Campus91

茉莉 佳

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12 CANARY ENSIS

CANARY ENSIS 3

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「あははは… ふたりとも、そんなに固くならなくていいよ。ぼくは小さい頃からのみっこちゃんを知っているけど、彼女は学校でもモデルクラブでも、あまり友だちがいなかったんだ。だから、彼女の友だちなら大歓迎だよ。まあ、今回のロケは遊びにきたつもりで、楽しんでいってよ」
「もうっ。ダメじゃない文哉さん。甘やかしちゃ。ふたりともバイトに来てるんだから、思いっきりこき使ってやってよ」
お父さんが娘を思いやるような藤村さんの言い方に、みっこは照れくささを誤摩化しながら言う。
「なに言ってんだい。みっこちゃんの友だちだから、甘いんじゃないか」
「文哉さんったら… 『ちゃん』づけはもうやめて」
みっこの頭をくしゃくしゃと撫でる藤村さんを、彼女は上目づかいにはにかむように見上げる。
こんな、甘えるようなむっこの表情って、見たことがない。
このふたりは本当に仲がいいんだな。
さっきは『お父さんと娘』みたいな印象を受けたけど、見方によってはまるで、『お兄さんと、うんと年の離れた妹』のようにも感じる。
「まだまだ未熟ですけど、精いっぱい頑張りますので、よろしくお願いします」
川島君は張り切って答える。
わたしも釣られて、『よろしくお願いします。なんでもしますので』と、ペコペコと頭を下げた。
「ははは。その様子じゃ、ずいぶんみっこちゃんに脅されたみたいだね。
まあ、確かに一応『スタッフ』なんだし、ちゃんと働いてもらうよ。弥生さん… 「さつきちゃん」でいいかな?」
「え? あ、はい」
「さつきちゃんには、みっこちゃんのマネージャーが来るまで、彼女のスケジュール管理と、世話や雑用をやってもらうつもりだし、川島君は主に、撮影機材の設営や撤収の手伝いを頼むよ。その辺の指示は、星川先生から出るから」
「はい」「はい」
わたしと川島君の返事がダブる。藤村さんは仕事の話になると、急にハキハキとした業務口調に変わった。口調はソフトなままなんだけど、冷静で客観的な物言いに、人を引っ張っていく力を感じる。
「ふたりとも、撮影スケジュール表には、もう目を通しているかな?」
「はい! 把握しています」
「はい」
はきはきと川島君が答え、わたしも続いた。
「うん。その表にあるように、CF撮りは明後日からで、明日は先にスチルを撮るから」
「はい」
「川島君は写真の専門学校生という話だけど、技術的なことはともかく、君自身の機転で、積極的に行動してくれることを、期待しているよ」
「はい。頑張ります!」
「よし。他のスタッフを紹介しよう」
そう言って、藤村さんはスタッフひとりひとりを、わたしたちに紹介してくれた。

オールバックのひげのおじさんは、ディレクター・カメラマンの星川英司先生。この先生はしゃべり方がいかにも『業界人』って感じで、ちょっと女言葉がかっていておもしろい。
黒いTシャツで、地元の人みたいに真っ黒に日焼けした若い男の人は、チーフアシスタントの首藤さんで、そのうしろにはアシスタントの若い男性。
ソバージュのヘアをトップでくくった、ちっちゃくて綺麗な女の人は、メイクアップアーティストの仲澤さん。背が高くてスレンダーな長いワンレングスヘアの女性は、ヘアメイキャッパーのYUKOさん。それぞれわたしたちを、好意的に迎えてくれた。

つづく
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