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「み、みっこだって、そうだったんでしょ!」
恥ずかしさを隠すように、わたしはあわてて言う。ポッと頬をピンク色に染めて、みっこはうなずいた。
「なんだか、ビデオでも見てるみたい。その頃のあたしの情景は、心の中にはっきり見えるんだけど、今じゃ自分のことじゃないようで、映画かなにかのワンシーンみたいに感じるの」
「それで? みっこのファーストキスはどうだったの?」
好奇心にかられて、わたしは思わずみっこに突っ込んだ。
「どうって… 不思議なものね。本や映画や人の話なんかで、知識はいっぱいあるつもりだったのに、実際にくちびるが重なると、なにも考えられなくなっちゃう」
「そっか~。やっぱりそうよね」
「やっぱり?」
「いや… まあまあ。今はみっこの話だから。それで?」
「ふふ。まあ、いいわ。その話は、次の機会にたっぷり聞かせてもらうから」
「あ、藍沢さんって、キスとかも上手そうよね~」
話題を変えようとしてそう切り出すと、みっこは思い出に耽るように頬を染めながら軽く微笑み、また自分の『映画のワンシーン』に戻っていった。
「そうなのよ。直樹さんったら、軽いフレンチキスからディープなのまで、いろんなキスをしてくれたな。
キスしながらあの人、軽く唇を噛んだり、舌を動かしたりするの。そんな風にされると、つい、声が出ちゃって。ガマンしようとしても、どうしても漏れてきちゃうの。
『みっこの声、とっても可愛いよ』なんて、直樹さんは言うんだけど、そう言われると、もっと恥ずかしくなっちゃう」
「うん、うん、それで?」
「それで… 結局、そうなってしまったのよ」
「そうなったって… どうなったの?」
「もうっ。さつきったら、あんまり訊かないでよ。恥ずかしいじゃない」
耳たぶまで真っ赤に染めて、みっこは拒むけど、わたしの好奇心は、もう止まらない。
「いいじゃない。昨日はみっこだって、わたしと川島君のこと訊いてたじゃない。あのときははぐらかされたけど、今日はここまで話したんだから、全部言っちゃいなさいよ」
「んもうっ…」
「それで、どうなったの?」
「どうって言われても… さつきも、してみればわかるわよ」
「わ、わたしはまだ、そんなことしないんだから!」
思わず興奮してかぶりを振ったわたしに、みっこは察したように言う。
「そんなこと言ってても、実際、キスをしてしまえば、そうなるのは早いものよ」
「そっ、そうかな?」
「あたしも、『高校卒業するまでは、エッチとかしない』って、直樹さんに宣言してたのに、キスをされちゃうともうダメ。
肌が触れあうのが愛しいっていうのかな?
もっと深いところまで愛してほしいっていうか、それ以上のものがほしくなってくるの。
あれは、高校一年の夏休みだったわ。
ロケ先のデンマークにあの人も自費でついて来て、ロケのみんなと一緒に泊まっていたホテルを、あたしは夜中に抜け出して、直樹さんが泊まっていたホテルの部屋で、はじめて結ばれたの」
「ロケ先のデンマークのホテル? なんだかすっごく、ロマンティックね!」
「そうね。一生忘れられない想い出かも。
白夜で、空が一晩中白んでいて、幻想的な夜だった。
まるで夢の中のできごとみたいに、直樹さんはあたしの全身を優しく撫でてくれて、気がつくと、あたしの中に入ってきてて、頭は朦朧となって、シャガールの絵みたいに、いろんな景色の断片が、浮かんでは消えていくような感じだった。
だけど朝、目が醒めると、シーツが汚れちゃってて、おなかの下に妙な違和感があって、痛くって、気分がすぐれなかったわ。だからもう、二度としないって誓った」
つづく
恥ずかしさを隠すように、わたしはあわてて言う。ポッと頬をピンク色に染めて、みっこはうなずいた。
「なんだか、ビデオでも見てるみたい。その頃のあたしの情景は、心の中にはっきり見えるんだけど、今じゃ自分のことじゃないようで、映画かなにかのワンシーンみたいに感じるの」
「それで? みっこのファーストキスはどうだったの?」
好奇心にかられて、わたしは思わずみっこに突っ込んだ。
「どうって… 不思議なものね。本や映画や人の話なんかで、知識はいっぱいあるつもりだったのに、実際にくちびるが重なると、なにも考えられなくなっちゃう」
「そっか~。やっぱりそうよね」
「やっぱり?」
「いや… まあまあ。今はみっこの話だから。それで?」
「ふふ。まあ、いいわ。その話は、次の機会にたっぷり聞かせてもらうから」
「あ、藍沢さんって、キスとかも上手そうよね~」
話題を変えようとしてそう切り出すと、みっこは思い出に耽るように頬を染めながら軽く微笑み、また自分の『映画のワンシーン』に戻っていった。
「そうなのよ。直樹さんったら、軽いフレンチキスからディープなのまで、いろんなキスをしてくれたな。
キスしながらあの人、軽く唇を噛んだり、舌を動かしたりするの。そんな風にされると、つい、声が出ちゃって。ガマンしようとしても、どうしても漏れてきちゃうの。
『みっこの声、とっても可愛いよ』なんて、直樹さんは言うんだけど、そう言われると、もっと恥ずかしくなっちゃう」
「うん、うん、それで?」
「それで… 結局、そうなってしまったのよ」
「そうなったって… どうなったの?」
「もうっ。さつきったら、あんまり訊かないでよ。恥ずかしいじゃない」
耳たぶまで真っ赤に染めて、みっこは拒むけど、わたしの好奇心は、もう止まらない。
「いいじゃない。昨日はみっこだって、わたしと川島君のこと訊いてたじゃない。あのときははぐらかされたけど、今日はここまで話したんだから、全部言っちゃいなさいよ」
「んもうっ…」
「それで、どうなったの?」
「どうって言われても… さつきも、してみればわかるわよ」
「わ、わたしはまだ、そんなことしないんだから!」
思わず興奮してかぶりを振ったわたしに、みっこは察したように言う。
「そんなこと言ってても、実際、キスをしてしまえば、そうなるのは早いものよ」
「そっ、そうかな?」
「あたしも、『高校卒業するまでは、エッチとかしない』って、直樹さんに宣言してたのに、キスをされちゃうともうダメ。
肌が触れあうのが愛しいっていうのかな?
もっと深いところまで愛してほしいっていうか、それ以上のものがほしくなってくるの。
あれは、高校一年の夏休みだったわ。
ロケ先のデンマークにあの人も自費でついて来て、ロケのみんなと一緒に泊まっていたホテルを、あたしは夜中に抜け出して、直樹さんが泊まっていたホテルの部屋で、はじめて結ばれたの」
「ロケ先のデンマークのホテル? なんだかすっごく、ロマンティックね!」
「そうね。一生忘れられない想い出かも。
白夜で、空が一晩中白んでいて、幻想的な夜だった。
まるで夢の中のできごとみたいに、直樹さんはあたしの全身を優しく撫でてくれて、気がつくと、あたしの中に入ってきてて、頭は朦朧となって、シャガールの絵みたいに、いろんな景色の断片が、浮かんでは消えていくような感じだった。
だけど朝、目が醒めると、シーツが汚れちゃってて、おなかの下に妙な違和感があって、痛くって、気分がすぐれなかったわ。だからもう、二度としないって誓った」
つづく
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