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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 10
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デートの帰り道の夜。
川島君は必ず、家の前まで送ってくれる。
駅からの帰り道、少し遠回りの薄暗い公園を、川島くんはわざわざ選んで通る。
公園に入ると、川島くんは肩を抱いてくる。
わたしも、彼の肩によりかかる。
ひとけのない公園の中で立ち止まると、川島くんはわたしを抱きしめ、キスをする。
長いキス。
そうしながら、川島君の指がわたしのからだをなぞっていく。
その手が、ブラウスの中に忍び込み、素肌にじかに触れる。
いつのまにかブラのホックをはずし、胸のふくらみをやさしく撫でている。
そんな風にされると、たまらない。
なんだか、からだの芯からじんわりと熱いものがこみ上げてきて、思わず短い声が漏れ、しっとりと潤うような感覚が溢れ出し、もっともっと、川島君がほしくて、むずむずしてくる。
そんなわたしを川島君に見られるのは、とっても恥ずかしくてイヤなんだけど、もう、理性じゃ止められない。
川島君とモルディブへ行くことが決まったとき、わたしはロマンティックな南の島で、彼といっしょに過ごす熱帯夜はどんなに楽しく、なにが起こるのか、妄想と好奇心でいっぱいになった。
もちろんわたしだって、なにも知らないわけじゃない。
だけど、知識として知っていても、まだ経験したことのない扉をはじめて開くときには、やっぱり躊躇してしまう。
ホテルの部屋に入ると、川島君はカチリとドアを閉め、鍵をかけた。その固い金属音に、ちょっと緊張する。
外の音は閉ざされ、空気がいきなりふたりだけのものになる。
南国のリゾートホテルらしい、エスニックの香り漂う木目調の部屋は、仄暗く、籐のテーブルとカウチソファー。それから、真っ白な天蓋のついた大きなベッドがふたつ。その回りにはかすかに明かりの灯ったランプがあって、ベッドにかかった緋色の毛布を、艶かしく浮かび上がらせ、いやがうえにもムードを高めている。
こんな素敵な部屋で、一生一度きりの思い出を、いちばん好きな人と作れるのは、本当に素敵なこと。
そう期待してるんだけど…
そんな期待とはうらはらに、まるで川島君から触られるのをイヤがるように、わたしは窓際に立つと背中を向けて、外の景色を見ているふりをした。
「別々の部屋がいいなら、森田さんにそう言ってくるけど」
わたしの気持ちを敏感に察したのか、背中越しに川島君が言う。
「え? そうじゃなくて… このままで、いい」
思わずそう言ってしまい、わたしはもう、あとに引けなくなってしまった。
「やっと、ふたりきりになれたね」
わたしをうしろから抱きしめた川島君は、耳元に唇を寄せてささやく。ふっとかかる吐息に、からだが固くこわばる。
「今日、こうやって、さつきちゃんといっしょにいられて、ほんとうに嬉しいよ」
そう言いながら、彼はわたしの肩を抱いて振り向かせると、やさしくキスをする。いつもは甘くあたたかく感じるこのひとときも、なぜか今日ばかりは、からだが震えていた。
「こ… 紅茶を飲みましょ。わたしなんだか、喉が渇いちゃった」
そう言い訳して、わたしはキスの途中で顔を背け、川島君の腕をすり抜けた。
つづく
川島君は必ず、家の前まで送ってくれる。
駅からの帰り道、少し遠回りの薄暗い公園を、川島くんはわざわざ選んで通る。
公園に入ると、川島くんは肩を抱いてくる。
わたしも、彼の肩によりかかる。
ひとけのない公園の中で立ち止まると、川島くんはわたしを抱きしめ、キスをする。
長いキス。
そうしながら、川島君の指がわたしのからだをなぞっていく。
その手が、ブラウスの中に忍び込み、素肌にじかに触れる。
いつのまにかブラのホックをはずし、胸のふくらみをやさしく撫でている。
そんな風にされると、たまらない。
なんだか、からだの芯からじんわりと熱いものがこみ上げてきて、思わず短い声が漏れ、しっとりと潤うような感覚が溢れ出し、もっともっと、川島君がほしくて、むずむずしてくる。
そんなわたしを川島君に見られるのは、とっても恥ずかしくてイヤなんだけど、もう、理性じゃ止められない。
川島君とモルディブへ行くことが決まったとき、わたしはロマンティックな南の島で、彼といっしょに過ごす熱帯夜はどんなに楽しく、なにが起こるのか、妄想と好奇心でいっぱいになった。
もちろんわたしだって、なにも知らないわけじゃない。
だけど、知識として知っていても、まだ経験したことのない扉をはじめて開くときには、やっぱり躊躇してしまう。
ホテルの部屋に入ると、川島君はカチリとドアを閉め、鍵をかけた。その固い金属音に、ちょっと緊張する。
外の音は閉ざされ、空気がいきなりふたりだけのものになる。
南国のリゾートホテルらしい、エスニックの香り漂う木目調の部屋は、仄暗く、籐のテーブルとカウチソファー。それから、真っ白な天蓋のついた大きなベッドがふたつ。その回りにはかすかに明かりの灯ったランプがあって、ベッドにかかった緋色の毛布を、艶かしく浮かび上がらせ、いやがうえにもムードを高めている。
こんな素敵な部屋で、一生一度きりの思い出を、いちばん好きな人と作れるのは、本当に素敵なこと。
そう期待してるんだけど…
そんな期待とはうらはらに、まるで川島君から触られるのをイヤがるように、わたしは窓際に立つと背中を向けて、外の景色を見ているふりをした。
「別々の部屋がいいなら、森田さんにそう言ってくるけど」
わたしの気持ちを敏感に察したのか、背中越しに川島君が言う。
「え? そうじゃなくて… このままで、いい」
思わずそう言ってしまい、わたしはもう、あとに引けなくなってしまった。
「やっと、ふたりきりになれたね」
わたしをうしろから抱きしめた川島君は、耳元に唇を寄せてささやく。ふっとかかる吐息に、からだが固くこわばる。
「今日、こうやって、さつきちゃんといっしょにいられて、ほんとうに嬉しいよ」
そう言いながら、彼はわたしの肩を抱いて振り向かせると、やさしくキスをする。いつもは甘くあたたかく感じるこのひとときも、なぜか今日ばかりは、からだが震えていた。
「こ… 紅茶を飲みましょ。わたしなんだか、喉が渇いちゃった」
そう言い訳して、わたしはキスの途中で顔を背け、川島君の腕をすり抜けた。
つづく
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