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07 Carnival Night
Carnival Night 16
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えっ?
彼女が男の子からの誘いを受けたのは、これが初めて。
そりゃ、今まで声かけてきた男は、ロクでもないのばかりだったけど…
「あたしは森田美湖。でも、『みっこ』でいいわ。西蘭女子大の一年生。よろしくね」
そう言って、みっこは上村君に左手を差し出す。彼は驚いたが、すぐにその意味を察して、みっこの手をとり、彼女が立ち上がるのを手伝ってやった。なかなかやるわね、上村君。
「みんなも踊らない?」
パンパンとスカートについた草切れを払いながら、みっこはわたしたちに言う。
「うん!」
真っ先に応えたのは、ナオミだった。
嬉しそうに立ち上がった彼女は、上村君の後ろにいた男の子たちに話しかける。
「あたしナオミ。よろしくね」
「ええっ? オレたちもいいんすか?! あざーす!
オレ、武田勝。勝利の『まさる』っす。で、こいつは沢渡って言うんす」
「勝利の勝くん… カツくんかぁ。いい名前じゃない」
「おっ。嬉しいっす。さっそくあだ名つけてもらって。ナオミお姉さん、めっちゃくちゃナイスバディで超絶美人っすよね~! 今夜はオレの人生最高のラッキーナイトっす。よろしくっ!」
「お… おい武田。あんまり失礼なこと言うなよ」
「いいじゃん上村。美人に『美人』って言って、なにが失礼なんだよ」
「そぉよ。全然OKよ。カツくんの正直者ぉ☆」
そう言ってナオミは、武田君の肩をポンとたたいた。
「い、いやぁ~。嬉しいっす。
上村。こんな綺麗なお姉さんたちとお知り合いになれるなんて、オレが文化祭に誘ったおかげだろ。オレ感激のあまり、ダンスの時は手にヘンな汁が出そう」
「いい加減にしろよ! す、すみません。こいつ口が悪くて…」
「でも上村。武田の言う通り、勇気出して声かけてよかっただろ。こんなに素敵なお姉さんぞろいなんだから、浮かれるのも当たり前だって。すみません、ナオミさん。ぼくも正直なもんで」
「沢渡まで!」
上村君は必死になって取り繕おうとするが、ふたりの友だちは嬉しそうに、満面の笑みを浮かべている。
「いいのよぉ。『カツくん』に『サワくん』かぁ。よろしくね。ミキちゃんもいっしょに踊ろぉよ!」
「そうね。今日はナオミのスカウト祝いだしね」
ナオミに誘われて、ミキちゃんも立ち上がる。みっこもわたしに、『いっしょに行こう』と、目配せした。
「あ… わたしはいい。なんだか疲れちゃって… ここで待ってるから、みんな踊ってきて」
むこうは三人でこちらは四人。
出遅れて、ひとりあぶれてしまった気がしたわたしは、気まずさを隠すために明るく言うと、ひとりでそのまま、もみの木の下に残ろうとした。
みっこは少し躊躇い、みんなを先に行かせると、わたしの前に留まった。
「みっこも行っていいよ。わたしのことは気にしなくていいから」
「でも…」
「わたしが入ると、人数合わないじゃない。わたしはほんとに大丈夫。それに、川島君のこともあって、今は他の男の人と踊るなんて気分じゃないし」
「そう?」
「うん。みんな年下だけど、純情そうでいい人たちみたいじゃない。だからみっこは楽しんできて。ね。気が向けば、わたしもあとから行くから」
「…ん」
うなづいたみっこは二・三歩歩きかけ、後ろ髪を引かれるように立ち止まって振り返った。
「あたし… 今度恋をするときは、悔いのないようにしたいの」
「え?」
みっこはわたしを見つめて、続ける。
「あたしもね、一度、恋にしくじったことがあるのよ。一生一度の恋だと思ってたのに。
そのとき、人と人って、最後は必ず別れて終わるものなんだって、やっとわかった」
「みっこ…」
「でも… だから、悔いのないように、したいの」
「…」
「さつきもあとから来てよ。きっとよ。待ってるから」
そう言ってみっこは、わたしを何度も振り返りながら、みんなのあとを追って、丘の小径を下っていった。
六つの人影がゆっくりとフォークダンスの輪舞に近づいていく。輪が切れて、新たな仲間を迎え入れる。ふたたび輪はつながり、みんなは輪舞の中に溶け込んだ。
つづく
彼女が男の子からの誘いを受けたのは、これが初めて。
そりゃ、今まで声かけてきた男は、ロクでもないのばかりだったけど…
「あたしは森田美湖。でも、『みっこ』でいいわ。西蘭女子大の一年生。よろしくね」
そう言って、みっこは上村君に左手を差し出す。彼は驚いたが、すぐにその意味を察して、みっこの手をとり、彼女が立ち上がるのを手伝ってやった。なかなかやるわね、上村君。
「みんなも踊らない?」
パンパンとスカートについた草切れを払いながら、みっこはわたしたちに言う。
「うん!」
真っ先に応えたのは、ナオミだった。
嬉しそうに立ち上がった彼女は、上村君の後ろにいた男の子たちに話しかける。
「あたしナオミ。よろしくね」
「ええっ? オレたちもいいんすか?! あざーす!
オレ、武田勝。勝利の『まさる』っす。で、こいつは沢渡って言うんす」
「勝利の勝くん… カツくんかぁ。いい名前じゃない」
「おっ。嬉しいっす。さっそくあだ名つけてもらって。ナオミお姉さん、めっちゃくちゃナイスバディで超絶美人っすよね~! 今夜はオレの人生最高のラッキーナイトっす。よろしくっ!」
「お… おい武田。あんまり失礼なこと言うなよ」
「いいじゃん上村。美人に『美人』って言って、なにが失礼なんだよ」
「そぉよ。全然OKよ。カツくんの正直者ぉ☆」
そう言ってナオミは、武田君の肩をポンとたたいた。
「い、いやぁ~。嬉しいっす。
上村。こんな綺麗なお姉さんたちとお知り合いになれるなんて、オレが文化祭に誘ったおかげだろ。オレ感激のあまり、ダンスの時は手にヘンな汁が出そう」
「いい加減にしろよ! す、すみません。こいつ口が悪くて…」
「でも上村。武田の言う通り、勇気出して声かけてよかっただろ。こんなに素敵なお姉さんぞろいなんだから、浮かれるのも当たり前だって。すみません、ナオミさん。ぼくも正直なもんで」
「沢渡まで!」
上村君は必死になって取り繕おうとするが、ふたりの友だちは嬉しそうに、満面の笑みを浮かべている。
「いいのよぉ。『カツくん』に『サワくん』かぁ。よろしくね。ミキちゃんもいっしょに踊ろぉよ!」
「そうね。今日はナオミのスカウト祝いだしね」
ナオミに誘われて、ミキちゃんも立ち上がる。みっこもわたしに、『いっしょに行こう』と、目配せした。
「あ… わたしはいい。なんだか疲れちゃって… ここで待ってるから、みんな踊ってきて」
むこうは三人でこちらは四人。
出遅れて、ひとりあぶれてしまった気がしたわたしは、気まずさを隠すために明るく言うと、ひとりでそのまま、もみの木の下に残ろうとした。
みっこは少し躊躇い、みんなを先に行かせると、わたしの前に留まった。
「みっこも行っていいよ。わたしのことは気にしなくていいから」
「でも…」
「わたしが入ると、人数合わないじゃない。わたしはほんとに大丈夫。それに、川島君のこともあって、今は他の男の人と踊るなんて気分じゃないし」
「そう?」
「うん。みんな年下だけど、純情そうでいい人たちみたいじゃない。だからみっこは楽しんできて。ね。気が向けば、わたしもあとから行くから」
「…ん」
うなづいたみっこは二・三歩歩きかけ、後ろ髪を引かれるように立ち止まって振り返った。
「あたし… 今度恋をするときは、悔いのないようにしたいの」
「え?」
みっこはわたしを見つめて、続ける。
「あたしもね、一度、恋にしくじったことがあるのよ。一生一度の恋だと思ってたのに。
そのとき、人と人って、最後は必ず別れて終わるものなんだって、やっとわかった」
「みっこ…」
「でも… だから、悔いのないように、したいの」
「…」
「さつきもあとから来てよ。きっとよ。待ってるから」
そう言ってみっこは、わたしを何度も振り返りながら、みんなのあとを追って、丘の小径を下っていった。
六つの人影がゆっくりとフォークダンスの輪舞に近づいていく。輪が切れて、新たな仲間を迎え入れる。ふたたび輪はつながり、みんなは輪舞の中に溶け込んだ。
つづく
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