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07 Carnival Night
Carnival Night 14
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「あんな酔っぱらいにからまれるなんて、あたしも落ちぶれたものね」
「だけどみっこも、やることがいちいち過激よね」
「心配ないわよ。あの手合いは、あれくらいのことじゃ懲りないから」
「夏の海の時もそうだったけど、みっこって、ナンパされると最後は必ず、相手を怒らせて終わるのね」
「あは。そうだったかしら?
それにしても、ちゃんと踊りたかったな~、ダンパ。欲求不満よ。
あ~あ。入場料、損しちゃった」
キャンパスの裏にある、小高い丘の上の大きなもみの木の下に座って、わたしたちはカーニバルナイトの熱気を冷ましていた。
学園祭のざわめきも、この丘の上まではほとんど届かない。
祭りのにぎわいは風景画のように、わたしたちの目の下に広がっているだけで、11月のひんやりとした空気がからだを包み、カーニバルの熱気を冷ましていく。
広場では、燃えさかるかがり火を大勢の男女が手を繋ぎあって囲み、フォークダンスを踊りながら、学園祭のフィナーレを楽しんでいる。
『オクラハマミキサー』のメロディが、とぎれとぎれに風に流されて、わたしたちのいる所までやってきた。
「なかなかいないものねー。いい男って」
両腕でひざを抱え込んだみっこは、ため息をつきながらつぶやく。
「レンジグルメみたいに、あちこちで即席のカップルができあがって、でもすぐ別れちゃって…
一生いっしょの恋なんて、どこにもないのかな?」
「どうしたのみっこ? 急にそんなこと言い出して」
「だって… なんだかもどかしいの。
あたしは、新しい恋をしたくてたまらないのに、その気にさせる人が、ちっとも出てこないんだもん」
「みっこは、恋がしたいの?」
「やっぱり… したい」
ポツリと答えると、みっこはなにかを追いかけるような、遠い目をしながら、話しはじめた。
「好きな人のことを考えながら、紅茶を飲んでいる時間とか、夜、髪を乾かしているとき、ふと、鳴りそうな電話に目をやる瞬間とか、とても好きだった。
まったく知らなかった自分にも出会えて、毎日が生まれたてのように、新鮮だった。
自分がキラキラしてるみたいで、好きになれた。
恋って、辛いことも多いけど、その分、ほんとに幸せなことがなんなのか、よくわかる。
そんな思いを、もう一度だけ、してみたい」
そんな風に話すみっこを見ているとき、わたしは彼女のことを、とっても身近に感じることができる。
容姿端麗のお嬢さまで、モデルをめざしていたみっこに、わたしは『隔たり』というか、『違う世界で生きている女の子』だなって感じることもある。
でも、こうして恋の話をしているときは、普段わたしの回りにいるような、ふつーの女の子と同じ表情を、みっこも見せる。
「あ! みこちゃーん。さつきちゃーん。こんなとこにいたのね!」
そのとき、夜のしじまを破って、ナオミが甲高い声を上げて手を振りながら、丘への小径を上がってきた。
「ね。聞いて聞いて! すごいのよ! あたし、スカウトされちゃったぁ!」
わたしたちの前にペタンと座り込むよりも早く、ナオミは一気にしゃべった。
彼女のあとからやってきたミキちゃんが、話をフォローする。
「そうですの。ナオミったら、ファッションショーのあとで、三十代くらいの素敵なおじさまに呼び止められて、『その気があるならモデルのレッスンしてみない?』って、誘われたんですの。横で聞いていて、わたしまで興奮しちゃいました」
「へえ、すごいじゃない! まさかとは思っていたけど、ほんとにスカウトされるなんて。ねえ、みっこ」
わたしは驚きながら、みっこの方を見る。
「スカウトにかこつけたナンパじゃなきゃ、いいけどね」
みっこは冷ややかに言う。その口調には、かすかなやっかみが込められていた。
だけど、すっかり舞い上がってしまってるナオミには、そんなみっこの嫌味なんか、まったく通じてない様子。
「心配ないわよぉ。パリッとしたバーバリーのスーツ着てたし、別にホテルとかにも誘われなかったし。それに名刺までもらったんだからぁ」
嬉しそうに言って、ナオミはみっこに名刺を差し出した。
つづく
「だけどみっこも、やることがいちいち過激よね」
「心配ないわよ。あの手合いは、あれくらいのことじゃ懲りないから」
「夏の海の時もそうだったけど、みっこって、ナンパされると最後は必ず、相手を怒らせて終わるのね」
「あは。そうだったかしら?
それにしても、ちゃんと踊りたかったな~、ダンパ。欲求不満よ。
あ~あ。入場料、損しちゃった」
キャンパスの裏にある、小高い丘の上の大きなもみの木の下に座って、わたしたちはカーニバルナイトの熱気を冷ましていた。
学園祭のざわめきも、この丘の上まではほとんど届かない。
祭りのにぎわいは風景画のように、わたしたちの目の下に広がっているだけで、11月のひんやりとした空気がからだを包み、カーニバルの熱気を冷ましていく。
広場では、燃えさかるかがり火を大勢の男女が手を繋ぎあって囲み、フォークダンスを踊りながら、学園祭のフィナーレを楽しんでいる。
『オクラハマミキサー』のメロディが、とぎれとぎれに風に流されて、わたしたちのいる所までやってきた。
「なかなかいないものねー。いい男って」
両腕でひざを抱え込んだみっこは、ため息をつきながらつぶやく。
「レンジグルメみたいに、あちこちで即席のカップルができあがって、でもすぐ別れちゃって…
一生いっしょの恋なんて、どこにもないのかな?」
「どうしたのみっこ? 急にそんなこと言い出して」
「だって… なんだかもどかしいの。
あたしは、新しい恋をしたくてたまらないのに、その気にさせる人が、ちっとも出てこないんだもん」
「みっこは、恋がしたいの?」
「やっぱり… したい」
ポツリと答えると、みっこはなにかを追いかけるような、遠い目をしながら、話しはじめた。
「好きな人のことを考えながら、紅茶を飲んでいる時間とか、夜、髪を乾かしているとき、ふと、鳴りそうな電話に目をやる瞬間とか、とても好きだった。
まったく知らなかった自分にも出会えて、毎日が生まれたてのように、新鮮だった。
自分がキラキラしてるみたいで、好きになれた。
恋って、辛いことも多いけど、その分、ほんとに幸せなことがなんなのか、よくわかる。
そんな思いを、もう一度だけ、してみたい」
そんな風に話すみっこを見ているとき、わたしは彼女のことを、とっても身近に感じることができる。
容姿端麗のお嬢さまで、モデルをめざしていたみっこに、わたしは『隔たり』というか、『違う世界で生きている女の子』だなって感じることもある。
でも、こうして恋の話をしているときは、普段わたしの回りにいるような、ふつーの女の子と同じ表情を、みっこも見せる。
「あ! みこちゃーん。さつきちゃーん。こんなとこにいたのね!」
そのとき、夜のしじまを破って、ナオミが甲高い声を上げて手を振りながら、丘への小径を上がってきた。
「ね。聞いて聞いて! すごいのよ! あたし、スカウトされちゃったぁ!」
わたしたちの前にペタンと座り込むよりも早く、ナオミは一気にしゃべった。
彼女のあとからやってきたミキちゃんが、話をフォローする。
「そうですの。ナオミったら、ファッションショーのあとで、三十代くらいの素敵なおじさまに呼び止められて、『その気があるならモデルのレッスンしてみない?』って、誘われたんですの。横で聞いていて、わたしまで興奮しちゃいました」
「へえ、すごいじゃない! まさかとは思っていたけど、ほんとにスカウトされるなんて。ねえ、みっこ」
わたしは驚きながら、みっこの方を見る。
「スカウトにかこつけたナンパじゃなきゃ、いいけどね」
みっこは冷ややかに言う。その口調には、かすかなやっかみが込められていた。
だけど、すっかり舞い上がってしまってるナオミには、そんなみっこの嫌味なんか、まったく通じてない様子。
「心配ないわよぉ。パリッとしたバーバリーのスーツ着てたし、別にホテルとかにも誘われなかったし。それに名刺までもらったんだからぁ」
嬉しそうに言って、ナオミはみっこに名刺を差し出した。
つづく
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