Campus91

茉莉 佳

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13 Rainy Resort

Rainy Resort 2

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「みっこにはディスコだとかモルディブだとか、いろんな所に連れて行ってもらったから,たまにはわたしたちで、どこかに案内しようよ」
川島君にそう言いだしたのは、モルディブから帰ってしばらくして。桜の花がようやくほころびかけた頃だった。
「そうだな。森田さんにはいろいろお世話になったし」
「どこがいいかな?」
「彼女、東京の人だろ?
だったらこちらの有名な観光地とかがいいんじゃないかな?
季節もいいし、高原とかどうかな?
湯布院に行って、九重高原のペンションに泊まるくらいが、お手頃だと思うけど」
「そうね。九重には温泉もいろいろとあるんでしょ?」
「温泉に入るのかい? 『おやじギャル』みたいだな」
「え? 川島君、温泉きらい?」
「ぼくは本物のオヤジだから、大好きさ」

 そうやってふたりの意見がまとまり、みっこを誘ったのは、桜の花が真っ盛りの、わたしたちが2年生になりたての頃。
「履修だいたい決まったし、ゴールデンウィーク前の、日曜日をはずした平日で、お互いたいした講義がない日に行こうよ」
「いいわね。でも、まじめなさつきが、そんなこと言うなんて思わなかったわ。2年になって、学校にも慣れたってことね」
「あは… やっぱり人が多いのってイヤじゃない」
「湯布院と九重か… 三人で行くの?」
「そうよ。みっこが誘いたい人がいるんなら、それでもいいけど」
「そういうのはないけど… ちょっと辛いかなぁ」
みっこは少し躊躇ためらっている様子。
「え? あまり気がすすまない?」
「そうじゃなくって…」
わたしの言葉に、彼女は反射的にかぶりを振り、その理由わけを言った。
「もちろん、とっても嬉しいんだけど。あたし… さつきと川島君の邪魔にならないかなぁって、思って」
「なに言ってるの? 邪魔なら誘わないわよ… っていうか、みっこのために計画したんだから」
「ふふ… ありがと、誘ってくれて。とっても嬉しい」
そう言って、みっこは口もとをほころばせる。それから彼女は、思いついたように言った。
「それだったらあたし、『ゆふいんの森』に乗りたいなぁ」
「なに? それ」
「リゾート・エクスプレス」



 『ゆふいんの森』号は、ヨーロッパの優等列車みたいなリッチな気分の味わえる、素敵な内装の特急列車。
車内は木目調を基本にした落ち着いた配色で、列車なのに床が木製のフローリングってのが、おもしろい。
車両の連結部分は橋みたいになっていてユニークだし、軽食や甘味が食べられるビュッフェもあるし、車内の所々にはミニギャラリーもあり、沿線の名物や絵画なんかを飾っていて、列車というよりは、まるで豪華なホテルの中にいるみたい。

 車窓の外は、ビル街から次第に田んぼが多くなっていき、気がつくと列車は、筑後平野の真ん中をひた走っていた。左前方には耳納みのう連山が見える。
久留米からは九州を横断する線路に乗り換え、耳納の山々を右手に眺めながら、『ゆふいんの森』号は田園風景の中を走る。
列車が筑後川に沿って走るようになると、左右の山は次第に迫ってくる。『ゆふいんの森』号は山岳地方に入り、狭い山あいを縫うように走っていった。

「見て見てさつき!」
みっこは車窓を流れる景色を指差す。
「あの山、形が変わってる。山の周辺が切り立ってて、山頂が平らで、なんだかホールケーキみたい」
「ほんとね~。大きな切り株にも見えるわ。なんて言う山なんだろ?」
「あれは『切株山』と申します。『メーサ』という種類の山で、別名『テーブルマウンテン』とも申します。阿蘇山や久住山から流れ出した溶岩台地の周辺部が浸食されて、固い岩盤だけが取り残され、円錐状の台地になったものでございます」
ビュッフェでお団子セットを食べながら、窓の外の景色を見ていたわたしたちに、素敵なキャビンアテンダントの制服を着た女性が、やさしくガイドして下さった。

つづく
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