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14 Summer Vacation
Summer Vacation 9
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「夏休みの間、みっこはどんな仕事したの?」
「そうね… 単発もののテレビCF(コマーシャルフィルム)を2本撮って、その関連でスチール撮ったり。あと、ショーにも出たわ」
「すごい! どんなショーなの?」
「ダンスでファッションを見せる感じで、あまり身長要求されなかったから、あたしでもよかったみたい」
「なに言ってるの。ダンスもショーもできるみっこに、ぴったりじゃない」
「ふふ。でもそういうイベントって、ライブ感があって、ドキドキして楽しかったわ。あとは、カタログの仕事とか、雑誌の撮影とか。あ、ポラとか写真とか貰ったけど、見る?」
「見る見る!」
みっこは本棚からアルバムを引っ張り出して、ページをめくる。冬物のお洒落な衣装を纏ったみっこや、ステージ上で服を揺らしながらダンスしている写真が、何枚も貼っていた。
「この猛暑の中で秋冬物の撮影だなんて。ほとんど拷問よね~。しかも汗かいちゃいけないでしょ。もう大変だったわよ」
「わぁ~。それって鬼のような仕事ね。でも可愛い~っ! 真夏に撮ったなんて、全然わかんない」
「そこは、プロの意地かな」
「そういえば、アルディア化粧品の夏のCMが、今よく流れてるわね。モルディブで撮ったあのときのものが、こうやってテレビで見れるって、なんか感動しちゃった」
「アルディアは、今年度いっぱいキャンペーンガールとして契約してるから、CFもまだ何本か撮るし、関連イベントとかにも狩り出されて、けっこう忙しいのよ」
「そうなんだ」
「でもあたし、アルディア以外の仕事もしたい」
「どうして?」
「親の七光って、イヤじゃない」
「親って、みっこのママ?」
「あたし、小さいときに、ママといっしょにアルディアのコマーシャルに出てたの。
そのときにアルディアの人には可愛がってもらえて、オーディションに受かったとはいっても、今回のお仕事は、その縁で頂いたような気がするのよ。
それって、あたしのモデルとしての、ほんとの力じゃないような気がして」
「でもみっこは、他にもいろんな仕事してるじゃない。それに星川先生も藤村さんも、みっこのことは『最高のモデルだ』って、褒めてたわよ」
「…ん」
みっこはクッションを両手で抱え込んで、言おうか言うまいか迷っている風だったが、おもむろに口を開いた。
「実は… 『女優やらないか』って、誘いがあるの」
「女優?」
「ん」
「すごいじゃない! やったらいいじゃない! みっこをドラマとか映画で見れるなんて、すっごい感激しちゃう!」
「…」
興奮するわたしをよそに、みっこは浮かない顔で頬杖つくと、視線を窓の外の夜景に移した。住宅街とビルの隙間から、都心の高層ビルのイリュミネーションが、蜃気楼のように揺らめき、瞬いている。
「なにか、引っかかることがあるの?」
わたしは迷っているみっこに訊いた。
「もちろん、ありがたいお話しなんだけど… 今のモデルの仕事を、納得いくまでやってからでないと」
「でも、女優をしながらでも、モデルはできるんでしょ?」
「そうだけど… まだあたしには、女優をやれるほどの演技力はないし、基礎からちゃんと学んでからでないと…」
そう言って、みっこは続けた。
「それに、今はいろんなこと考えてて、まだ決心がつかないの」
「いろんなことって?」
反射的に、わたしは彼女の恋愛を思い浮かべてしまった。
それってやっぱり、藤村さんのこと?
「みっこは東京に戻ってきて、藤村さんに会ったの?」
突然、藤村さんの名前を出したわたしを怪訝そうに見つめて、みっこは答えた。
「文哉さん? 会ったわよ」
「それで?」
「それでって…」
「いや… どんな風に会ったのかなって…」
「どんなって。ふつうに仕事で会ったわよ」
「そっか」
「…さつき。どうしたの?」
「ううん。別に…」
つづく
「そうね… 単発もののテレビCF(コマーシャルフィルム)を2本撮って、その関連でスチール撮ったり。あと、ショーにも出たわ」
「すごい! どんなショーなの?」
「ダンスでファッションを見せる感じで、あまり身長要求されなかったから、あたしでもよかったみたい」
「なに言ってるの。ダンスもショーもできるみっこに、ぴったりじゃない」
「ふふ。でもそういうイベントって、ライブ感があって、ドキドキして楽しかったわ。あとは、カタログの仕事とか、雑誌の撮影とか。あ、ポラとか写真とか貰ったけど、見る?」
「見る見る!」
みっこは本棚からアルバムを引っ張り出して、ページをめくる。冬物のお洒落な衣装を纏ったみっこや、ステージ上で服を揺らしながらダンスしている写真が、何枚も貼っていた。
「この猛暑の中で秋冬物の撮影だなんて。ほとんど拷問よね~。しかも汗かいちゃいけないでしょ。もう大変だったわよ」
「わぁ~。それって鬼のような仕事ね。でも可愛い~っ! 真夏に撮ったなんて、全然わかんない」
「そこは、プロの意地かな」
「そういえば、アルディア化粧品の夏のCMが、今よく流れてるわね。モルディブで撮ったあのときのものが、こうやってテレビで見れるって、なんか感動しちゃった」
「アルディアは、今年度いっぱいキャンペーンガールとして契約してるから、CFもまだ何本か撮るし、関連イベントとかにも狩り出されて、けっこう忙しいのよ」
「そうなんだ」
「でもあたし、アルディア以外の仕事もしたい」
「どうして?」
「親の七光って、イヤじゃない」
「親って、みっこのママ?」
「あたし、小さいときに、ママといっしょにアルディアのコマーシャルに出てたの。
そのときにアルディアの人には可愛がってもらえて、オーディションに受かったとはいっても、今回のお仕事は、その縁で頂いたような気がするのよ。
それって、あたしのモデルとしての、ほんとの力じゃないような気がして」
「でもみっこは、他にもいろんな仕事してるじゃない。それに星川先生も藤村さんも、みっこのことは『最高のモデルだ』って、褒めてたわよ」
「…ん」
みっこはクッションを両手で抱え込んで、言おうか言うまいか迷っている風だったが、おもむろに口を開いた。
「実は… 『女優やらないか』って、誘いがあるの」
「女優?」
「ん」
「すごいじゃない! やったらいいじゃない! みっこをドラマとか映画で見れるなんて、すっごい感激しちゃう!」
「…」
興奮するわたしをよそに、みっこは浮かない顔で頬杖つくと、視線を窓の外の夜景に移した。住宅街とビルの隙間から、都心の高層ビルのイリュミネーションが、蜃気楼のように揺らめき、瞬いている。
「なにか、引っかかることがあるの?」
わたしは迷っているみっこに訊いた。
「もちろん、ありがたいお話しなんだけど… 今のモデルの仕事を、納得いくまでやってからでないと」
「でも、女優をしながらでも、モデルはできるんでしょ?」
「そうだけど… まだあたしには、女優をやれるほどの演技力はないし、基礎からちゃんと学んでからでないと…」
そう言って、みっこは続けた。
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突然、藤村さんの名前を出したわたしを怪訝そうに見つめて、みっこは答えた。
「文哉さん? 会ったわよ」
「それで?」
「それでって…」
「いや… どんな風に会ったのかなって…」
「どんなって。ふつうに仕事で会ったわよ」
「そっか」
「…さつき。どうしたの?」
「ううん。別に…」
つづく
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