Campus91

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
74 / 300
07 Carnival Night

Carnival Night 20

しおりを挟む
「お願い。わたしから先に言わせて。わたし… 川島君が好き! ずっとずっと、好きだったの!」
「…さつきちゃん」
「わたし、傷つくのが怖かった。
川島君が好きな人がだれなのか、知るのが怖かった。
川島君が別のだれかを好きで、その人のことを優しく見るのを、の当たりにするのがイヤだった。
だからサークルをやめるしかなかった。
お別れを言うしかなかった。
でもわたし、ずっと後悔してたの」
「…」
「わたし、逃げてた。
傷つく怖さに、川島君を好きな気持ちが勝てなかった。
わたしは臆病で、壁を越える勇気がなかった。
でも、もういい。
わたしにとって川島君は、だれよりも大切な人。
それだけを川島君に知っていてもらえれば、もう、それで… いい」

「…はぁ~~っ」

大きなため息をついて、川島君はわたしを思いっきり抱きしめた。
全身が彼のからだの中に包まれてしまう。
じんわりと伝わってくる、川島君の体温。

あったかい。

人の肌のぬくもりって。
好きな人の体温って。
どうしてこんなに安心できるんだろう。
わたしの髪をやさしく撫でながら、川島君は残念そうに言った。

「全部、先に言われてしまったな」
「え?」
「あの時もそうだった」
「あの時?」
「卒業式の日に、お互いのノートにサインしたの、覚えてる?」
「ええ」
「あの時、さつきちゃんと話がしたくて、ずっとひとりになるチャンスをねらってたけど、なかなかなくて。
でも下校寸前に、さつきちゃんが教室の奥の方にひとりでいるのを見つけて、声かけに行ったんだ」
「え?」
「高校の間は、ろくに話もしたことなかっただろ。だから最後くらい、ゆっくり話をしてみたかった」
「そうだったの?!」
「ああ。さつきちゃんのことは、ずっと気になる存在で、話をすることで、自分の気持ちを確かめてみたかったから」
「…」
「でも、ぼくが話しかける前に、さつきちゃんはいきなりサイン帳を差し出してきて。なんだかそれで、『もう終わったんだな』って、漠然と感じて…
『元気でね』って、握手するしかできなかった」
「…」
「思えばずっと、回り道ばかりしてきたよな」
「ごっ、ごめんなさい」
「いや。責めてるんじゃない。ぼくがグズなだけなんだ」
「川島君…」
「あの電話はショックだったけど、逆に一か八かの賭けに出る勇気をくれたよ。
…まあ、さつきちゃんに、先に言われてしまったけどね」
「…」
「ぼくからも、ちゃんと言わせてくれ」
「…」
「さつきちゃんのこと、好きだ」
「…」
「ぼくと、つきあってほしい」

そう言ってもう一度,川島君はわたしをぎゅっと抱きしめた。
夢にまで見て、ずっと待ちわびていたその言葉。
わたしは彼の胸に顔を埋め、ただうなずくだけだった。

カーニバルの夜は、終わらない。

END

22th Mar. 2011
30th May 2017
1st Oct.2017
30th Dec.2019
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

女男の世界

キョウキョウ
ライト文芸
 仕事の帰りに通るいつもの道、いつもと同じ時間に歩いてると背後から何かの気配。気づいた時には脇腹を刺されて生涯を閉じてしまった佐藤優。  再び目を開いたとき、彼の身体は何故か若返っていた。学生時代に戻っていた。しかも、記憶にある世界とは違う、極端に男性が少なく女性が多い歪な世界。  男女比が異なる世界で違った常識、全く別の知識に四苦八苦する優。  彼は、この価値観の違うこの世界でどう生きていくだろうか。 ※過去に小説家になろう等で公開していたものと同じ内容です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街

たかはし 葵
ライト文芸
国会議員、重光 幸太郎先生のお膝元。それは東京郊外、松平(まつひら)市にある『希望が丘駅前商店街』通称『ゆうYOUミラーじゅ希望ヶ丘』。その商店街の一角に、二十代後半の、マイペースな元OLさんが店主としてお引っ越ししてきました。彼女の叔母から受け継ぎ、儲け度外視でオープンした「雑貨Blue Mallow」。 そこには和雑貨と、彼女の作るオリジナル天然石アクセサリーのコーナーが……。 とある事情でお引越ししてきたこの場所で、彼女に新しい出会いが訪れる、そんなお話。 ※このお話は、鏡野 ゆうさまの【政治家の嫁は秘書様】に登場する商店街から生まれた個性豊かな商店街のお話です。ゆうさま始め、素敵な作家さま達とコラボさせて頂きつつ、皆さまの了承を得てこのお話は進んでいきます。 ※また、このお話は小説家になろうでも公開しています。

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

湖の町。そこにある学校

朝山みどり
ライト文芸
寂れた町の学校。照明器具を買う予算を賄う為に、寄付をつのる事にした。寄付と言ってもただ貰いに行ってもなにも貰えない。どうすれば?? 劇を、それもミュージカルを上演して見てもらおう。そう思って、生徒も先生も頑張る。 すると・・・手を差し伸べてくれる人が現れる。 素直に親切にされる生徒と先生・・・さて、どうなるでしょう??

【約束の時】スピンオフ④ 後編

igavic
恋愛
夏の始めに出会った女、美沙 待っていたのは悪夢のような展開。 そんな五十嵐の危機を救ったのは?

The Color of The Fruit Is Red of Blood

羽上帆樽
ライト文芸
仕事の依頼を受けて、山の頂きに建つ美術館にやって来た二人。美術品の説明を翻訳する作業をする内に、彼らはある一枚の絵画を見つける。そこに描かれていた奇妙な果物と、少女が見つけたもう一つのそれ。絵画の作者は何を伝えたかったのか、彼らはそれぞれ考察を述べることになるが……。

一息

井浦
ライト文芸
【ショートショート】 1話5分程度で読めます。切なくて心温まる短編集。

処理中です...