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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 21
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星川先生と首藤さんと川島君はすっかり意気が合って、ずっと話し込んでいた。
わたしも川島君とはいろいろ話したいのに、なんだか残念。
「さつきちゃん、どうしたの? 元気ないみたいだけど」
藤村さんがそんなわたしに気づいて、話しかけてきた。
「え?」
「彼氏に放ったらかしにされて、淋しいのかい?」
「そっ… そんなことないです」
慌てて否定する。
藤村さんって目ざとい。
それとも、絵里香さんのときのように、わたしの態度がわかりやすいのかな?
「川島君は星川センセたちと盛り上がってるし、文哉さんが、さつきの相手してあげれば?」
向こうのテーブルからやってきたみっこが、藤村さんの座っている椅子の背もたれ越しに、藤村さんの肩に両手をかけて言った。
「ははは。ぼくみたいなおじさんでよければね」
「そんなことないです。藤村さんって素敵です」
「ありがとう。嬉しいよ」
「さつきはこんな人がいいの? 文哉さんって危険よ。若い頃は絶対、女を渡り歩いていたタイプよ。あ。今もかもしれない」
「ひどいなぁ、みっこちゃんは」
「『ひとり暮らしは気楽だ』って言ってたでしょ。気楽に女の子、引き込めるものね」
「さつきちゃん。みっこちゃんの言うこと信じちゃいけないよ、濡れ衣だから」
そう言ってじゃれてくるみっこを軽くあしらい、藤村さんは笑う。
でもみっこの言うこともわかる気がするな~。わたしも第一印象はそう感じたもの。
40歳台の男性とは思えないくらい、藤村さんは感覚が若くて気やすく、わたしたちと話しも合うし、ルックスもいい。『業界人』ってのを差し引いても、素敵なおじさまだと思う。
「藤村さんは、ご結婚はされてないんですか?」
「お、さつきちゃん。そういう質問は、相手に気がある証拠だよ」
「そ、そんな…」
「ははは。冗談だよ。今は、別居中」
「す、すみません」
「いいよ,別に」
「あら? まだお別れしてなかったの? 文哉さんたち」
「みっこちゃん、重い話題を軽く言ってくれるなぁ」
「重いって、このくらい?」
そういってみっこは、藤村さんの肩にグイグイッと体重をかける。
「重いよ、みっこちゃん」
「レディに『重い』だなんて、失礼ね。そんなだから、奥さんに逃げられちゃうんじゃない?」
「まあ、『おとなの事情』ってやつでね。いろいろあるんだよ」
「ふ~ん。あたし子どもだから、わかんな~い」
そう言ってみっこは、お皿の上のフルーツをひとつ、ひょいと取り上げて口に放り込むと、スタスタと向こうへ行ってしまった。
もうっ…
みっこったら、こんな中途半端に会話を打ち切っちゃって…
なんだか気まずいじゃない。
「す、すみません、みっこがあんなこと言って」
「ははは。さつきちゃんが気にすることないよ。みっこちゃんはいつもあんなだから」
「慣れてるんですね」
「彼女のわがままとか、気まぐれに? まあ、あれも愛情の裏返しと思ってるよ」
「あは。みっこって『攻めてあげたい系』だから」
「あはは。確かにそんな感じだな」
そう言って藤村さんは、愉快そうに笑った。
翌日のコマーシャル撮影もスタートが早いので、その夜はみんな早々に部屋に引き上げた。
「今日はもう、クッタクタだよ」
部屋に戻るなり、川島君はそう言い残して、ベッドにいきなり突っ伏す。
そうよね。
本物のマネージャーさんが来てからは、わたしはずっと撮影の見学で気楽だったけど、川島君は朝から一日中重い機材を抱えて、縦横無尽に動き回っていたもの。
しかも回りはすごいプロフェッショナルな人たちばかりだし、そりゃあ体力も神経も、すり減ってしまうわよ。
それでも川島君は、しばらくわたしとの会話につきあってくれた。
メイク室でのみっこやスタッフの様子とか、漫才みたいなYOKOさんとのかけあい。藤村さんから頂いたテスト撮影のポラロイドも見せたし、今日見たり聞いたりしたことをみんな、川島くんに話した。
だって新鮮な経験ばかりだったもん。
だれかに話したくてしかたない。
しばらくは首を縦に振りながら、わたしの話を聞いてくれていた川島くんだったけど、そのうちうなずいているのか、眠気で船をこいでいるのかわからなくなってきた。
とうとうソファーで居眠りしだしたから、無理矢理お風呂に連れていく。
寝ぼけながら川島くんは服を脱ごうとするけど、うまくボタンがはずせない。
なので、着替えを手伝ってやったり、頭からシャワーをかけてシャンプーしてあげたり、からだも洗うのを手伝ってあげて、最後に髪を乾かしてあげたりする。
心の底では、昨日の夜みたいな甘いできごとを、ちょっぴり期待もしていたけど、こういうのもそれはそれで、いいかも。
つづく
わたしも川島君とはいろいろ話したいのに、なんだか残念。
「さつきちゃん、どうしたの? 元気ないみたいだけど」
藤村さんがそんなわたしに気づいて、話しかけてきた。
「え?」
「彼氏に放ったらかしにされて、淋しいのかい?」
「そっ… そんなことないです」
慌てて否定する。
藤村さんって目ざとい。
それとも、絵里香さんのときのように、わたしの態度がわかりやすいのかな?
「川島君は星川センセたちと盛り上がってるし、文哉さんが、さつきの相手してあげれば?」
向こうのテーブルからやってきたみっこが、藤村さんの座っている椅子の背もたれ越しに、藤村さんの肩に両手をかけて言った。
「ははは。ぼくみたいなおじさんでよければね」
「そんなことないです。藤村さんって素敵です」
「ありがとう。嬉しいよ」
「さつきはこんな人がいいの? 文哉さんって危険よ。若い頃は絶対、女を渡り歩いていたタイプよ。あ。今もかもしれない」
「ひどいなぁ、みっこちゃんは」
「『ひとり暮らしは気楽だ』って言ってたでしょ。気楽に女の子、引き込めるものね」
「さつきちゃん。みっこちゃんの言うこと信じちゃいけないよ、濡れ衣だから」
そう言ってじゃれてくるみっこを軽くあしらい、藤村さんは笑う。
でもみっこの言うこともわかる気がするな~。わたしも第一印象はそう感じたもの。
40歳台の男性とは思えないくらい、藤村さんは感覚が若くて気やすく、わたしたちと話しも合うし、ルックスもいい。『業界人』ってのを差し引いても、素敵なおじさまだと思う。
「藤村さんは、ご結婚はされてないんですか?」
「お、さつきちゃん。そういう質問は、相手に気がある証拠だよ」
「そ、そんな…」
「ははは。冗談だよ。今は、別居中」
「す、すみません」
「いいよ,別に」
「あら? まだお別れしてなかったの? 文哉さんたち」
「みっこちゃん、重い話題を軽く言ってくれるなぁ」
「重いって、このくらい?」
そういってみっこは、藤村さんの肩にグイグイッと体重をかける。
「重いよ、みっこちゃん」
「レディに『重い』だなんて、失礼ね。そんなだから、奥さんに逃げられちゃうんじゃない?」
「まあ、『おとなの事情』ってやつでね。いろいろあるんだよ」
「ふ~ん。あたし子どもだから、わかんな~い」
そう言ってみっこは、お皿の上のフルーツをひとつ、ひょいと取り上げて口に放り込むと、スタスタと向こうへ行ってしまった。
もうっ…
みっこったら、こんな中途半端に会話を打ち切っちゃって…
なんだか気まずいじゃない。
「す、すみません、みっこがあんなこと言って」
「ははは。さつきちゃんが気にすることないよ。みっこちゃんはいつもあんなだから」
「慣れてるんですね」
「彼女のわがままとか、気まぐれに? まあ、あれも愛情の裏返しと思ってるよ」
「あは。みっこって『攻めてあげたい系』だから」
「あはは。確かにそんな感じだな」
そう言って藤村さんは、愉快そうに笑った。
翌日のコマーシャル撮影もスタートが早いので、その夜はみんな早々に部屋に引き上げた。
「今日はもう、クッタクタだよ」
部屋に戻るなり、川島君はそう言い残して、ベッドにいきなり突っ伏す。
そうよね。
本物のマネージャーさんが来てからは、わたしはずっと撮影の見学で気楽だったけど、川島君は朝から一日中重い機材を抱えて、縦横無尽に動き回っていたもの。
しかも回りはすごいプロフェッショナルな人たちばかりだし、そりゃあ体力も神経も、すり減ってしまうわよ。
それでも川島君は、しばらくわたしとの会話につきあってくれた。
メイク室でのみっこやスタッフの様子とか、漫才みたいなYOKOさんとのかけあい。藤村さんから頂いたテスト撮影のポラロイドも見せたし、今日見たり聞いたりしたことをみんな、川島くんに話した。
だって新鮮な経験ばかりだったもん。
だれかに話したくてしかたない。
しばらくは首を縦に振りながら、わたしの話を聞いてくれていた川島くんだったけど、そのうちうなずいているのか、眠気で船をこいでいるのかわからなくなってきた。
とうとうソファーで居眠りしだしたから、無理矢理お風呂に連れていく。
寝ぼけながら川島くんは服を脱ごうとするけど、うまくボタンがはずせない。
なので、着替えを手伝ってやったり、頭からシャワーをかけてシャンプーしてあげたり、からだも洗うのを手伝ってあげて、最後に髪を乾かしてあげたりする。
心の底では、昨日の夜みたいな甘いできごとを、ちょっぴり期待もしていたけど、こういうのもそれはそれで、いいかも。
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