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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 26
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飛行機の搭乗までは少し時間があったので、それぞれ空港の免税店でお土産を見たり、ラウンジで休憩したりしていた。
わたしは川島君とみっこといっしょにコンコースのラウンジに入り、本場セイロンのお茶を飲んでいた。
「ちょっとごめん」
そう言って川島君が席をはずす。
それを見計らっていたかのように、川島君の姿が見えなくなるのを目で追ったみっこは、話を切り出した。
「さつき… ちょっと、聞いてほしいことがあるの」
わたしはドキッとした。
もしかして、昨日の夜のこと?
「え… な、なに?」
「あのね。その。実は…」
決心がついていないかのように、みっこの言葉はもたついている。話すのを躊躇っているみたい。
「どうしたの? いったい」
「ええ…」
「なに迷ってるの? みっこらしくないわね」
「そうなんだけど。でも… なんて言えばいいかわからなくて…」
「言ってみてよ」
「ええ…」
そんな押し問答をしているうちに川島君が戻ってきて、結局みっこの『聞いてほしいこと』はうやむやに終わってしまった。
心に引っかかるものを抱えたまま、わたしたちはモルディブをあとにし、その日の夕方にはカルカッタに着いた。
爽やかだったモルディブと違って、インドのカルカッタはなんだか埃っぽく、人も多くて騒々しい。
スカッと真っ青に抜けた空に、どこまでも果てしなく広がる赤っぽい街並が、『大陸」を感じさせる。
行き交うたくさんの人たちは、みんな肌が黒く、立派なヒゲをたくわえている人も多くて、絵はがきなんかでよく見る光景そのもの。
インドといえば、最近世界遺産にも登録された『タージマハル』が有名だけど、そこに負けるとも劣らない美しい宮殿もたくさんあるらしい。
時間の都合でそこまでの観光はできなかったけど、代わりにみっこのモデル事務所の社長さんが、ナンやチャパティのついた本場のインド料理を、みんなにご馳走してくださった。
インド料理は唐辛子や香辛料をたくさん使うので『辛い』と思っていたけど、辛さの中にもいろんな風味が混ざっていて、意外とまろやかで、食べやすい。ただ、もう何日もそんな食事が続いていたので、そろそろ日本食が恋しくなってきたかな。
カルカッタ空港から乗り込んだ飛行機は、おもむろに滑走をはじめると、地面を蹴ってフワリと宙に浮かんだ。
ガンジス川の流れが、黒々と街の中をのたうっているのが見える。
そんなインドの夜景も次第に遠ざかっていき、上昇の圧力をからだに重く感じながら、わたしは『モルディブの旅も終わったんだな』と、妙に感傷めいた気持ちになってきた。
みんな、旅と仕事の疲れもあってか、座席に身を沈めて早々と毛布にくるまり、もう軽い寝息を立てている人もいる。
わたしも毛布を肩までかけて、眠ろうとした。
だけど、からだは疲れているのに神経は冴えていて、なかなか寝つけない。頭の中では、モルディブでの印象深かったできごとが、ぐるぐると回っている。
今回の旅では、ほんとうにいろんなことがあった。
はじめての海外旅行とカルチャーショック。
プロフェッショナルな人たちとの交流。
みっこのモデル撮影の現場。
川島君とのはじめての経験。
いっしょに泳いだ、夜の海。
そして…
藤村さんとみっこの、『肌を重ねあう』姿…
つづく
わたしは川島君とみっこといっしょにコンコースのラウンジに入り、本場セイロンのお茶を飲んでいた。
「ちょっとごめん」
そう言って川島君が席をはずす。
それを見計らっていたかのように、川島君の姿が見えなくなるのを目で追ったみっこは、話を切り出した。
「さつき… ちょっと、聞いてほしいことがあるの」
わたしはドキッとした。
もしかして、昨日の夜のこと?
「え… な、なに?」
「あのね。その。実は…」
決心がついていないかのように、みっこの言葉はもたついている。話すのを躊躇っているみたい。
「どうしたの? いったい」
「ええ…」
「なに迷ってるの? みっこらしくないわね」
「そうなんだけど。でも… なんて言えばいいかわからなくて…」
「言ってみてよ」
「ええ…」
そんな押し問答をしているうちに川島君が戻ってきて、結局みっこの『聞いてほしいこと』はうやむやに終わってしまった。
心に引っかかるものを抱えたまま、わたしたちはモルディブをあとにし、その日の夕方にはカルカッタに着いた。
爽やかだったモルディブと違って、インドのカルカッタはなんだか埃っぽく、人も多くて騒々しい。
スカッと真っ青に抜けた空に、どこまでも果てしなく広がる赤っぽい街並が、『大陸」を感じさせる。
行き交うたくさんの人たちは、みんな肌が黒く、立派なヒゲをたくわえている人も多くて、絵はがきなんかでよく見る光景そのもの。
インドといえば、最近世界遺産にも登録された『タージマハル』が有名だけど、そこに負けるとも劣らない美しい宮殿もたくさんあるらしい。
時間の都合でそこまでの観光はできなかったけど、代わりにみっこのモデル事務所の社長さんが、ナンやチャパティのついた本場のインド料理を、みんなにご馳走してくださった。
インド料理は唐辛子や香辛料をたくさん使うので『辛い』と思っていたけど、辛さの中にもいろんな風味が混ざっていて、意外とまろやかで、食べやすい。ただ、もう何日もそんな食事が続いていたので、そろそろ日本食が恋しくなってきたかな。
カルカッタ空港から乗り込んだ飛行機は、おもむろに滑走をはじめると、地面を蹴ってフワリと宙に浮かんだ。
ガンジス川の流れが、黒々と街の中をのたうっているのが見える。
そんなインドの夜景も次第に遠ざかっていき、上昇の圧力をからだに重く感じながら、わたしは『モルディブの旅も終わったんだな』と、妙に感傷めいた気持ちになってきた。
みんな、旅と仕事の疲れもあってか、座席に身を沈めて早々と毛布にくるまり、もう軽い寝息を立てている人もいる。
わたしも毛布を肩までかけて、眠ろうとした。
だけど、からだは疲れているのに神経は冴えていて、なかなか寝つけない。頭の中では、モルディブでの印象深かったできごとが、ぐるぐると回っている。
今回の旅では、ほんとうにいろんなことがあった。
はじめての海外旅行とカルチャーショック。
プロフェッショナルな人たちとの交流。
みっこのモデル撮影の現場。
川島君とのはじめての経験。
いっしょに泳いだ、夜の海。
そして…
藤村さんとみっこの、『肌を重ねあう』姿…
つづく
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