Campus91

茉莉 佳

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Invitation 14

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 マンションの南側にある1階のスタジオは、明るい木目のフローリングで仕上げられた、教室ほどもある広い空間。
壁一面に取りつけられた大きな鏡と、二本のレッスンバー、オーディオセットしかない明るい部屋に、冬の太陽が白い陽だまりを作っている。
重いドアを開いてなかに入ると、ひんやりとした冬の空気が動き出した。
ロングセーターを脱が、レオタード姿になったみっこは、オーディオのスイッチを入れ、プレーヤーのトレイを開く。
部屋から持ってきたCDをセットしながら、みっこは思い出したように、背中越しにわたしに言った。

「そういえば、昨夜ゆうべ、さつきね」
「ん?」
「ドレッシングルームで泣いてたあたしに、声かけないで見守ってくれてたでしょ?」
「えっ?! みっこ、気づいてたの?」
「ん…」
そう応えて、みっこはわたしを振り返って見つめた。
「あのとき、あたし。あなたのことを、本当の『親友だ』って思えたの」
「え?」
みっこはまっすぐにわたしの瞳を見つめる。
逆光がまぶしい。
「慰めとか、同情とか。ほしいなんて思ったこと、なかった。
一生ひとりで生きていくんだって、思ってた。
あたし… 今まで親友なんていなかったから、だれにも弱みをさらしたくなかったし、むしろ、弱い自分を見られるのは、付け込まれる隙を与えるみたいで、とってもイヤだった。」
「…」
「でも、自分の悩みとか苦しみを打ち明けて、いっしょに分かち合ってくれる人がいるって、いいね」
「…」
「あたし。西蘭女子大に来て… あなたに会えて… 本当によかった」

微笑みながら語るみっこの瞳。
わずかに潤んでいるように見える。

そんな風に言われると…
わたし…
なんて答えていいか、わからないじゃない。

ただね、みっこ。
わたしもずっと前から…
みっこのこと、親友だって思ってたよ。

「みっ…」

わたしの言葉を遮るように、曲のイントロが大きなスピーカーを揺さぶって、高らかに鳴りはじめた。
ああ… 懐かしい。
ABBAの『Dancing Queen』。


    You are the Dancing Queen
    young and sweet only seventeen
    Dancing Queen
    feel the beet from the tambourine
    you can dance, you can jive
    having the time of your life
    see that girl, watch that scene
    dig in the Dancing Queen


透けるように綺麗なカルテットのヴォーカルに乗って、みっこが冬の陽だまりのなかに舞う。
細く尖った脚先が、宙空に綺麗な軌跡を描いてゆく。
ふんわりと広がった髪が逆光を受けて、金色の糸のように、キラキラと輝く。

冬の柔らかな日射しの中で、みっこはいつまでもまわり続けた。

END

22th Apr. 2011 初稿
18th Jun.2017 改稿
10th Nov.2017 改稿
12th Feb.2020 改稿
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