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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 23
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モルディブの夜の海はとっても静かで、プルシャンブルーの墨を流したような、青みがかった黒。そんな水面に、月の光が宝石のかけらのように漂っている。
水平線にかすかに雲がかかっただけの夜空は、どこまでも澄んでいて、星のまたたきが冴えわたる。
水面に揺れる月の光をくずしながら、わたしたちはゆっくりと海に浸かった。
夜の海にはピンと張りつめた緊張感があって、ちょっぴりスリルがある。
ふたりでしばらく、そんな海を静かに泳いだ。
「少し寒いね」
少し語尾を震わせて、わたしは自分の肩を抱いた。
「あっためてあげるよ」
背後から川島君が、わたしを抱きしめる。
あったかい腕。
となりから覗き込むようにして、川島君はわたしにキスをしてくれた。
「ふふ。なんだかしょっぱい」
川島君のキスは少しずつ熱を帯びていき、おなかに回していた手が胸にのびてきて、軽く愛撫する。
「あん。ダメよ、もう」
全然『ダメ』なんかじゃないのに、どうしてそう言ってしまうんだろ?
崩れ込むように波打ち際に座ったわたしたちは、キスの続きをする。川島君はもっと大胆になってきて、わたしの水着のブラをはずす。
不思議な開放感。
外で胸を晒すなんてこと、生まれてはじめてだったから、いけないことでもしているかのように、すごくドキドキしちゃう。
わたしたちは寝転びながら、波の揺らめきに愛撫され、キスを重ねた。
からだの芯に、火がついちゃったみたい。
と、そのとき、ホテルの方から人の気配がした。
「まずい」
川島君はそう言って、素早くわたしの手を引き、近くの椰子の木陰に隠れる。こっちに来るかと緊張したが、向こうでかすかに話し声がして、人影は次第に遠ざかっていった。
「なにか熱いものでも飲む?」
椰子の木陰で、川島君はわたしの肩を抱いていたが、海から上がってからだが冷えて、少し震えていたわたしに気づき、そう言った。
「ええ」
わたしはうなずいた。
「ちょっとここで待ってて。コーヒーでも買ってくるから」
「ごめんね」
「いいよ」
そう言って、わたしの肩にタオルをかけてくれると、川島君は闇の中に紛れていった。
どのくらい、ひとりでいただろう。
静かな波が寄せては返す夜のなぎさに、わたしはひとりで佇み、川島君を待っていた。
「ふう」
思わずため息をつき、空を見上げる。
ここから見る夜の空は、切ないほど美しく、星のひとつひとつが、まるで色とりどりの磨かれた宝石のように、冷たくきらめいている。
そんな星空の下で、ひとりで夜の海辺に取り残されていると、なんだか世界中にわたしひとりしかいないみたいで、心細くなってくる。
やっぱり、川島君といっしょに行けばよかったな。
そう考えて、わたしは彼のあとを追って、ホテルへ向かうことにした。
まわりに注意を払いながら、カナリーエンシスの続く林の小径を、わたしはホテルの方へ歩いていった。
あたりは真っ暗で、道はおぼろげにしか見えず、ときおりホテルの方から漏れてくる、かすかな光だけが頼り。
川島君といるときには全然感じなかったけど、なんだかとっても心細い。
もちろん、モンスターや殺人鬼なんて出てくるわけないとは思ってみても、やっぱりこんな夜道をひとりで歩くのは、不安になってしまう。
その時、ふと、人の話し声が耳をかすめた気がした。
さっきの人たちかもしれない。
立ち止まったわたしは、耳を澄ませた。
遠いリーフに砕ける、波の音。
かすかな風に、カナリーエンシスの葉のそよぐ音。
波が寄せて、砂が鳴く音。
聞いたこともない虫の声。
そんな音の中に、確かに男女の声みたいなものが、茂みの向こうから聴こえてくる。
なんだか聞き慣れた声。もしかして…
「みっこ?」
わたしは足音を忍ばせて、茂みの方に近づいた。
葉陰から垣間見えた人影は、やはり森田美湖だった。
つづく
水平線にかすかに雲がかかっただけの夜空は、どこまでも澄んでいて、星のまたたきが冴えわたる。
水面に揺れる月の光をくずしながら、わたしたちはゆっくりと海に浸かった。
夜の海にはピンと張りつめた緊張感があって、ちょっぴりスリルがある。
ふたりでしばらく、そんな海を静かに泳いだ。
「少し寒いね」
少し語尾を震わせて、わたしは自分の肩を抱いた。
「あっためてあげるよ」
背後から川島君が、わたしを抱きしめる。
あったかい腕。
となりから覗き込むようにして、川島君はわたしにキスをしてくれた。
「ふふ。なんだかしょっぱい」
川島君のキスは少しずつ熱を帯びていき、おなかに回していた手が胸にのびてきて、軽く愛撫する。
「あん。ダメよ、もう」
全然『ダメ』なんかじゃないのに、どうしてそう言ってしまうんだろ?
崩れ込むように波打ち際に座ったわたしたちは、キスの続きをする。川島君はもっと大胆になってきて、わたしの水着のブラをはずす。
不思議な開放感。
外で胸を晒すなんてこと、生まれてはじめてだったから、いけないことでもしているかのように、すごくドキドキしちゃう。
わたしたちは寝転びながら、波の揺らめきに愛撫され、キスを重ねた。
からだの芯に、火がついちゃったみたい。
と、そのとき、ホテルの方から人の気配がした。
「まずい」
川島君はそう言って、素早くわたしの手を引き、近くの椰子の木陰に隠れる。こっちに来るかと緊張したが、向こうでかすかに話し声がして、人影は次第に遠ざかっていった。
「なにか熱いものでも飲む?」
椰子の木陰で、川島君はわたしの肩を抱いていたが、海から上がってからだが冷えて、少し震えていたわたしに気づき、そう言った。
「ええ」
わたしはうなずいた。
「ちょっとここで待ってて。コーヒーでも買ってくるから」
「ごめんね」
「いいよ」
そう言って、わたしの肩にタオルをかけてくれると、川島君は闇の中に紛れていった。
どのくらい、ひとりでいただろう。
静かな波が寄せては返す夜のなぎさに、わたしはひとりで佇み、川島君を待っていた。
「ふう」
思わずため息をつき、空を見上げる。
ここから見る夜の空は、切ないほど美しく、星のひとつひとつが、まるで色とりどりの磨かれた宝石のように、冷たくきらめいている。
そんな星空の下で、ひとりで夜の海辺に取り残されていると、なんだか世界中にわたしひとりしかいないみたいで、心細くなってくる。
やっぱり、川島君といっしょに行けばよかったな。
そう考えて、わたしは彼のあとを追って、ホテルへ向かうことにした。
まわりに注意を払いながら、カナリーエンシスの続く林の小径を、わたしはホテルの方へ歩いていった。
あたりは真っ暗で、道はおぼろげにしか見えず、ときおりホテルの方から漏れてくる、かすかな光だけが頼り。
川島君といるときには全然感じなかったけど、なんだかとっても心細い。
もちろん、モンスターや殺人鬼なんて出てくるわけないとは思ってみても、やっぱりこんな夜道をひとりで歩くのは、不安になってしまう。
その時、ふと、人の話し声が耳をかすめた気がした。
さっきの人たちかもしれない。
立ち止まったわたしは、耳を澄ませた。
遠いリーフに砕ける、波の音。
かすかな風に、カナリーエンシスの葉のそよぐ音。
波が寄せて、砂が鳴く音。
聞いたこともない虫の声。
そんな音の中に、確かに男女の声みたいなものが、茂みの向こうから聴こえてくる。
なんだか聞き慣れた声。もしかして…
「みっこ?」
わたしは足音を忍ばせて、茂みの方に近づいた。
葉陰から垣間見えた人影は、やはり森田美湖だった。
つづく
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