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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 5
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「さつき。泳ぎに行こ!」
ホテルのロビーに入ったみっこは、自分のキャリーバッグをポンと受付のカウンター前に置くと、チェックインもすまさないうちに、水着とタオルの入ったバッグだけを取り出して、『早く早く!』と、わたしをせかす。
「みっこ、不用心じゃない。荷物くらい部屋に持っていってからじゃないと」
「大丈夫よ。このホテルはアルディア化粧品の保養所だから、あたしたちの他にはだれもお客はいないし、モルディブのリゾートって、だいたいひとつの島にひとつのホテルだから、わりと安全なのよ」
「へえ~。そうなんだ」
「さすがバブル。日本企業はこんな南の島にまで、リゾートホテル建ててるんだな」
川島くんも、荷物の中からさっそくカメラを取り出しながら、感心するように言う。
「そういうこと。遊べるのは今日だけだもの。部屋にこもってるなんて、もったいないわよ。川島くんも、カメラなんて放っといて、いっしょに泳ぎましょ」
「え? ぼくも泳ぐの?」
「あたりまえじゃない。文哉さんも、星川センセも、みんなで遊びましょうよ!」
そう言いながら、みっこは子どものようにはしゃぐ。
こんな風に、彼女が可愛くわがままを言ってじゃれているのって、今まで見たことがなかった。
去年とのギャップを考えると、意外にも思えるけど、これがほんとの森田美湖なんだろな。
「まったく。遊びにきたんじゃないのよ、みっこちゃん」
『まいったわ』と言ったゼスチュアをして、星川先生はみっこをたしなめていたけど、眼鏡の奥の瞳は笑っている。この先生も藤村さんのように、みっこのわがままを可愛く感じているのかもしれない。
「まあまあ、明日からは遊ぶ暇もないくらい、ハードスケジュールになるからね。
先に行っといでよ、みっこちゃん。ぼくたちもチェックインをすませて、あとから行くから」
そう言いながら、藤村さんはみっこのキャリーケースをカートに載せて笑う。
「じゃあお願いするわ。早く来てね。ビーチで待ってる」
そう言い残すと、みっこはわたしと川島君の腕をとり、ホテルの中庭を横切って、ビーチに出た。
「うわっ!」
砂浜に立つと、太陽の光は、珊瑚のかけらでできた真っ白な砂粒からも反射してきて、よけいにまぶしい。
ガイドブックと同じ景色が、フレームに入りきらない大きさで、わたしたちの目の前に広がっている。
わたし、本当にモルディブの海にいるんだ!
「このシャワー室で着替えるのよ」
青空の見える、つい立てで区切っただけの簡単なシャワー室に入ると、みっこはためらいもなく服を脱ぎ捨てた。
「うわ。みっこ、ダイターン!」
タオルをからだに巻いたわたしは、みっこの水着を見て、思わず声を上げた。
去年の夏にいっしょに海に行ったときは、ワンピースの水着だったけど、今日は白のビキニ。
きわどいハイレッグが脚の長さを強調していて、すごくスタイルがよく見える。
「なんか、すごい露出度ね」
「ふふ。ここにはつまらないナンパもサーファーもいないから、どんなカッコもできちゃうわ。この辺のリゾートじゃ、トップレスだってふつうだし」
「ええっ! それはちょっとまずいんじゃない?」
「どうして?」
「だって…」
わたしはふと、川島君のことを考えた。
う~ん。
みっこの胸を川島君が見るのって…
やっぱり、イヤだな。
そんなわたしの思いを察したように、みっこは『ふ~ん』と笑う。
「さつきもいっしょにトップレスにする? 気持ちいいわよ」
「ええ~っ。やだ!」
「なんなのよさつきったら。そんなタオルにくるまってモチャモチャ着替えるなんて、カッコ悪~い。パァーッと脱ぎなさいよ」
笑いながら、みっこはわたしのタオルを引っ張る。
「わ、わかったわよ。そんな、はがさないで」
しかたなくわたしも、タオルをとって着替えをする。
あまり好きじゃないんだ。
自分のはだかを人に見られるのって。
特にみっこには…
なんだかんだ言っても、わたしはやっぱり彼女に、容姿コンプレックスを持ってるもの。
つづく
ホテルのロビーに入ったみっこは、自分のキャリーバッグをポンと受付のカウンター前に置くと、チェックインもすまさないうちに、水着とタオルの入ったバッグだけを取り出して、『早く早く!』と、わたしをせかす。
「みっこ、不用心じゃない。荷物くらい部屋に持っていってからじゃないと」
「大丈夫よ。このホテルはアルディア化粧品の保養所だから、あたしたちの他にはだれもお客はいないし、モルディブのリゾートって、だいたいひとつの島にひとつのホテルだから、わりと安全なのよ」
「へえ~。そうなんだ」
「さすがバブル。日本企業はこんな南の島にまで、リゾートホテル建ててるんだな」
川島くんも、荷物の中からさっそくカメラを取り出しながら、感心するように言う。
「そういうこと。遊べるのは今日だけだもの。部屋にこもってるなんて、もったいないわよ。川島くんも、カメラなんて放っといて、いっしょに泳ぎましょ」
「え? ぼくも泳ぐの?」
「あたりまえじゃない。文哉さんも、星川センセも、みんなで遊びましょうよ!」
そう言いながら、みっこは子どものようにはしゃぐ。
こんな風に、彼女が可愛くわがままを言ってじゃれているのって、今まで見たことがなかった。
去年とのギャップを考えると、意外にも思えるけど、これがほんとの森田美湖なんだろな。
「まったく。遊びにきたんじゃないのよ、みっこちゃん」
『まいったわ』と言ったゼスチュアをして、星川先生はみっこをたしなめていたけど、眼鏡の奥の瞳は笑っている。この先生も藤村さんのように、みっこのわがままを可愛く感じているのかもしれない。
「まあまあ、明日からは遊ぶ暇もないくらい、ハードスケジュールになるからね。
先に行っといでよ、みっこちゃん。ぼくたちもチェックインをすませて、あとから行くから」
そう言いながら、藤村さんはみっこのキャリーケースをカートに載せて笑う。
「じゃあお願いするわ。早く来てね。ビーチで待ってる」
そう言い残すと、みっこはわたしと川島君の腕をとり、ホテルの中庭を横切って、ビーチに出た。
「うわっ!」
砂浜に立つと、太陽の光は、珊瑚のかけらでできた真っ白な砂粒からも反射してきて、よけいにまぶしい。
ガイドブックと同じ景色が、フレームに入りきらない大きさで、わたしたちの目の前に広がっている。
わたし、本当にモルディブの海にいるんだ!
「このシャワー室で着替えるのよ」
青空の見える、つい立てで区切っただけの簡単なシャワー室に入ると、みっこはためらいもなく服を脱ぎ捨てた。
「うわ。みっこ、ダイターン!」
タオルをからだに巻いたわたしは、みっこの水着を見て、思わず声を上げた。
去年の夏にいっしょに海に行ったときは、ワンピースの水着だったけど、今日は白のビキニ。
きわどいハイレッグが脚の長さを強調していて、すごくスタイルがよく見える。
「なんか、すごい露出度ね」
「ふふ。ここにはつまらないナンパもサーファーもいないから、どんなカッコもできちゃうわ。この辺のリゾートじゃ、トップレスだってふつうだし」
「ええっ! それはちょっとまずいんじゃない?」
「どうして?」
「だって…」
わたしはふと、川島君のことを考えた。
う~ん。
みっこの胸を川島君が見るのって…
やっぱり、イヤだな。
そんなわたしの思いを察したように、みっこは『ふ~ん』と笑う。
「さつきもいっしょにトップレスにする? 気持ちいいわよ」
「ええ~っ。やだ!」
「なんなのよさつきったら。そんなタオルにくるまってモチャモチャ着替えるなんて、カッコ悪~い。パァーッと脱ぎなさいよ」
笑いながら、みっこはわたしのタオルを引っ張る。
「わ、わかったわよ。そんな、はがさないで」
しかたなくわたしも、タオルをとって着替えをする。
あまり好きじゃないんだ。
自分のはだかを人に見られるのって。
特にみっこには…
なんだかんだ言っても、わたしはやっぱり彼女に、容姿コンプレックスを持ってるもの。
つづく
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