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07 Carnival Night
Carnival Night 6
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「さつきっ、待った?」
そのとき、大きな声がして、わたしはハッとわれに返った。
気がつくとみっこが隣にいて、わたしのもう片方の腕をぎゅっと握りしめている。
「ごめんなさい、あなたたち。この子の彼が向こうで呼んでるの」
「お、おい!」
「みっこ?」
有無を言わせずに男たちからわたしを引き離すと、みっこはグイグイ引っ張っていく。
「み… みっこ、彼って…」
まさか… 川島君が来てるの? ほんとに?!
校舎を回って男たちの姿が見えなくなると、みっこはようやく足を止めて、わたしの腕を握りしめていた手をゆるめた。
「さつきって意外とあぶないのね。なんだってあんな人たちにフラフラついていこうとしたの?」
「あ… えっと」
「あたし、ずっと見てたのよ。あなたがスキだらけでベンチに座っていたところから。いかにも『誘って下さい』って風で、だからあんなにのにチェック入れられるのよ」
「わたし… なんか、だれでもいいから、どこかに連れてってほしかったのかも…」
「?」
「なんか… ばかみたい。
あの人たちが微笑むの見て、『川島君に似てる』なんて思っちゃって… 全然違うのにね」
「さつき。最近元気だったから、もう立ち直ったのかと思ったけど… なわけないよね」
「ん。やっぱりなにかのはずみで、苦しくなる」
ぎゅっと右手を握りしめて、わたしはうつむいた。
「そっか…」
みっこは一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐにニッコリ微笑んで言った。
「心配しなくていいよ」
「え?」
「下心なんてないし。絶対楽しませてあげるからさ。だから学園祭、あたしといっしょに回ろうよ」
「あは。さっきの…」
みっこはペロと舌を出す。
そうね。今日はみっこと楽しくやらなくちゃね。
「さつきちゃんたちはどこ回ってきた?」
「森田さん、体育館でやるライブ見にいく?」
「わたしたち『ねるとん』に出るのよ!」
「夜のダンパどうしようか? ペアしか入れないらしいじゃない」
「ファッションショーも楽しみよね!」
「ナオミが出るんだって?」
「見に行ってあげなきゃ」
あちこちの露店やイベントで、顔見知りの女の子といっしょになったり、また離れたりしながら、日が暮れるまで、わたしとみっこはキャンパスを回った。
女子大の学園祭には、高校の頃の文化祭にはなかった、女の子らしい華やかさと艶やかさがある。
露店に飾っているポスターや看板は、独特の可愛らしい丸文字で書かれていたり、カフェではエプロンをつけたボディコンのミニスカート姿の女の子が、ちょっとセクシーに男のお客さんを誘っていたり。
キャンパス中が色とりどりのペンキをまき散らしたみたいな、雑多で卑猥なにぎやかさで、今という一瞬しかないみたいに、 時間が空回りしている。
「夜の部じゃ、合同ダンパがあるんだって?」
「もうバッチリ! カレシにチケット渡してるもんね」
「さっき見た渋カジ君?」
「そこそこイケてるでしょ」
「それ、ミツグ君からプレゼントしてもらった、ティファニーのネックレス? 新作じゃん」
「いいな~。わたしもアッシー君、呼んじゃおかな」
「え~。あなたのアッシー、クルマなに?」
「紺のBMW。コンバーチブルよ」
「やるじゃん。んで、あっちの方は?」
「アッシー君なんかとエッチする程、わたし困ってませんよ~」
「わぁ。ヤな女~」
「そういうあんただって、しっかり医大生キープしてるじゃない」
「あれはキープっていうより本命かな~。でもエッチは下手だから、とりあえず週いちでつなぎ止めてるって感じ。まだまだ遊びたいしね」
「あーあ。悪い女」
「あんたみたいなイケイケじゃ、逆に遊ばれて終わるって」
派手なボディコンに身を包んだ女の子たちが、そんな軽口をたたきながら通りすぎる。
あちこちで、男の子から声をかけられた女の子たちが、相手を値踏みしてクスクス笑ったり、校舎の陰では今日だけのインスタントカップルが、からだをくっつけて、アフターの話をしたりしている。
つづく
そのとき、大きな声がして、わたしはハッとわれに返った。
気がつくとみっこが隣にいて、わたしのもう片方の腕をぎゅっと握りしめている。
「ごめんなさい、あなたたち。この子の彼が向こうで呼んでるの」
「お、おい!」
「みっこ?」
有無を言わせずに男たちからわたしを引き離すと、みっこはグイグイ引っ張っていく。
「み… みっこ、彼って…」
まさか… 川島君が来てるの? ほんとに?!
校舎を回って男たちの姿が見えなくなると、みっこはようやく足を止めて、わたしの腕を握りしめていた手をゆるめた。
「さつきって意外とあぶないのね。なんだってあんな人たちにフラフラついていこうとしたの?」
「あ… えっと」
「あたし、ずっと見てたのよ。あなたがスキだらけでベンチに座っていたところから。いかにも『誘って下さい』って風で、だからあんなにのにチェック入れられるのよ」
「わたし… なんか、だれでもいいから、どこかに連れてってほしかったのかも…」
「?」
「なんか… ばかみたい。
あの人たちが微笑むの見て、『川島君に似てる』なんて思っちゃって… 全然違うのにね」
「さつき。最近元気だったから、もう立ち直ったのかと思ったけど… なわけないよね」
「ん。やっぱりなにかのはずみで、苦しくなる」
ぎゅっと右手を握りしめて、わたしはうつむいた。
「そっか…」
みっこは一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐにニッコリ微笑んで言った。
「心配しなくていいよ」
「え?」
「下心なんてないし。絶対楽しませてあげるからさ。だから学園祭、あたしといっしょに回ろうよ」
「あは。さっきの…」
みっこはペロと舌を出す。
そうね。今日はみっこと楽しくやらなくちゃね。
「さつきちゃんたちはどこ回ってきた?」
「森田さん、体育館でやるライブ見にいく?」
「わたしたち『ねるとん』に出るのよ!」
「夜のダンパどうしようか? ペアしか入れないらしいじゃない」
「ファッションショーも楽しみよね!」
「ナオミが出るんだって?」
「見に行ってあげなきゃ」
あちこちの露店やイベントで、顔見知りの女の子といっしょになったり、また離れたりしながら、日が暮れるまで、わたしとみっこはキャンパスを回った。
女子大の学園祭には、高校の頃の文化祭にはなかった、女の子らしい華やかさと艶やかさがある。
露店に飾っているポスターや看板は、独特の可愛らしい丸文字で書かれていたり、カフェではエプロンをつけたボディコンのミニスカート姿の女の子が、ちょっとセクシーに男のお客さんを誘っていたり。
キャンパス中が色とりどりのペンキをまき散らしたみたいな、雑多で卑猥なにぎやかさで、今という一瞬しかないみたいに、 時間が空回りしている。
「夜の部じゃ、合同ダンパがあるんだって?」
「もうバッチリ! カレシにチケット渡してるもんね」
「さっき見た渋カジ君?」
「そこそこイケてるでしょ」
「それ、ミツグ君からプレゼントしてもらった、ティファニーのネックレス? 新作じゃん」
「いいな~。わたしもアッシー君、呼んじゃおかな」
「え~。あなたのアッシー、クルマなに?」
「紺のBMW。コンバーチブルよ」
「やるじゃん。んで、あっちの方は?」
「アッシー君なんかとエッチする程、わたし困ってませんよ~」
「わぁ。ヤな女~」
「そういうあんただって、しっかり医大生キープしてるじゃない」
「あれはキープっていうより本命かな~。でもエッチは下手だから、とりあえず週いちでつなぎ止めてるって感じ。まだまだ遊びたいしね」
「あーあ。悪い女」
「あんたみたいなイケイケじゃ、逆に遊ばれて終わるって」
派手なボディコンに身を包んだ女の子たちが、そんな軽口をたたきながら通りすぎる。
あちこちで、男の子から声をかけられた女の子たちが、相手を値踏みしてクスクス笑ったり、校舎の陰では今日だけのインスタントカップルが、からだをくっつけて、アフターの話をしたりしている。
つづく
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