Campus91

茉莉 佳

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09 Moulin Rouge

Moulin Rouge 7

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 4・5曲続けて踊ったふたりは、はぁはぁと息をはずませながら、ボックスに戻ってきた。
「最高!」
倒れこむようにソファーに埋もれたみっこは、そう言ってひといきにハイ・ボールを飲み干し、芳賀さんはそのとなりに腰を下ろし、ジャケットのポケットをさぐり、真っ赤な箱のタバコとライターを取り出した。
「みっこ。すっごいよかったわよ。ふたりとも息がぴったり合ってたし」
「ランバダってテレビでは見たことあるけど、生だと余計に迫力あるというか、悩ましすぎるダンスだな。森田さん、感動したよ」
わたしと川島君は、口々に感想を述べた。
「ありがと」
「あたりまえさ。みっこと俺は、ジャズダンスのチームメイトだもんな」
「えっ。みっこはバレエの他にジャズダンスまでやってたの? わたし全然知らなかった」
「だろ。こいつ、クールだもんな。自分のこととか話さないし。まぁ、そこがミステリアスでもあるんだけどな」
ソファーからいきなり身を起こしたみっこは、火をつけたばかりの芳賀さんの『LARK』を、いきなり口許くちもとからつまみ取った。
「あたしの前でタバコ吸わないでって、言ったでしょ」
『LARK』を灰皿でもみ消しながら、みっこは続けた。
「そうよ、チームメイト。でもあなたのダンス、まだまだヘタクソよ」
みっこはそう言って芳賀さんをからかったが、川島君の台詞もあってか、そのときのみっこの彼を見る目が、わたしにもとても冷たく感じられてしまった。
「そりゃ、おまえから見れば俺達全員、まだまだドシロウトさ」
「技術もだけど、芳賀くんって、いっしょに踊ってると『照れ』が見え隠れするのよね~。
特にランバダみたいなラテン系のダンスって、自分に酔うことが大事よ。
ホールドしてる相手が照れてると、こっちまで恥ずかしくなってしまうんだから」
「ああ。悪りぃ。でも、おまえの柔肌が腕に絡みついてくると、どうしても意識しちまうぜ」
「もうっ。だからダンスのときは、そんなこと考えないでくれる?」
「あ、ああ…」
「あんまり下心が透けてみえるようだと、もういっしょに踊らないからね!」
「わ、悪りぃ…」
「あの…」
横から口をはさむ。
「みっこと芳賀さんは、いつからいっしょに踊ってるの?」
助かったとばかりに、芳賀さんが答えてくれた。
「今年の夏くらいかな? タウン誌にメンバー募集の公告を出したら、こいつが来たんだけど、いきなりすごいの踊ってくれてさ。俺たちメンバーを、全員みじめな気分にしてくれたってわけさ」
「芳賀くんはプロダンサー志望でしょ?
あたしのダンスくらいでみじめになってるようじゃ、プロになんかなれないわよ」
「バカ言うなよ。おまえくらいスタイルと顔がよくて、踊りの上手い女なんて、プロにだってそんなにいないぜ。俺が惚れてしまうのも、無理ないだろ」
「…」
芳賀さんの言葉に熱く瞳を閉じて、めまいを抑えるかのように、みっこはソファーに身を沈める。

そうか。
少なくとも芳賀さんは、みっこのことが好きなのね。

つづく
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