130 / 300
12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 5
しおりを挟む
「さつき。泳ぎに行こ!」
ホテルのロビーに入ったみっこは、自分のキャリーバッグをポンと受付のカウンター前に置くと、チェックインもすまさないうちに、水着とタオルの入ったバッグだけを取り出して、『早く早く!』と、わたしをせかす。
「みっこ、不用心じゃない。荷物くらい部屋に持っていってからじゃないと」
「大丈夫よ。このホテルはアルディア化粧品の保養所だから、あたしたちの他にはだれもお客はいないし、モルディブのリゾートって、だいたいひとつの島にひとつのホテルだから、わりと安全なのよ」
「へえ~。そうなんだ」
「さすがバブル。日本企業はこんな南の島にまで、リゾートホテル建ててるんだな」
川島くんも、荷物の中からさっそくカメラを取り出しながら、感心するように言う。
「そういうこと。遊べるのは今日だけだもの。部屋にこもってるなんて、もったいないわよ。川島くんも、カメラなんて放っといて、いっしょに泳ぎましょ」
「え? ぼくも泳ぐの?」
「あたりまえじゃない。文哉さんも、星川センセも、みんなで遊びましょうよ!」
そう言いながら、みっこは子どものようにはしゃぐ。
こんな風に、彼女が可愛くわがままを言ってじゃれているのって、今まで見たことがなかった。
去年とのギャップを考えると、意外にも思えるけど、これがほんとの森田美湖なんだろな。
「まったく。遊びにきたんじゃないのよ、みっこちゃん」
『まいったわ』と言ったゼスチュアをして、星川先生はみっこをたしなめていたけど、眼鏡の奥の瞳は笑っている。この先生も藤村さんのように、みっこのわがままを可愛く感じているのかもしれない。
「まあまあ、明日からは遊ぶ暇もないくらい、ハードスケジュールになるからね。
先に行っといでよ、みっこちゃん。ぼくたちもチェックインをすませて、あとから行くから」
そう言いながら、藤村さんはみっこのキャリーケースをカートに載せて笑う。
「じゃあお願いするわ。早く来てね。ビーチで待ってる」
そう言い残すと、みっこはわたしと川島君の腕をとり、ホテルの中庭を横切って、ビーチに出た。
「うわっ!」
砂浜に立つと、太陽の光は、珊瑚のかけらでできた真っ白な砂粒からも反射してきて、よけいにまぶしい。
ガイドブックと同じ景色が、フレームに入りきらない大きさで、わたしたちの目の前に広がっている。
わたし、本当にモルディブの海にいるんだ!
「このシャワー室で着替えるのよ」
青空の見える、つい立てで区切っただけの簡単なシャワー室に入ると、みっこはためらいもなく服を脱ぎ捨てた。
「うわ。みっこ、ダイターン!」
タオルをからだに巻いたわたしは、みっこの水着を見て、思わず声を上げた。
去年の夏にいっしょに海に行ったときは、ワンピースの水着だったけど、今日は白のビキニ。
きわどいハイレッグが脚の長さを強調していて、すごくスタイルがよく見える。
「なんか、すごい露出度ね」
「ふふ。ここにはつまらないナンパもサーファーもいないから、どんなカッコもできちゃうわ。この辺のリゾートじゃ、トップレスだってふつうだし」
「ええっ! それはちょっとまずいんじゃない?」
「どうして?」
「だって…」
わたしはふと、川島君のことを考えた。
う~ん。
みっこの胸を川島君が見るのって…
やっぱり、イヤだな。
そんなわたしの思いを察したように、みっこは『ふ~ん』と笑う。
「さつきもいっしょにトップレスにする? 気持ちいいわよ」
「ええ~っ。やだ!」
「なんなのよさつきったら。そんなタオルにくるまってモチャモチャ着替えるなんて、カッコ悪~い。パァーッと脱ぎなさいよ」
笑いながら、みっこはわたしのタオルを引っ張る。
「わ、わかったわよ。そんな、はがさないで」
しかたなくわたしも、タオルをとって着替えをする。
あまり好きじゃないんだ。
自分のはだかを人に見られるのって。
特にみっこには…
なんだかんだ言っても、わたしはやっぱり彼女に、容姿コンプレックスを持ってるもの。
つづく
ホテルのロビーに入ったみっこは、自分のキャリーバッグをポンと受付のカウンター前に置くと、チェックインもすまさないうちに、水着とタオルの入ったバッグだけを取り出して、『早く早く!』と、わたしをせかす。
「みっこ、不用心じゃない。荷物くらい部屋に持っていってからじゃないと」
「大丈夫よ。このホテルはアルディア化粧品の保養所だから、あたしたちの他にはだれもお客はいないし、モルディブのリゾートって、だいたいひとつの島にひとつのホテルだから、わりと安全なのよ」
「へえ~。そうなんだ」
「さすがバブル。日本企業はこんな南の島にまで、リゾートホテル建ててるんだな」
川島くんも、荷物の中からさっそくカメラを取り出しながら、感心するように言う。
「そういうこと。遊べるのは今日だけだもの。部屋にこもってるなんて、もったいないわよ。川島くんも、カメラなんて放っといて、いっしょに泳ぎましょ」
「え? ぼくも泳ぐの?」
「あたりまえじゃない。文哉さんも、星川センセも、みんなで遊びましょうよ!」
そう言いながら、みっこは子どものようにはしゃぐ。
こんな風に、彼女が可愛くわがままを言ってじゃれているのって、今まで見たことがなかった。
去年とのギャップを考えると、意外にも思えるけど、これがほんとの森田美湖なんだろな。
「まったく。遊びにきたんじゃないのよ、みっこちゃん」
『まいったわ』と言ったゼスチュアをして、星川先生はみっこをたしなめていたけど、眼鏡の奥の瞳は笑っている。この先生も藤村さんのように、みっこのわがままを可愛く感じているのかもしれない。
「まあまあ、明日からは遊ぶ暇もないくらい、ハードスケジュールになるからね。
先に行っといでよ、みっこちゃん。ぼくたちもチェックインをすませて、あとから行くから」
そう言いながら、藤村さんはみっこのキャリーケースをカートに載せて笑う。
「じゃあお願いするわ。早く来てね。ビーチで待ってる」
そう言い残すと、みっこはわたしと川島君の腕をとり、ホテルの中庭を横切って、ビーチに出た。
「うわっ!」
砂浜に立つと、太陽の光は、珊瑚のかけらでできた真っ白な砂粒からも反射してきて、よけいにまぶしい。
ガイドブックと同じ景色が、フレームに入りきらない大きさで、わたしたちの目の前に広がっている。
わたし、本当にモルディブの海にいるんだ!
「このシャワー室で着替えるのよ」
青空の見える、つい立てで区切っただけの簡単なシャワー室に入ると、みっこはためらいもなく服を脱ぎ捨てた。
「うわ。みっこ、ダイターン!」
タオルをからだに巻いたわたしは、みっこの水着を見て、思わず声を上げた。
去年の夏にいっしょに海に行ったときは、ワンピースの水着だったけど、今日は白のビキニ。
きわどいハイレッグが脚の長さを強調していて、すごくスタイルがよく見える。
「なんか、すごい露出度ね」
「ふふ。ここにはつまらないナンパもサーファーもいないから、どんなカッコもできちゃうわ。この辺のリゾートじゃ、トップレスだってふつうだし」
「ええっ! それはちょっとまずいんじゃない?」
「どうして?」
「だって…」
わたしはふと、川島君のことを考えた。
う~ん。
みっこの胸を川島君が見るのって…
やっぱり、イヤだな。
そんなわたしの思いを察したように、みっこは『ふ~ん』と笑う。
「さつきもいっしょにトップレスにする? 気持ちいいわよ」
「ええ~っ。やだ!」
「なんなのよさつきったら。そんなタオルにくるまってモチャモチャ着替えるなんて、カッコ悪~い。パァーッと脱ぎなさいよ」
笑いながら、みっこはわたしのタオルを引っ張る。
「わ、わかったわよ。そんな、はがさないで」
しかたなくわたしも、タオルをとって着替えをする。
あまり好きじゃないんだ。
自分のはだかを人に見られるのって。
特にみっこには…
なんだかんだ言っても、わたしはやっぱり彼女に、容姿コンプレックスを持ってるもの。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ナツキス -ずっとこうしていたかった-
帆希和華
ライト文芸
紫陽花が咲き始める頃、笹井絽薫のクラスにひとりの転校生がやってきた。名前は葵百彩、一目惚れをした。
嫉妬したり、キュンキュンしたり、切なくなったり、目一杯な片思いをしていた。
ある日、百彩が同じ部活に入りたいといい、思わぬところでふたりの恋が加速していく。
大会の合宿だったり、夏祭りに、誕生日会、一緒に過ごす時間が、二人の距離を縮めていく。
そんな中、絽薫は思い出せないというか、なんだかおかしな感覚があった。フラッシュバックとでも言えばいいのか、毎回、同じような光景が突然目の前に広がる。
なんだろうと、考えれば考えるほど答えが遠くなっていく。
夏の終わりも近づいてきたある日の夕方、絽薫と百彩が二人でコンビニで買い物をした帰り道、公園へ寄ろうと入り口を通った瞬間、またフラッシュバックが起きた。
ただいつもと違うのは、その中に百彩がいた。
高校二年の夏、たしかにあった恋模様、それは現実だったのか、夢だったのか……。
17才の心に何を描いていくのだろう?
あの夏のキスのようにのリメイクです。
細かなところ修正しています。ぜひ読んでください。
選択しなくちゃいけなかったので男性向けにしてありますが、女性の方にも読んでもらいたいです。
よろしくお願いします!
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる