159 / 300
13 Rainy Resort
Rainy Resort 6
しおりを挟む
部屋で落ち着くひまもなく、わたしたちはすぐに食堂に降りていき,テーブルについた。
今日は平日というのもあって、セッティングしてあるテーブルは、わたしたちの他にふたつしかない。
わたしたちより少し上の年齢くらいの女の子4人のグループと、恋人同士らしい若いカップルが、それぞれのテーブルにやってきて、食堂は少し賑やかになった。
「コンソメと馬鈴薯のヴィシソワーズです」
口髭を生やしたペンションのオーナー兼シェフらしい人が、涼しげなガラスのスープ皿を持ってきて、ディナーがはじまった。
ヴィシソワーズは、ジャガイモの歯触りがわずかに残っていて、さっぱりして美味しいし、大分名産のカボスで酸味を整えたサラダも、野菜がしゃっきりしていて食欲をそそる。
脂が勢いよくはじける音を立てて運ばれてきた、豊後牛のステーキは、ワイルドだったけど、とってもやわらかくってジューシィで、旨味がある。川島君の分を一切れもらって、さらに満足(笑)。
食後のデザートのアイスクリームは、ハーブが入っていて爽やか。チーズケーキもまったりとコクがあって、ディナーの最後を飾るのにふさわしかった。
「とってもおいしかった!」
エスプレッソのデミタスカップを満足そうに口もとに運びながら、みっこは微笑んだ。
モルディブでは毎日がいろんなできごとの連続で、めまぐるしくて慌ただしかったけど、今度の旅行はなんだかとってものどかで、久し振りにゆっくりできた気がする。
みっこはコーヒーを飲みながら室内を見渡していたが、となりのリビングルームを見て、目を輝かせた。
「グランドピアノがあるわ! しかも白。ペンションの名前のとおりね」
リビングルームの方を見ると、確かに部屋の窓際には、白いグランドピアノが置いてある。
「そう言えばみっこは、『ピアノを弾くのが趣味』って言ってたわね」
「ええ。うちにもあったでしょ。電子ピアノだけどね。やっぱり生のグランドピアノの方が響きがよくって、弾いててご機嫌なのよ」
「わたし、みっこのピアノ聴いてみたいな」
「最近あまり弾いてないからな~… 指がちゃんと動かないかも」
「ぼくもピアノ曲は大好きなんだ。特にショパンとかドビュッシーとか。弾けるんだったら聴かせてよ」
「川島君… そうなんだ」
「どうぞ。弾いていいですよ」
お皿を下げにきたオーナーさんが、親しげにみっこに微笑み、そう言ってくれた。
「え? ありがとうございます。じゃあ…」
みっこはそう言って席を立ち、グランドピアノのトップボードを開けると、鍵盤の前の椅子に座って、高さを調節する。わたしたちも食事を終えて、ピアノの回りのソファーに腰をおろした。
“ポロンポロン♪…”
少し指を慣らして、みっこが奏ではじめた曲は、有名なショパンのノクターン第2番変ホ長調。
…うまい!
いつかみっこは、『好きなのはピアノを弾くことと、踊ること』って言ってたけど、ダンスと同じように、ピアノもとっても上手。
姿勢よくピンと背筋を伸ばして、指先も軽やかに、流れるように鍵盤を撫でていく。
彼女の奏でるショパンの甘い旋律は、わたしの耳を心地よく揺さぶった。
この曲は切ないくらいに美しく、涙が出てきそうになる。
同じくショパンの『幻想即興曲』に、ドビュッシーの『月の光』や『亜麻色の髪の乙女』と、三・四曲続けさまに弾いているうちに、リビングルームには他のお客さんも集まってきて、リトル・コンサートのようになった。
久し振りにグランドピアノが弾けたのが、みっこはよっぽど嬉しいらしく、川島君が好きだと言っていたドビュッシーやショパンの曲を次々と披露していく。わたしたちも、みっこの奏でるよどみない綺麗な旋律に、聴き入っていた。
つづく
今日は平日というのもあって、セッティングしてあるテーブルは、わたしたちの他にふたつしかない。
わたしたちより少し上の年齢くらいの女の子4人のグループと、恋人同士らしい若いカップルが、それぞれのテーブルにやってきて、食堂は少し賑やかになった。
「コンソメと馬鈴薯のヴィシソワーズです」
口髭を生やしたペンションのオーナー兼シェフらしい人が、涼しげなガラスのスープ皿を持ってきて、ディナーがはじまった。
ヴィシソワーズは、ジャガイモの歯触りがわずかに残っていて、さっぱりして美味しいし、大分名産のカボスで酸味を整えたサラダも、野菜がしゃっきりしていて食欲をそそる。
脂が勢いよくはじける音を立てて運ばれてきた、豊後牛のステーキは、ワイルドだったけど、とってもやわらかくってジューシィで、旨味がある。川島君の分を一切れもらって、さらに満足(笑)。
食後のデザートのアイスクリームは、ハーブが入っていて爽やか。チーズケーキもまったりとコクがあって、ディナーの最後を飾るのにふさわしかった。
「とってもおいしかった!」
エスプレッソのデミタスカップを満足そうに口もとに運びながら、みっこは微笑んだ。
モルディブでは毎日がいろんなできごとの連続で、めまぐるしくて慌ただしかったけど、今度の旅行はなんだかとってものどかで、久し振りにゆっくりできた気がする。
みっこはコーヒーを飲みながら室内を見渡していたが、となりのリビングルームを見て、目を輝かせた。
「グランドピアノがあるわ! しかも白。ペンションの名前のとおりね」
リビングルームの方を見ると、確かに部屋の窓際には、白いグランドピアノが置いてある。
「そう言えばみっこは、『ピアノを弾くのが趣味』って言ってたわね」
「ええ。うちにもあったでしょ。電子ピアノだけどね。やっぱり生のグランドピアノの方が響きがよくって、弾いててご機嫌なのよ」
「わたし、みっこのピアノ聴いてみたいな」
「最近あまり弾いてないからな~… 指がちゃんと動かないかも」
「ぼくもピアノ曲は大好きなんだ。特にショパンとかドビュッシーとか。弾けるんだったら聴かせてよ」
「川島君… そうなんだ」
「どうぞ。弾いていいですよ」
お皿を下げにきたオーナーさんが、親しげにみっこに微笑み、そう言ってくれた。
「え? ありがとうございます。じゃあ…」
みっこはそう言って席を立ち、グランドピアノのトップボードを開けると、鍵盤の前の椅子に座って、高さを調節する。わたしたちも食事を終えて、ピアノの回りのソファーに腰をおろした。
“ポロンポロン♪…”
少し指を慣らして、みっこが奏ではじめた曲は、有名なショパンのノクターン第2番変ホ長調。
…うまい!
いつかみっこは、『好きなのはピアノを弾くことと、踊ること』って言ってたけど、ダンスと同じように、ピアノもとっても上手。
姿勢よくピンと背筋を伸ばして、指先も軽やかに、流れるように鍵盤を撫でていく。
彼女の奏でるショパンの甘い旋律は、わたしの耳を心地よく揺さぶった。
この曲は切ないくらいに美しく、涙が出てきそうになる。
同じくショパンの『幻想即興曲』に、ドビュッシーの『月の光』や『亜麻色の髪の乙女』と、三・四曲続けさまに弾いているうちに、リビングルームには他のお客さんも集まってきて、リトル・コンサートのようになった。
久し振りにグランドピアノが弾けたのが、みっこはよっぽど嬉しいらしく、川島君が好きだと言っていたドビュッシーやショパンの曲を次々と披露していく。わたしたちも、みっこの奏でるよどみない綺麗な旋律に、聴き入っていた。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
Dreamin'
赤松帝
ミステリー
あなたは初めて遭遇する。六感を刺激する未体験の新感覚スリラー
「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。」 ニーチェ 善悪の彼岸より
もしも夢の中で悪夢を視てしまったら永遠に目がさめることはないという。
そうして夢の中で悪夢を視た私はいまだに夢の中をさまよい続けている。
Dreamin'は、そんな私の深層の底にある精神世界から切り出して来た、スリルを愛する読者の皆様の五感をも刺激するスパイシーな新感覚スリラー小説です。
新米女性捜査官・橘栞を軸に、十人十色な主人公達が重層的に交錯するミステリアスな群像劇。
あなたを悪夢の迷宮へと誘う、想像の斜め上をいく予想外な驚天動地の多次元展開に興奮必至!こうご期待ください。
mixiアプリ『携帯小説』にて
ミステリー・推理ランキング最高位第1位
総合ランキング最高位17位
アルファポリス ミステリーランキング最高位第1位(ありがとうごさいます!)
【完結】可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか?
りんりん
恋愛
公爵令嬢のオリビアは婚約者の王太子ヒョイから、突然婚約破棄を告げられる。
オリビアの妹マリーが身ごもったので、婚約者をいれかえるためにだ。
前代未聞の非常識な出来事なのに妹の肩をもつ両親にあきれて、オリビアは愛犬のシロと共に邸をでてゆく。
「勝手にしろ! 可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」
「頼まれても引きとめるもんですか!」
両親の酷い言葉を背中に浴びながら。
行くあてもなく町をさまようオリビアは異国の王子と遭遇する。
王子に誘われ邸へいくと、そこには神秘的な美少女ルネがいてオリビアを歓迎してくれた。
話を聞けばルネは学園でマリーに虐められているという。
それを知ったオリビアは「ミスキャンパスコンテスト」で優勝候補のマリーでなく、ルネを優勝さそうと
奮闘する。
セリフ箱
えと
ライト文芸
セリフ読みがしたい!
台本探してマースって人の選択肢を増やしたくて書いたやつです。
使用する場合
@ETO_77O
と、Twitterでメンションしていただければ1番いいのですが
・引用先としてセリフ箱のリンクを載せる
・DMやリプライなどにて声をかける
など…使用したということを教えていただけれると幸いです。フリーなのでなくても構いません。
単純自分の台本が読まれるのが嬉しいので…聴きたいって気持ちも強く、どのように読んでくださるのか、自分だったらこう読むけどこの人はこうなの!?勉強になるなぁ…みたいな、そんな、ひとつの好奇心を満たしたいっていうのが大きな理由となっていおります。
そのため、あまり気にせす「視聴者1人増えるんか!」ってくらいの感覚でお声かけください
ご使用の連絡いつでもお待ちしております!
なお、「このセリフ送ったはいいものの…この人のキャラに合わなかったな…」って言うことで没案になってしまったセリフの供養もここでします。
「これみたことあるぞ!?」となった場合はそういうことだと察して頂けると幸いです
異世界子ども食堂:通り魔に襲われた幼稚園児を助けようとして殺されたと思ったら異世界に居た。
克全
児童書・童話
両親を失い子ども食堂のお世話になっていた田中翔平は、通り魔に襲われていた幼稚園児を助けようとして殺された。気がついたら異世界の教会の地下室に居て、そのまま奴隷にされて競売にかけられた。幼稚園児たちを助けた事で、幼稚園の経営母体となっている稲荷神社の神様たちに気に入られて、隠しスキルと神運を手に入れていた田中翔平は、奴隷移送用馬車から逃げ出し、異世界に子ども食堂を作ろうと奮闘するのであった。
蛍地獄奇譚
玉楼二千佳
ライト文芸
地獄の門番が何者かに襲われ、妖怪達が人間界に解き放たれた。閻魔大王は、我が次男蛍を人間界に下界させ、蛍は三吉をお供に調査を開始する。蛍は絢詩野学園の生徒として、潜伏する。そこで、人間の少女なずなと出逢う。
蛍となずな。決して出逢うことのなかった二人が出逢った時、運命の歯車は動き始める…。
*表紙のイラストは鯛飯好様から頂きました。
著作権は鯛飯好様にあります。無断転載厳禁
メイコとアンコ
笹木柑那
ライト文芸
日常には苛々することや、もやもやすることがいっぱいある。
けれど、そんな話を会社の同僚や彼氏にしても、「で、オチは?」とか「いっつも文句ばっかりだよね」と言われるのが目に見えている。
でも愚痴が言いたいわけじゃない。
様々な物事を見て聞いて、様々に思考したいだけ。
だから今日も二人で居酒屋に行き、言いたいことを言いまくる。
相手は何でもさばさば物を言うメイコ。
様々に物事を思考したいアンコにとっては、時に同意し、時に指摘してくれる唯一の友人だった。
だけどメイコが突然目の前に現れたのには理由があった。
しばらく姿を現さなかった、理由も。
そしてメイコとアンコの秘密が少しずつ明かされていく。
※無断転載・複写はお断りいたします。
大人の恋心 (LOVE YOU/スピンオフ)
設樂理沙
ライト文芸
『LOVE YOU!』のスピンオフになります。『LOVE YOU!』未読で読まれても、たぶん大丈夫かと。
弁当作りがきっかけで既婚者、亀卦川康之と一度はそのような関係になったアラフォーの桂子。
だが、そののち、康之にはご執心の彼女ができ。心中複雑な桂子のとった行動とは?◇ ◇ ◇ ◇
そして長年同じ職場で働いてはいるものの、いうほど親しくもなかった同僚、原口知世が
自分が幸せを掴めたためか、いい人になって桂子に急接近してくるのだった。ちょっとした
人と人との係わりで人生が大きく動く様子を描いてみました。
小説を書き始めてからの、初めてのスピンオフになります。
宜しくお願い致します。 🕊🍑🕊
❦イラストはAI生成有償画像-OBAKERON様から
ベルのビビ
映画泥棒
ライト文芸
ベルを鳴らせば、それを聞いた人間は、鳴らした人間の命令に絶対服従しなければならない。ただその瞬間から鳴らした人間は誰であろうと最初に自分に命令されたことには絶対服従をしなければならない。
自らビビと名乗る魔法のベルをアンティークショップで手に入れた主人公篠崎逢音(しのざきあいね)が、ビビを使い繰り広げる愉快で危険な毎日。
やがて、逢音の前に同じような魔力のアンティークを持った人間が現れ….
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる