92 / 300
09 Moulin Rouge
Moulin Rouge 7
しおりを挟む
4・5曲続けて踊ったふたりは、はぁはぁと息をはずませながら、ボックスに戻ってきた。
「最高!」
倒れこむようにソファーに埋もれたみっこは、そう言ってひといきにハイ・ボールを飲み干し、芳賀さんはそのとなりに腰を下ろし、ジャケットのポケットをさぐり、真っ赤な箱のタバコとライターを取り出した。
「みっこ。すっごいよかったわよ。ふたりとも息がぴったり合ってたし」
「ランバダってテレビでは見たことあるけど、生だと余計に迫力あるというか、悩ましすぎるダンスだな。森田さん、感動したよ」
わたしと川島君は、口々に感想を述べた。
「ありがと」
「あたりまえさ。みっこと俺は、ジャズダンスのチームメイトだもんな」
「えっ。みっこはバレエの他にジャズダンスまでやってたの? わたし全然知らなかった」
「だろ。こいつ、クールだもんな。自分のこととか話さないし。まぁ、そこがミステリアスでもあるんだけどな」
ソファーからいきなり身を起こしたみっこは、火をつけたばかりの芳賀さんの『LARK』を、いきなり口許からつまみ取った。
「あたしの前でタバコ吸わないでって、言ったでしょ」
『LARK』を灰皿でもみ消しながら、みっこは続けた。
「そうよ、チームメイト。でもあなたのダンス、まだまだヘタクソよ」
みっこはそう言って芳賀さんをからかったが、川島君の台詞もあってか、そのときのみっこの彼を見る目が、わたしにもとても冷たく感じられてしまった。
「そりゃ、おまえから見れば俺達全員、まだまだドシロウトさ」
「技術もだけど、芳賀くんって、いっしょに踊ってると『照れ』が見え隠れするのよね~。
特にランバダみたいなラテン系のダンスって、自分に酔うことが大事よ。
ホールドしてる相手が照れてると、こっちまで恥ずかしくなってしまうんだから」
「ああ。悪りぃ。でも、おまえの柔肌が腕に絡みついてくると、どうしても意識しちまうぜ」
「もうっ。だからダンスのときは、そんなこと考えないでくれる?」
「あ、ああ…」
「あんまり下心が透けてみえるようだと、もういっしょに踊らないからね!」
「わ、悪りぃ…」
「あの…」
横から口をはさむ。
「みっこと芳賀さんは、いつからいっしょに踊ってるの?」
助かったとばかりに、芳賀さんが答えてくれた。
「今年の夏くらいかな? タウン誌にメンバー募集の公告を出したら、こいつが来たんだけど、いきなりすごいの踊ってくれてさ。俺たちメンバーを、全員みじめな気分にしてくれたってわけさ」
「芳賀くんはプロダンサー志望でしょ?
あたしのダンスくらいでみじめになってるようじゃ、プロになんかなれないわよ」
「バカ言うなよ。おまえくらいスタイルと顔がよくて、踊りの上手い女なんて、プロにだってそんなにいないぜ。俺が惚れてしまうのも、無理ないだろ」
「…」
芳賀さんの言葉に熱く瞳を閉じて、めまいを抑えるかのように、みっこはソファーに身を沈める。
そうか。
少なくとも芳賀さんは、みっこのことが好きなのね。
つづく
「最高!」
倒れこむようにソファーに埋もれたみっこは、そう言ってひといきにハイ・ボールを飲み干し、芳賀さんはそのとなりに腰を下ろし、ジャケットのポケットをさぐり、真っ赤な箱のタバコとライターを取り出した。
「みっこ。すっごいよかったわよ。ふたりとも息がぴったり合ってたし」
「ランバダってテレビでは見たことあるけど、生だと余計に迫力あるというか、悩ましすぎるダンスだな。森田さん、感動したよ」
わたしと川島君は、口々に感想を述べた。
「ありがと」
「あたりまえさ。みっこと俺は、ジャズダンスのチームメイトだもんな」
「えっ。みっこはバレエの他にジャズダンスまでやってたの? わたし全然知らなかった」
「だろ。こいつ、クールだもんな。自分のこととか話さないし。まぁ、そこがミステリアスでもあるんだけどな」
ソファーからいきなり身を起こしたみっこは、火をつけたばかりの芳賀さんの『LARK』を、いきなり口許からつまみ取った。
「あたしの前でタバコ吸わないでって、言ったでしょ」
『LARK』を灰皿でもみ消しながら、みっこは続けた。
「そうよ、チームメイト。でもあなたのダンス、まだまだヘタクソよ」
みっこはそう言って芳賀さんをからかったが、川島君の台詞もあってか、そのときのみっこの彼を見る目が、わたしにもとても冷たく感じられてしまった。
「そりゃ、おまえから見れば俺達全員、まだまだドシロウトさ」
「技術もだけど、芳賀くんって、いっしょに踊ってると『照れ』が見え隠れするのよね~。
特にランバダみたいなラテン系のダンスって、自分に酔うことが大事よ。
ホールドしてる相手が照れてると、こっちまで恥ずかしくなってしまうんだから」
「ああ。悪りぃ。でも、おまえの柔肌が腕に絡みついてくると、どうしても意識しちまうぜ」
「もうっ。だからダンスのときは、そんなこと考えないでくれる?」
「あ、ああ…」
「あんまり下心が透けてみえるようだと、もういっしょに踊らないからね!」
「わ、悪りぃ…」
「あの…」
横から口をはさむ。
「みっこと芳賀さんは、いつからいっしょに踊ってるの?」
助かったとばかりに、芳賀さんが答えてくれた。
「今年の夏くらいかな? タウン誌にメンバー募集の公告を出したら、こいつが来たんだけど、いきなりすごいの踊ってくれてさ。俺たちメンバーを、全員みじめな気分にしてくれたってわけさ」
「芳賀くんはプロダンサー志望でしょ?
あたしのダンスくらいでみじめになってるようじゃ、プロになんかなれないわよ」
「バカ言うなよ。おまえくらいスタイルと顔がよくて、踊りの上手い女なんて、プロにだってそんなにいないぜ。俺が惚れてしまうのも、無理ないだろ」
「…」
芳賀さんの言葉に熱く瞳を閉じて、めまいを抑えるかのように、みっこはソファーに身を沈める。
そうか。
少なくとも芳賀さんは、みっこのことが好きなのね。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ワンポイント〜女子プロ野球選手・立花楓の記録〜
弥生倫
ライト文芸
【女子プロ野球選手、誕生。IFを描いた本格(?)野球小説!】
日本プロ野球に、女子選手の登録が認められた。
そして、いつしかプロ野球チームに女子選手が所属するのが当たり前となった時代。
彼女達の実際は、人気集めのアイドル、マスコット的な役割のみを求められるのが現状だった。
そんな中、超弱小球団・湘南ドルフィンズの新監督に就任したリッキー・ホワイトランが、ドラフト会議で女子選手に異例の上位指名を行う。
彼女の名は「立花楓・22歳」。
これは、プロ野球選手のアイデンティティを変えた、一人の女子の記録である。
※本作品は他サイトとマルチ投稿しています。
おやすみご飯
水宝玉
ライト文芸
もう疲れた。
ご飯を食べる元気もない。
そんな時に美味しい匂いが漂ってきた。
フラフラと引き寄せられる足。
真夜中に灯る小さな灯り。
「食べるって、生きるっていう事ですよ」
王室公式のメロンクリームソーダ
佐藤たま
ライト文芸
昭和の終わり。
東京の大学に進学した佐藤トウコは、恋愛経験ゼロ。
そんな彼女に【トウコ、初カレ作るぞ計画!】彼氏が欲しいのなら、男の子ウケ狙ってキャラ変しようという話が持ち上がった。
サークルの合宿で知りあった松永 優と親しくなり、ふたりはつきあうことに…。
しかし、初めての彼氏、松永とつきあいだして1年の記念日に彼はいなかった。
数日前、ケンカ別れしたままトウコの前から姿を消したのだ。
ひとりの記念日から始まるストーリーです。
Dear “Dear”
りずべす
ライト文芸
大昔から、人類は人形を生み出してきた。
西暦三千年超。人類はその技術を高めた末、自らの生活を支える存在《ディア》を作り出す。ディアは海洋に建つ巨大な塔《世界樹(ワールドツリー)》によって稼働し、人類の無二のパートナーとしてその社会の根幹を担った。
そんな時代に生きる男子高校生那城蓮(なしろれん)は、ある日、街の展望台でディアと自称する女性アイリスに出会う。しかし蓮はそれが信じられなかった。蓮は彼女のことを人間だと思ったのだ。
後日学校で、蓮は友人の遠山珀(とおやまはく)に、アイリスについて相談する。珀は大昔にディアを開発した大企業《ガラテイア》の子息であった。
しかしそこに、珀の双子の姉である遠山翆(とおやますい)が二人を訪ねてきて、学校の先生が所有するという人間そっくりなディアについての調査を頼まれる。アイリスとの関連性も鑑み、蓮は調査を引き受けることにした。
転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~
おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。
婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。
しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。
二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。
彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。
恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。
ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。
それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。
アマツヘグイ
雨愁軒経
ライト文芸
幼い頃の経験がきっかけで血液を好むようになり、家族から見放された少女・薄墨冬子。
国語教師である長谷堂栄助が、彼女の自傷現場を目撃してしまったことをきっかけに、二人の『食事』と称した逢瀬が重ねられていく。
かつての失恋以来、心に仮面を被り続けてきた栄助。
どうせ誰にも受け入れられないのならと、仮面さえ放棄した冬子。
教師と生徒という禁断。血液嗜好症という禁忌。
不器用な二人の『食事』という鈍い愛は、業に縛られるヨモツヘグイとなるのか、あるいは――
【完結】君と国境を越えて
朱村びすりん
ライト文芸
イギリス人の両親を持つ高校一年生のイヴァン・ファーマーは、生まれは日本、育ちも日本、習慣や言語、そして心さえも「日本人」として生きてきた。
だがイヴァンは、見た目や国籍によって周囲の人々に「勘違い」をされてしまうことが多々ある。
自らの人種と心のギャップに幼い頃から疑問を持ち続けていた。
そんなある日、イヴァンの悩みを理解してくれる人物が現れた。
彼が働くバイト先のマニーカフェに、お客さんとして来店してきた玉木サエ。
イヴァンが悩みを打ち明けると、何事にも冷静沈着な彼女は淡々とこう答えるのだ。
「あなたはどこにでもいる普通の男子高校生よ」
イヴァンにとって初めて、出会ったときから自分を「自分」として認めてくれる相手だった。進路についても、深く話を聞いてくれる彼女にイヴァンは心を救われる。
だが彼女の後ろ姿は、いつも切なさや寂しさが醸し出されている。
彼女は他人には言えない、悩みを抱えているようで……
自身のアイデンティティに悩む少年少女の苦悩や迷い、その中で芽生える特別な想いを描いたヒューマンストーリー。
◆素敵な表紙絵はみつ葉さま(@mitsuba0605 )に依頼して描いていただきました!
僕の彼女はアイツの親友
みつ光男
ライト文芸
~僕は今日も授業中に
全く椅子をずらすことができない、
居眠りしたくても
少し後ろにすら移動させてもらえないんだ~
とある新設校で退屈な1年目を過ごした
ごくフツーの高校生、高村コウ。
高校2年の新学期が始まってから常に
コウの近くの席にいるのは
一言も口を聞いてくれない塩対応女子の煌子
彼女がコウに近づいた真の目的とは?
そしてある日の些細な出来事をきっかけに
少しずつ二人の距離が縮まるのだが
煌子の秘められた悪夢のような過去が再び幕を開けた時
二人の想いと裏腹にその距離が再び離れてゆく。
そして煌子を取り巻く二人の親友、
コウに仄かな思いを寄せる美月の想いは?
遠巻きに二人を見守る由里は果たして…どちらに?
恋愛と友情の狭間で揺れ動く
不器用な男女の恋の結末は
果たして何処へ向かうのやら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる