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「ねぇ。さつきの方はどうなってるの?」
「なにが?」
「小説講座のコンクール」
会話がひと段落しておしゃべりが途切れ、それぞれ思い思いに雑誌を見たり、おかしを食べたりしているとき、ふと、みっこがわたしに訊いてきた。
「もうすぐ後期の講座が終わって、コンクールの締め切りなんでしょ? お話しの方は進んでる?」
「そうねぇ… 実はそのことで今、いろいろ悩んでたんだ。
前が最終選考までいったでしょ。だから今度こそ、なにかの賞に入りたいんだけど、いまいちパッとしたストーリー、思いつかないのよ」
「大丈夫なの?」
「ん~… あまり時間がないから焦るばっかりで… だけど今はなんか、煮詰まっちゃってるのよね~。ううっ」
「頑張ってよね、さつき」
「ねえみっこ。なにかいいネタない?」
「ネタって言われてもねぇ… 寿司屋じゃないんだし」
「それ、ギャグのつもり?」
「あ。すべった?」
「はは。いっそのこと、みっこをモデルにして書いてみようか? 生意気でわがままな小娘モデルの話」
「あ。それいいわね。そのかわり入賞して賞金とかが入ったら、半分いただくわよ。あたしのモデル料は高いんだから。覚悟しててね」
「みっこ、せこい~!」
「あははは」
わたしたちは顔を見合わせて笑う。
『何ごとか』と、ナオミは雑誌から顔を上げて、こちらを見た。
「だけどさつき、いいお話しが書けるのなら、あたしなんでも協力するわよ。さつきには絶対、自分の夢を実現してもらいたいもの」
「ありがとう、みっこ」
お礼を言うわたしに、みっこは微笑んだ。
彼女のこんなやすらかな笑みを見ていると、こっちまで癒されてくる。
去年はいろんなことがあって、その度に辛そうなみっこも見てきたけど、そんな冬の季節は、もう終わったのかもしれない。
「ねえ。みっこにはもう、見えるようになった?」
カーテン越しの柔らかな光に、ふんわりとしたシルエットを描いているみっこを見つめて、わたしは訊いた。「ん? なにが?」
「去年のわたしの誕生日に、みっこ言ってたじゃない。『あたし… 今はまだ、なんにも見えない』って…」
なにかを憶い出すように、ティーカップの方へ軽く目を伏せたみっこは、そのときと同じ台詞を言った。
「さつきはあたしが、なにになればいいと思う?」
「モデル」
「ふふ… ありがと。頑張る」
「でもこれからは、みっこも東京で仕事することが多くなるんでしょ? 学校にはちゃんと来れる?」
「…わかんない。
けど、あたし、西蘭女子大学が大好きよ。だから、できるだけこちらでの生活をメインにするつもり」
「みっこがモデルで忙しくなっても、今までみたいにつきあっていければいいんだけど…」
「バカね。なに言ってるの。さつきこそ売れっ子小説家になっても、あたしを忘れないでね」
「あはは… それって、いったい何年後の話だろ? って言うか,そんな日が来るのかな?」
「夢の実現には時間もかかるけど、いっしょに頑張ろうね。さつき」
「そうだね。そしていつまでも、友だちでいようね」
「…ん」
うなづいたみっこは、じっとわたしの瞳を見つめた。
『なにかが変わっていきそう』
そんな予感が、わたしの中にあった。
彼女がモデルの仕事をはじめれば、今までのように、頻繁には会えなくなるだろうし、今は学校があるからこちらにいても、卒業後は東京に戻ってしまうだろう。
二年制の専門学校に通う川島くんも、来年には卒業して、どこかへ就職するだろう。
みっことも川島くんとも、今の関係がずっとつづくわけじゃない。
それは寂しいことだけど、いつか川島君が言っていたように、『お互いが相手のことを思いやってさえいれば、ターニング・ポイントなんて来ない』って、わたしも信じている。
だってわたしは、いつまでもずっと、みっこと親友でいたいから。
みっこ以上に印象的で魅力的な友達は、もうできないと思うから。
そして、川島くんとも…
「なんだか静かになったと思ったら、ナオミ眠ってるんじゃない?
やっぱりハードだったのかなぁ。かなり厳しくレッスンしたものね」
みっこはそう言って、ファッション雑誌を枕に、両手にクッションを抱えて、床に転がっているナオミに、毛布をかけてあげる。
安らかな顔でうたたねするナオミをやさしく見つめ、まるで自分の夢を語るように言った。
「パリのファッションショーで、ランウェイを歩いてる夢でも見てるのかもね」
END
25th Jul. 2011初稿
19th Jun.2017改稿
17th Nov.2017改稿
21th Feb.2020改稿
「なにが?」
「小説講座のコンクール」
会話がひと段落しておしゃべりが途切れ、それぞれ思い思いに雑誌を見たり、おかしを食べたりしているとき、ふと、みっこがわたしに訊いてきた。
「もうすぐ後期の講座が終わって、コンクールの締め切りなんでしょ? お話しの方は進んでる?」
「そうねぇ… 実はそのことで今、いろいろ悩んでたんだ。
前が最終選考までいったでしょ。だから今度こそ、なにかの賞に入りたいんだけど、いまいちパッとしたストーリー、思いつかないのよ」
「大丈夫なの?」
「ん~… あまり時間がないから焦るばっかりで… だけど今はなんか、煮詰まっちゃってるのよね~。ううっ」
「頑張ってよね、さつき」
「ねえみっこ。なにかいいネタない?」
「ネタって言われてもねぇ… 寿司屋じゃないんだし」
「それ、ギャグのつもり?」
「あ。すべった?」
「はは。いっそのこと、みっこをモデルにして書いてみようか? 生意気でわがままな小娘モデルの話」
「あ。それいいわね。そのかわり入賞して賞金とかが入ったら、半分いただくわよ。あたしのモデル料は高いんだから。覚悟しててね」
「みっこ、せこい~!」
「あははは」
わたしたちは顔を見合わせて笑う。
『何ごとか』と、ナオミは雑誌から顔を上げて、こちらを見た。
「だけどさつき、いいお話しが書けるのなら、あたしなんでも協力するわよ。さつきには絶対、自分の夢を実現してもらいたいもの」
「ありがとう、みっこ」
お礼を言うわたしに、みっこは微笑んだ。
彼女のこんなやすらかな笑みを見ていると、こっちまで癒されてくる。
去年はいろんなことがあって、その度に辛そうなみっこも見てきたけど、そんな冬の季節は、もう終わったのかもしれない。
「ねえ。みっこにはもう、見えるようになった?」
カーテン越しの柔らかな光に、ふんわりとしたシルエットを描いているみっこを見つめて、わたしは訊いた。「ん? なにが?」
「去年のわたしの誕生日に、みっこ言ってたじゃない。『あたし… 今はまだ、なんにも見えない』って…」
なにかを憶い出すように、ティーカップの方へ軽く目を伏せたみっこは、そのときと同じ台詞を言った。
「さつきはあたしが、なにになればいいと思う?」
「モデル」
「ふふ… ありがと。頑張る」
「でもこれからは、みっこも東京で仕事することが多くなるんでしょ? 学校にはちゃんと来れる?」
「…わかんない。
けど、あたし、西蘭女子大学が大好きよ。だから、できるだけこちらでの生活をメインにするつもり」
「みっこがモデルで忙しくなっても、今までみたいにつきあっていければいいんだけど…」
「バカね。なに言ってるの。さつきこそ売れっ子小説家になっても、あたしを忘れないでね」
「あはは… それって、いったい何年後の話だろ? って言うか,そんな日が来るのかな?」
「夢の実現には時間もかかるけど、いっしょに頑張ろうね。さつき」
「そうだね。そしていつまでも、友だちでいようね」
「…ん」
うなづいたみっこは、じっとわたしの瞳を見つめた。
『なにかが変わっていきそう』
そんな予感が、わたしの中にあった。
彼女がモデルの仕事をはじめれば、今までのように、頻繁には会えなくなるだろうし、今は学校があるからこちらにいても、卒業後は東京に戻ってしまうだろう。
二年制の専門学校に通う川島くんも、来年には卒業して、どこかへ就職するだろう。
みっことも川島くんとも、今の関係がずっとつづくわけじゃない。
それは寂しいことだけど、いつか川島君が言っていたように、『お互いが相手のことを思いやってさえいれば、ターニング・ポイントなんて来ない』って、わたしも信じている。
だってわたしは、いつまでもずっと、みっこと親友でいたいから。
みっこ以上に印象的で魅力的な友達は、もうできないと思うから。
そして、川島くんとも…
「なんだか静かになったと思ったら、ナオミ眠ってるんじゃない?
やっぱりハードだったのかなぁ。かなり厳しくレッスンしたものね」
みっこはそう言って、ファッション雑誌を枕に、両手にクッションを抱えて、床に転がっているナオミに、毛布をかけてあげる。
安らかな顔でうたたねするナオミをやさしく見つめ、まるで自分の夢を語るように言った。
「パリのファッションショーで、ランウェイを歩いてる夢でも見てるのかもね」
END
25th Jul. 2011初稿
19th Jun.2017改稿
17th Nov.2017改稿
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