Campus91

茉莉 佳

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12 CANARY ENSIS

CANARY ENSIS 4

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「星川よ。川島君はカメラマン志望なんですってね」
「よろしく、首藤です。こいつはアシスタントの田中」
「はじめまして。メイクの仲澤美穂です。よろしくお願いします」
「ヘアメイキャッパーのYUKOです。みっことは何回もお仕事してるのよね」
えっ? YUKOさんって、男性?
声を聞いてはじめてわかった。
そういう人はテレビやマンガではよく見るけど、実際にこの目で見れるとは。なんかすごい世界だわ。
びっくりして、思わずどもってしまう。
「よ、よろしく。み… もっ、森田さんのマネージャー代理で、弥生さつきです」
「川島祐二です。一生懸命頑張ります! よろしくお願いします」
「そしてあたしが、モデルの森田美湖。よろしくね」
みっこは最後にそう言って、おちゃめに舌を出す。こういう愛嬌のあるところが、みっこの可愛らしさよね。
みんなの自己紹介が終わって、藤村さんが締めるように言う。
「じゃあ、これからホテルに移動だ。
本隊のCF(コマーシャルフィルム)部隊は明日の夜着く予定だし、代理店のプロデューサーやクライアントのお偉いさんたちも、明日の撮影前にしか来ないから、今日は少しはゆっくりできると思うよ。ここにいるのはスチルの撮影部隊で、みんな気心の知れた連中ばかりだから、楽しくやっていきましょう!」
そうは言ってくれても、みんな、わたしや川島君に較べると、それぞれ一流のプロフェッショナルなクリエイターばかりだもの。『緊張するな』って言う方が、無理というもの。



『ひとつの島を一周するのに1時間とかからない、小さな島々が1200以上も集まってできたモルディブ諸島は、『インド洋の首飾り』と呼ばれ、それぞれの島が『首都の島』『空港の島』『リゾートの島』という風に、役目を分担している。基本的にひとつの島にホテルはひとつで、島々の移動にはドニーと呼ばれる木製の船や高速艇、水上機が使われている』

これはみっこからもらった、ガイドブックの受け売り。
わたしたち一行は、『空港島』から水上飛行機で南に30分ほど行った、アルディア化粧品のプライベートホテルのある、リーフに囲まれた小さな島に滞在し、ここで撮影することになっていた。
フロートのついた飛行機に乗って、真っ青なインクをこぼしたような、綺麗な青のグラデーションを滲ませる珊瑚礁の島々を見ながら飛ぶうちに,やがて夏のカレンダーに出てくるみたいな、水際まで白い砂と椰子の樹が生い茂った、可愛らしい島が見えてきた。飛行機はアクアマリンの内海を純白の波で切り裂きながら着水し、簡素な桟橋に横付けになる。
 この島も西蘭女子大の敷地くらいの大きさしかなくて、桟橋の先には真っ白でしゃれた、2階建てのリゾートホテルがひとつ。その横にはプールとテニスコートといった施設が並んでいて、向こうの岬には水上コテージが何棟かあるだけ。
それ以外はただ、真っ白な足跡ひとつない砂浜と、南国特有のギザギザな葉っぱを繁らせた、小さな森。そして、インド洋の荒波が砕けている、沖のリーフだけだった。
そんな眺めはシンプルで、鮮やかで強烈。
まさに、化粧品のCMに出てくるような景色だった。

つづく
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