142 / 300
12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 17
しおりを挟む
メイクとヘアがだいたい完成して、わたしたちがビーチに出たときには、撮影の準備も終わっていた。
三脚には蛇腹のついた大きなカメラが据えつけられ、砂の上にはたくさんの太いコードが這っていて、それがストロボなどに繋がり、4メートルくらいの高さに組み上げられたパイプの上には、大きな白い半透明の布が空を覆っていた。
これは『デュフューザー』といって、モデルに当たる光をやわらげる効果があるらしい。
大きなテントの下のディレクターチェアに腰かけたみっこは、仲澤さんとYUKOさんから最後の仕上げをしてもらいながら、藤村さんとラフ画を見て、動きやポーズの確認をしている。
南の島だというのに、暑苦しそうなスーツを着た男性や、それとは対照的な、個性的でラフなカッコをした男性が数人やってきて、それぞれ藤村さんに挨拶をしている。彼の丁寧な対応を見ていると、どうやらクライアントのお偉いさんたちや、広告代理店のプロデューサーさんに営業さんたちみたい。撮影の現場はどんどん人が増えていき、賑やかになってきた。
『知らない人が増えてくると思うけど、さつきちゃんはとりあえず、元気よく挨拶していればいいよ』
と、藤村さんがアドバイスしてくれたので、そういう人を見かけるたびに、わたしは明るく挨拶するのを心がけた。
「はじめまして。あなたがみっこの友だちのさつきさんだね」
そう言って、眼鏡をかけて開襟シャツを着た、40歳くらいの知的な顔立ちの男性が、みっこのとなりに立っていたわたしに近づいてきた。
「わたしの事務所の社長兼マネージャー、高野さんよ」
みっこが、わたしに紹介する。
「はじめまして。おはようございます!」
「元気いいね。今回はマネージャー代理のお仕事、ご苦労さま。みっこが『早い便で現地入りしたい』って言うけど、ぼくの予定がつかなくてね。今回はありがとう」
「い、いえ。わたし、たいしたことできなくて」
「あの、みっこが、『君をぜひに』っていうくらいだから、ふたり、仲がいいんだね」
そう言って高野さんは微笑んだ。
『あの、みっこ』って…
みっこってモデル業界の中じゃ、いったいどんな存在なんだろう?
「これからはぼくがみっこのスケジュールとか調整するから、弥生さんは彼女の面倒を見てくれるだけでいいよ」
「心配しないでさつき。あたし面倒なんてかけないから」
そう言ってみっこは笑う。わたしのマネージャー代理の仕事は、もう終わったってことか。こんな楽な仕事でここにいて、なんだか申し訳ないな。
「あ、さつきちゃん、ヒマそうね。ちょっとそこに立ってみて」
みっこの側にぼんやり立っていたわたしを見て、星川先生がそう言い、砂浜の真ん中の、大きなディフューザーの下を指差した。
「ここですか?」
アンブレラのついたストロボに囲まれ、きれいに整備されたその場所に、わたしは立った。
「いいわよ。そのままね~」
そう言って星川先生は黒い幕を被って、カメラのファインダーを覗き込む。首藤さんが露出計を、わたしの顔の前にかざした。
“パシッ”
一瞬真っ白い閃光が光り、思わず目をつぶってしまう。首藤さんは露出計の数値を、星川先生に告げた。
「顔、F16」
「もうちょっと光量落として。ハレ切って測ってみて~」
首藤さんが露出計に手をかざして、わたしの前をあちこち動かし、続けざまにストロボが光った。
つづく
三脚には蛇腹のついた大きなカメラが据えつけられ、砂の上にはたくさんの太いコードが這っていて、それがストロボなどに繋がり、4メートルくらいの高さに組み上げられたパイプの上には、大きな白い半透明の布が空を覆っていた。
これは『デュフューザー』といって、モデルに当たる光をやわらげる効果があるらしい。
大きなテントの下のディレクターチェアに腰かけたみっこは、仲澤さんとYUKOさんから最後の仕上げをしてもらいながら、藤村さんとラフ画を見て、動きやポーズの確認をしている。
南の島だというのに、暑苦しそうなスーツを着た男性や、それとは対照的な、個性的でラフなカッコをした男性が数人やってきて、それぞれ藤村さんに挨拶をしている。彼の丁寧な対応を見ていると、どうやらクライアントのお偉いさんたちや、広告代理店のプロデューサーさんに営業さんたちみたい。撮影の現場はどんどん人が増えていき、賑やかになってきた。
『知らない人が増えてくると思うけど、さつきちゃんはとりあえず、元気よく挨拶していればいいよ』
と、藤村さんがアドバイスしてくれたので、そういう人を見かけるたびに、わたしは明るく挨拶するのを心がけた。
「はじめまして。あなたがみっこの友だちのさつきさんだね」
そう言って、眼鏡をかけて開襟シャツを着た、40歳くらいの知的な顔立ちの男性が、みっこのとなりに立っていたわたしに近づいてきた。
「わたしの事務所の社長兼マネージャー、高野さんよ」
みっこが、わたしに紹介する。
「はじめまして。おはようございます!」
「元気いいね。今回はマネージャー代理のお仕事、ご苦労さま。みっこが『早い便で現地入りしたい』って言うけど、ぼくの予定がつかなくてね。今回はありがとう」
「い、いえ。わたし、たいしたことできなくて」
「あの、みっこが、『君をぜひに』っていうくらいだから、ふたり、仲がいいんだね」
そう言って高野さんは微笑んだ。
『あの、みっこ』って…
みっこってモデル業界の中じゃ、いったいどんな存在なんだろう?
「これからはぼくがみっこのスケジュールとか調整するから、弥生さんは彼女の面倒を見てくれるだけでいいよ」
「心配しないでさつき。あたし面倒なんてかけないから」
そう言ってみっこは笑う。わたしのマネージャー代理の仕事は、もう終わったってことか。こんな楽な仕事でここにいて、なんだか申し訳ないな。
「あ、さつきちゃん、ヒマそうね。ちょっとそこに立ってみて」
みっこの側にぼんやり立っていたわたしを見て、星川先生がそう言い、砂浜の真ん中の、大きなディフューザーの下を指差した。
「ここですか?」
アンブレラのついたストロボに囲まれ、きれいに整備されたその場所に、わたしは立った。
「いいわよ。そのままね~」
そう言って星川先生は黒い幕を被って、カメラのファインダーを覗き込む。首藤さんが露出計を、わたしの顔の前にかざした。
“パシッ”
一瞬真っ白い閃光が光り、思わず目をつぶってしまう。首藤さんは露出計の数値を、星川先生に告げた。
「顔、F16」
「もうちょっと光量落として。ハレ切って測ってみて~」
首藤さんが露出計に手をかざして、わたしの前をあちこち動かし、続けざまにストロボが光った。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
パパLOVE
卯月青澄
ライト文芸
高校1年生の西島香澄。
小学2年生の時に両親が突然離婚し、父は姿を消してしまった。
香澄は母を少しでも楽をさせてあげたくて部活はせずにバイトをして家計を助けていた。
香澄はパパが大好きでずっと会いたかった。
パパがいなくなってからずっとパパを探していた。
9年間ずっとパパを探していた。
そんな香澄の前に、突然現れる父親。
そして香澄の生活は一変する。
全ての謎が解けた時…きっとあなたは涙する。
☆わたしの作品に目を留めてくださり、誠にありがとうございます。
この作品は登場人物それぞれがみんな主役で全てが繋がることにより話が完成すると思っています。
最後まで読んで頂けたなら、この言葉の意味をわかってもらえるんじゃないかと感じております。
1ページ目から読んで頂く楽しみ方があるのはもちろんですが、私的には「三枝快斗」篇から読んでもらえると、また違った楽しみ方が出来ると思います。
よろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
片翼天使の序奏曲 ~その手の向こうに、君の声
さくら怜音/黒桜
ライト文芸
楽器マニアで「演奏してみた」曲を作るのが好きな少年、相羽勝行。
転入早々、金髪にピアス姿の派手なピアノ少年に出くわす。友だちになりたくて近づくも「友だちなんていらねえ、欲しいのは金だ」と言われて勝行は……。
「じゃあ買うよ、いくら?」
ド貧乏の訳ありヤンキー少年と、転校生のお金持ち優等生。
真逆の二人が共通の趣味・音楽を通じて運命の出会いを果たす。
これはシリーズの主人公・光と勝行が初めて出会い、ロックバンド「WINGS」を結成するまでの物語。中学生編です。
※勝行視点が基本ですが、たまに光視点(光side)が入ります。
※シリーズ本編もあります。作品一覧からどうぞ
咲かない桜
御伽 白
ライト文芸
とある山の大きな桜の木の下で一人の男子大学生、峰 日向(ミネ ヒナタ)は桜の妖精を名乗る女性に声をかけられとあるお願いをされる。
「私を咲かせてくれませんか?」
咲くことの出来ない呪いをかけられた精霊は、日向に呪いをかけた魔女に会うのを手伝って欲しいとお願いされる。
日向は、何かの縁とそのお願いを受けることにする。
そして、精霊に呪いをかけた魔女に呪いを解く代償として3つの依頼を要求される。
依頼を通して日向は、色々な妖怪と出会いそして変わっていく。
出会いと別れ、戦い、愛情、友情、それらに触れて日向はどう変わっていくのか・・・
これは、生きる物語
※ 毎日投稿でしたが二巻製本作業(自費出版)のために更新不定期です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる