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07 Carnival Night
Carnival Night 11
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「ほんとはね。パパもママも、西蘭女子大進学、大反対だったの。九州の、それも四年制の大学に行くなんて、『モデルになりません』って言ってるようなものだもの。
でも、あたし、来ちゃった。
あたし、大学生活で自分を変えたかったの。今までずっと自分が囲まれてきた環境を、すっかり変えてみたかった。友だちとケーキ屋さんに行ってみたり、夜ふかしして恋の話をしてみたり…
そんな風にして、すごしたかった。
もう、モデルのことなんか、考えたく、ない」
「…」
そうだったんだ。
入学式の日、みっこが思い詰めたような表情をしていたのは、そんな 経緯があったからなんだ。
みっこが今まで、自分の話に触れたがらなかった理由も、これでやっとわかった。
だけど…
わたし、どうしても納得できない。
モデルになる気があるのなら、高身長が求められるステージモデル以外にも、いろいろと道はあるはず。
今は、雑誌とかで活躍しているモデルさんだって、身長がそんなに高くない人だっているし、みっこならそのくらいのことは、わかっているだろうに。
身長のことだけじゃない、なにか別の大きな出来事が、みっこの心を固く閉ざさせた原因として、あるような気がする。
森田美湖とつきあいはじめて半年。
その間の彼女のいろんな言葉や行動を、ジグソーパズルのかけらを集めるように、わたしは心のなかで整理してみた。
だけど、今の彼女の告白を埋めてみても、まだなにか肝心なところがポッカリ抜けちゃってて、全体の絵が見えない。
「みっこはもう、モデルにならないの?」
「ならないんじゃなくて、なれないの」
「違うわ。『なりたくないの?』って、訊いてるのよ」
「…」
言葉に詰まって、みっこは瞳をそらした。
あの日、誕生日の買い物に行くときに、みっこの言った台詞を、わたしは思い出す。
『さつきはあたしが、なにになればいいと思う?』
きっとみっこは、『モデルにならない』って決めただけで、彼女の心は、まだ迷宮の出口を見つけられないで、さまよっているんだろう。
『モデル』という仕事を愛しているけど、それを受け入れてもらえないから、みっこはモデルを拒むことでしか、自分を楽にできないんだ。
あ…
『…さつきはもう、川島君に関わりたくないんでしょう? だからお別れを言ったのよね』
この前、被服科の小池さんからモデルに誘われていたとき、モデルをやることを勧めたわたしに、みっこはそう言った。
『あたしがモデルと手を切ったのも、それとおんなじ理由よ』
あのときは、川島君に別れを告げたわたしをからかったのかと思って、ムカッときただけで、それ以上深くは考えなかったけど、もしかしてそういう意味を込めていたのかも。
『酸っぱいぶどう』っていう、イソップ物語の寓話がある。
欲しても手に入らないものを、人は貶める。
それとは少し違うかもしれないけど、欲しているものや好きな人から拒まれたとき、自分もそれを拒むことで、心の安定を図ろうとするのかもしれない。
それは、わたしもみっこも同じ…
「カーニバルだわ」
漆黒の空を見上げて、みっこはポツンと言った。
「え?」
「そうよ! あたしの大学生活は、ぜーんぶ毎日が壮大な実験なのよ。
すごいじゃない! これはあたしの今まででいちばん豪華なお祭りなんだわ!」
みっこはそう言ってくるりと回ると、わたしを見てニコリと微笑む。
「ど… どうしたの? カーニバルってどういう意味?」
「いいじゃないさつき。あたし、やっとわかったんだから!」
「なんなの? わたしは全然わかんないよ」
「いいのよ、もう。あたし決めたんだ! カーニバルなら、うんと楽しまなくちゃって。学園祭の夜は長いわ。後夜祭にそなえて、なにか食べに行こ! そして今夜は思いっきり楽しもうね!」
そう言ってみっこは、足取り軽くかけ出した。
「待ってよ、みっこ!」
わたしはあわてて彼女のあとを追った。
みっこにはいつだって振り回されてばかり。
わたし、この子がなに考えているのか、よくわからなくなるときがある。
つづく
でも、あたし、来ちゃった。
あたし、大学生活で自分を変えたかったの。今までずっと自分が囲まれてきた環境を、すっかり変えてみたかった。友だちとケーキ屋さんに行ってみたり、夜ふかしして恋の話をしてみたり…
そんな風にして、すごしたかった。
もう、モデルのことなんか、考えたく、ない」
「…」
そうだったんだ。
入学式の日、みっこが思い詰めたような表情をしていたのは、そんな 経緯があったからなんだ。
みっこが今まで、自分の話に触れたがらなかった理由も、これでやっとわかった。
だけど…
わたし、どうしても納得できない。
モデルになる気があるのなら、高身長が求められるステージモデル以外にも、いろいろと道はあるはず。
今は、雑誌とかで活躍しているモデルさんだって、身長がそんなに高くない人だっているし、みっこならそのくらいのことは、わかっているだろうに。
身長のことだけじゃない、なにか別の大きな出来事が、みっこの心を固く閉ざさせた原因として、あるような気がする。
森田美湖とつきあいはじめて半年。
その間の彼女のいろんな言葉や行動を、ジグソーパズルのかけらを集めるように、わたしは心のなかで整理してみた。
だけど、今の彼女の告白を埋めてみても、まだなにか肝心なところがポッカリ抜けちゃってて、全体の絵が見えない。
「みっこはもう、モデルにならないの?」
「ならないんじゃなくて、なれないの」
「違うわ。『なりたくないの?』って、訊いてるのよ」
「…」
言葉に詰まって、みっこは瞳をそらした。
あの日、誕生日の買い物に行くときに、みっこの言った台詞を、わたしは思い出す。
『さつきはあたしが、なにになればいいと思う?』
きっとみっこは、『モデルにならない』って決めただけで、彼女の心は、まだ迷宮の出口を見つけられないで、さまよっているんだろう。
『モデル』という仕事を愛しているけど、それを受け入れてもらえないから、みっこはモデルを拒むことでしか、自分を楽にできないんだ。
あ…
『…さつきはもう、川島君に関わりたくないんでしょう? だからお別れを言ったのよね』
この前、被服科の小池さんからモデルに誘われていたとき、モデルをやることを勧めたわたしに、みっこはそう言った。
『あたしがモデルと手を切ったのも、それとおんなじ理由よ』
あのときは、川島君に別れを告げたわたしをからかったのかと思って、ムカッときただけで、それ以上深くは考えなかったけど、もしかしてそういう意味を込めていたのかも。
『酸っぱいぶどう』っていう、イソップ物語の寓話がある。
欲しても手に入らないものを、人は貶める。
それとは少し違うかもしれないけど、欲しているものや好きな人から拒まれたとき、自分もそれを拒むことで、心の安定を図ろうとするのかもしれない。
それは、わたしもみっこも同じ…
「カーニバルだわ」
漆黒の空を見上げて、みっこはポツンと言った。
「え?」
「そうよ! あたしの大学生活は、ぜーんぶ毎日が壮大な実験なのよ。
すごいじゃない! これはあたしの今まででいちばん豪華なお祭りなんだわ!」
みっこはそう言ってくるりと回ると、わたしを見てニコリと微笑む。
「ど… どうしたの? カーニバルってどういう意味?」
「いいじゃないさつき。あたし、やっとわかったんだから!」
「なんなの? わたしは全然わかんないよ」
「いいのよ、もう。あたし決めたんだ! カーニバルなら、うんと楽しまなくちゃって。学園祭の夜は長いわ。後夜祭にそなえて、なにか食べに行こ! そして今夜は思いっきり楽しもうね!」
そう言ってみっこは、足取り軽くかけ出した。
「待ってよ、みっこ!」
わたしはあわてて彼女のあとを追った。
みっこにはいつだって振り回されてばかり。
わたし、この子がなに考えているのか、よくわからなくなるときがある。
つづく
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