって、ワイン好きなのに、あまり蘊蓄言わないわね」
ソムリエお薦めのワインで、みんなで乾杯したあと、みっこはなにかを思い出すようにクスリと笑って、藤村さんに言った。
「以前、クライアントの社長さんとお食事したとき、ワインの講釈を延々と聞かされて、辟易したことがあったのよ。
『ここは五つ星の最高級レストランだよ』って自慢してたけど、そんな話ばかりじゃ、食事もちっとも美味しく感じなかったわ。お酒も勧められたけど、『あたし未成年ですから』って断っちゃった。どうして男の人って、すぐに蘊蓄を語りたがるのかしらね」
「ワインは蘊蓄語るものじゃなく、美味しくいただくものなんだよ」
藤村さんはみっこに微笑みながら、応えた。
「気のきいたレストランにはソムリエがいるから、そのガイドに頼れば、美味しいワインが飲めるのさ。ぼくも若い頃は通ぶって、ワインにも一家言持っていたけど、もう、そういう青臭い時期は過ぎたかなぁ」
「よかった。文哉さんが青臭いときに、いっしょにフレンチに行かなくて。人間も年月をおくと、熟成されてまろやかになるのね」
「歳をとったからって、だれもが『銘酒』になるとは限らないよ」
「あら。自分が極上のワインみたいな口ぶり。もう、自信家なんだから」
「ははは。さあ飲もう。開封して時間も経ったことだし、このワインも飲み頃になってきたよ」
「あたし、まだ未成年ですから」
みっこはそう言いながら、空になったワイングラスを差し出した。
「ははは。それってぼくに罪を犯せってことかい?」
「ふふ。まあ、今回はさつきの誕生日だし、大目に見てあげる」
「みっこちゃん。なんだか立場が逆だな。さつきちゃんはみっこちゃんと違って、もう堂々とお酒飲めるんだよね」
「はい。こんな美味しいワインも、やっとだれはばかることなく飲めるようになりました」
「あ。ぼくもお酒は大丈夫な年齢ですよ」
川島君もおどけた口調で言う。
「じゃあ、みっこちゃん以外は、どんどん飲んでよ」
そう言って藤村さんは、みんなのグラスにルビー色の液体を注ぐ。
「んもぅ。文哉さんのいじわる」
みっこはそう言って、可愛くすねてみせた。
つづく
マントルピースのあるダイニングルームで食べるフレンチ・ディナーは、とっても美味しくて、洒落ていた。藤村さんはソムリエに、ワインを見立ててもらっている。
「こちらでいかがでしょうか? ブルゴーニュ産の85年ものになります。グランクリュの畑から採れた最高級のピノ・ノワールを使用しており、繊細で優雅でフルーティな特徴を持つブルゴーニュワインの神髄を、よくお楽しみ頂ける逸品でございます」
ソムリエはワインのラベルを藤村さんに見せながら、慣れた手さばきでコルクの栓を抜き、香りをかいだあと、グラスに赤い液体を少し注ぎ、藤村さんに差し出した。ワインボトルのラベルを確認するように眺めた藤村さんは、グラスを揺らして、味わうように少しだけ口に含む。
「畑名のワインなんだね。うん。いい香りだ。ボディは強いけど、ふくよかで飲みやすい。これを頂くよ」
藤村さんはそう言いながら、『かしこまりました』と言うソムリエに、『いいワインをありがとう』とお礼を言って、微笑んだ。
そうやって、ワインを選んでいるところなんかを見ていると、やっぱり藤村さんって、素敵なおじさまだな~って思ってしまう。
グラスを傾けるときの、キャンドルライトに照らされた深い陰影のある面立ちが、とっても品があっておとなっぽくて、魅力的。どんなわがままでも余裕で受け止めてくれそうで、みっこが好きになるのもわかる気がするな~。
「文哉さんって、ワイン好きなのに、あまり蘊蓄言わないわね」
ソムリエお薦めのワインで、みんなで乾杯したあと、みっこはなにかを思い出すようにクスリと笑って、藤村さんに言った。
「以前、クライアントの社長さんとお食事したとき、ワインの講釈を延々と聞かされて、辟易したことがあったのよ。
『ここは五つ星の最高級レストランだよ』って自慢してたけど、そんな話ばかりじゃ、食事もちっとも美味しく感じなかったわ。お酒も勧められたけど、『あたし未成年ですから』って断っちゃった。どうして男の人って、すぐに蘊蓄を語りたがるのかしらね」
「ワインは蘊蓄語るものじゃなく、美味しくいただくものなんだよ」
藤村さんはみっこに微笑みながら、応えた。
「気のきいたレストランにはソムリエがいるから、そのガイドに頼れば、美味しいワインが飲めるのさ。ぼくも若い頃は通ぶって、ワインにも一家言持っていたけど、もう、そういう青臭い時期は過ぎたかなぁ」
「よかった。文哉さんが青臭いときに、いっしょにフレンチに行かなくて。人間も年月をおくと、熟成されてまろやかになるのね」
「歳をとったからって、だれもが『銘酒』になるとは限らないよ」
「あら。自分が極上のワインみたいな口ぶり。もう、自信家なんだから」
「ははは。さあ飲もう。開封して時間も経ったことだし、このワインも飲み頃になってきたよ」
「あたし、まだ未成年ですから」
みっこはそう言いながら、空になったワイングラスを差し出した。
「ははは。それってぼくに罪を犯せってことかい?」
「ふふ。まあ、今回はさつきの誕生日だし、大目に見てあげる」
「みっこちゃん。なんだか立場が逆だな。さつきちゃんはみっこちゃんと違って、もう堂々とお酒飲めるんだよね」
「はい。こんな美味しいワインも、やっとだれはばかることなく飲めるようになりました」
「あ。ぼくもお酒は大丈夫な年齢ですよ」
川島君もおどけた口調で言う。
「じゃあ、みっこちゃん以外は、どんどん飲んでよ」
そう言って藤村さんは、みんなのグラスにルビー色の液体を注ぐ。
「んもぅ。文哉さんのいじわる」
みっこはそう言って、可愛くすねてみせた。
つづく
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