161 / 300
13 Rainy Resort
Rainy Resort 8
しおりを挟む
「ほんとは、川島君といっしょにいたいんでしょ?」
そんなわたしを見て、みっこがささやいた。
「えっ?」
「ふふ。今、そんな目で見てたわよ。『いっしょの部屋で寝たい』って」
「やだ~。みっこのエッチ」
「そんな意味じゃなくって… まぁ、それもあるかもだけど。
あたしはいいから、さつきは彼の部屋に泊まれば?」
「いいよぉ」
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃないよ」
「ん~… やっぱり、三人ってのは微妙かな。あたしも早く恋人作らなくちゃね」
お風呂セットを抱えたみっこはペロリと舌を出し、冗談のように言ったけど、その表情は少し寂しそうだった。
『恋人』か…
あれからみっこの恋は、どうなったんだろう?
『好きな人が、できちゃったみたい』
と、モルディブからの帰りに告白してから、みっこはその話題をまったく口にしない。
彼女の場合、『訳あり』な恋にはまりそうになっているみたいだから、わたしも迂闊に訊くのがはばかられる。
なんだか複雑。
わたしもみっこの彼氏と4人で、晴れてダブルデートなんてしてみたいけど、そんな日って、来るのかな?
『白いピアノ』の温泉は、大きな窓のある室内浴場と露天風呂があって、野外の露天風呂からは、キラキラとまたたく星空と、真っ黒いシルエットで横たわる九重連山が、よく見える。
そんな温泉につかりながら、わたしたちはずっと、恋話に花を咲かせていた。
「そう言えば、去年の夏にいっしょに海に行ったとき、わたし、みっこには『絶対彼氏がいる』って思ってたんだ。あの頃って、まだみっこのことよく知らなくて、みっこもなかなか打ち解けてくれなかったわよね」
「そうだったわね。あたしも直樹さんとの別れをずっと引きずってて、さつきから『恋人いる?』って訊かれたときも、『心から好きになれる男の人に、出会ったこと、ない』なんて、直樹さんを否定するようなことを、ムキになって言ってた気がする」
「覚えてるわよ。そのときのみっこ、すっごい厳しい顔してた」
「え~? やだなぁ」
「なんか、懐かしいわね~」
「そうね…」
遠い目をしながら湯船につかったみっこは、キラキラとまたたく星を見上げて、ポツリとつぶやく。
「人って… どんどん変わっていくものね」
「え?」
「あの頃は、さつきにはまだ彼氏がいなくて、『純情な子だな~』って思ってたのに、今じゃ川島君とブイブイ言わせてるし」
「ブイブイって… そんなんじゃないよぉ」
「あはは。冗談。でもあの頃は、こうやって一年後にいっしょに温泉に入るなんて、思ってなかったわね」
「そうね。今年の夏も、またバカンスに行こうね!」
「ええ。行きたいわね。絶対」
シャンプーをして、お風呂から上がって、髪を乾かしている間も、ふたりはずっとそんな話をしていた。だけどわたしの方から、みっこの今の恋の話題に触れることはしなかったし、みっこも話す気配もなかった。
部屋に戻ってお肌の手入れをしながら、みっこはふと、思い出したように言う。
「ほんとにいいのよ。さつきは川島君のお部屋に泊まっても」
「みっこ、まだそんなこと言ってるの?」
「だって… ふたりに悪いし…」
この子、わたしと川島君に、妙に気を遣ってる気がする。
それは嬉しいことだけど、ちょっと遠慮しすぎているみたいで、『生意気でわがままな小娘』の森田美湖にしては、なんだか不自然な気もする。
「だからいいんだって。このバカンスは、みっこのために計画したんだし。わたし今夜はずっと、みっこといろんな話、していたいのよ」
「そう…」
わたしがそう言うと、みっこはようやく安堵したような表情を浮かべ、その夜はもう、川島君とのことを言い出すことはなかった。
つづく
そんなわたしを見て、みっこがささやいた。
「えっ?」
「ふふ。今、そんな目で見てたわよ。『いっしょの部屋で寝たい』って」
「やだ~。みっこのエッチ」
「そんな意味じゃなくって… まぁ、それもあるかもだけど。
あたしはいいから、さつきは彼の部屋に泊まれば?」
「いいよぉ」
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃないよ」
「ん~… やっぱり、三人ってのは微妙かな。あたしも早く恋人作らなくちゃね」
お風呂セットを抱えたみっこはペロリと舌を出し、冗談のように言ったけど、その表情は少し寂しそうだった。
『恋人』か…
あれからみっこの恋は、どうなったんだろう?
『好きな人が、できちゃったみたい』
と、モルディブからの帰りに告白してから、みっこはその話題をまったく口にしない。
彼女の場合、『訳あり』な恋にはまりそうになっているみたいだから、わたしも迂闊に訊くのがはばかられる。
なんだか複雑。
わたしもみっこの彼氏と4人で、晴れてダブルデートなんてしてみたいけど、そんな日って、来るのかな?
『白いピアノ』の温泉は、大きな窓のある室内浴場と露天風呂があって、野外の露天風呂からは、キラキラとまたたく星空と、真っ黒いシルエットで横たわる九重連山が、よく見える。
そんな温泉につかりながら、わたしたちはずっと、恋話に花を咲かせていた。
「そう言えば、去年の夏にいっしょに海に行ったとき、わたし、みっこには『絶対彼氏がいる』って思ってたんだ。あの頃って、まだみっこのことよく知らなくて、みっこもなかなか打ち解けてくれなかったわよね」
「そうだったわね。あたしも直樹さんとの別れをずっと引きずってて、さつきから『恋人いる?』って訊かれたときも、『心から好きになれる男の人に、出会ったこと、ない』なんて、直樹さんを否定するようなことを、ムキになって言ってた気がする」
「覚えてるわよ。そのときのみっこ、すっごい厳しい顔してた」
「え~? やだなぁ」
「なんか、懐かしいわね~」
「そうね…」
遠い目をしながら湯船につかったみっこは、キラキラとまたたく星を見上げて、ポツリとつぶやく。
「人って… どんどん変わっていくものね」
「え?」
「あの頃は、さつきにはまだ彼氏がいなくて、『純情な子だな~』って思ってたのに、今じゃ川島君とブイブイ言わせてるし」
「ブイブイって… そんなんじゃないよぉ」
「あはは。冗談。でもあの頃は、こうやって一年後にいっしょに温泉に入るなんて、思ってなかったわね」
「そうね。今年の夏も、またバカンスに行こうね!」
「ええ。行きたいわね。絶対」
シャンプーをして、お風呂から上がって、髪を乾かしている間も、ふたりはずっとそんな話をしていた。だけどわたしの方から、みっこの今の恋の話題に触れることはしなかったし、みっこも話す気配もなかった。
部屋に戻ってお肌の手入れをしながら、みっこはふと、思い出したように言う。
「ほんとにいいのよ。さつきは川島君のお部屋に泊まっても」
「みっこ、まだそんなこと言ってるの?」
「だって… ふたりに悪いし…」
この子、わたしと川島君に、妙に気を遣ってる気がする。
それは嬉しいことだけど、ちょっと遠慮しすぎているみたいで、『生意気でわがままな小娘』の森田美湖にしては、なんだか不自然な気もする。
「だからいいんだって。このバカンスは、みっこのために計画したんだし。わたし今夜はずっと、みっこといろんな話、していたいのよ」
「そう…」
わたしがそう言うと、みっこはようやく安堵したような表情を浮かべ、その夜はもう、川島君とのことを言い出すことはなかった。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
『♡ Kyoko Love ♡』☆『 LOVE YOU!』のスピン・オフ 最後のほうで香のその後が書かれています。
設樂理沙
ライト文芸
過去、付き合う相手が切れたことがほぼない
くらい、見た目も内面もチャーミングな石川恭子。
結婚なんてあまり興味なく生きてきたが、周囲の素敵な女性たちに
感化され、意識が変わっていくアラフォー女子のお話。
ゆるい展開ですが、読んで頂けましたら幸いです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
亀卦川康之との付き合いを止めた恭子の、その後の♡*♥Love Romance♥*♡
お楽しみください。
不定期更新とさせていただきますが基本今回は午後6時前後
に更新してゆく予定にしています。
♡画像はILLUSTRATION STORE様有償画像
(許可をいただき加工しています)
人外さんに選ばれたのは私でした ~それでも私は人間です~
こひな
ライト文芸
渡利美里30歳。
勤めていた会社を訳あって辞め、フリーターをやっている美里は、姉のフリーマーケットのお手伝いに出かけた日に運命の出会いをする。
ずっと気になっていたけれど、誰にも相談できずにいた、自分の肩に座る『この子』の相談したことをきっかけに、ありとあらゆる不思議に巻き込まれていく…。
ブラック企業との戦い YOU乗す労働スター
今村 駿一
ライト文芸
ブラック企業に勤める渡辺は度重なるサービス残業とパワハラ、長時間勤務で毎日過酷な日々を送っていた。退職しようにも辞められない。
そんな環境の中で自分と正反対の素敵な存在を見つける。
シャウトの仕方ない日常
鏡野ゆう
ライト文芸
航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス。
その五番機パイロットをつとめる影山達矢三等空佐の不本意な日常。
こちらに登場する飛行隊長の沖田二佐、統括班長の青井三佐は佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』に登場する沖田千斗星君と青井翼君です。築城で登場する杉田隊長は、白い黒猫さんの『イルカカフェ今日も営業中』に登場する杉田さんです。※佐伯瑠璃さん、白い黒猫さんには許可をいただいています※
※不定期更新※
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※影さんより一言※
( ゚д゚)わかっとると思うけどフィクションやしな!
※第2回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※
猫と幼なじみ
鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。
ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。
※小説家になろうでも公開中※
re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ
俊也
ライト文芸
実際の歴史では日本本土空襲・原爆投下・沖縄戦・特攻隊などと様々な悲劇と犠牲者を生んだ太平洋戦争(大東亜戦争)
しかし、タイムスリップとかチート新兵器とか、そういう要素なしでもう少しその悲劇を防ぐか薄めるかして、尚且つある程度自主的に戦後の日本が変わっていく道はないか…アメリカ等連合国に対し「勝ちすぎず、程よく負けて和平する」ルートはあったのでは?
そういう思いで書きました。
歴史時代小説大賞に参戦。
ご支援ありがとうございましたm(_ _)m
また同時に「新訳 零戦戦記」も参戦しております。
こちらも宜しければお願い致します。
他の作品も
お手隙の時にお気に入り登録、時々の閲覧いただければ幸いです。m(_ _)m
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる