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07 Carnival Night
Carnival Night 3
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「被服科3年の小池先輩っていえば、1年生で学内のファッションコンクールでグランプリ取って以来、三連覇中の方なんですよ。
あの『毎日ファッション・コンクール』にも上位入賞するくらいの天才で、もうアパレル系の会社からオファーがあって、服作ってるって聞きましたのよ。わたしの尊敬する大先輩なんです」
「だいたい西蘭女子大のファッションショーってぇ、ほとんどミスコンなんだって。全キャンパスからきれいな子選んでるのよぉ」
「それに小池先輩はモデル選びが特に厳しくって、去年だって自分でオーディションしたって話ですのよ。そんな人から選ばれて、森田さんってほんとにすごいなって、思ってましたのに」
「おまけに今年のショーは、東京のモデルクラブの人が見にくるんだってぇ。
えへ! スカウトされるチャンスじゃない!」
ミキちゃんとナオミはかわるがわるみっこに言う。特にナオミの方は、なんだか口調がはずんでいる。
「えへ。あたしファッションショーに出るんだ。みこちゃんにさつきちゃんも見にきてね。あ~あ。モデル! モデルになりたいっ!」
そう言いながらナオミはコロコロと笑う。
無邪気っていうか、天然っていうか、その独特の鼻にかかったようなしゃべり方と相まって、ナオミってどこか『マリリン・モンロー』っぽくって、男の人との噂も絶えないらしい。
「モデルって『派手』なイメージあるけど、本当はとっても地味な仕事なのよ。そんなに甘いものじゃないわ」
浮かれているナオミに水をさすように、みっこは冷ややかに言った。
「そうぉ? きれいな服着てパチパチ写真撮られてりゃいいんじゃん。簡単よぉ」
「パチパチ写真撮られるようになるには、いろんなことをガマンしなきゃいけないわ。特に新人モデルってのは、クライアントには絶対服従なのよ。『もっとやせろ』だの『腹の肉を減らせ』だの、『髪を切れ』だの『笑顔が暗い』だの、さんざん注文つけられて。結局、『他にイメージに合う子が見つかった』なんて、簡単に切り捨てられたりして。
そうやって潰れていった新人モデルを、あたし、たくさん見た」
「ほんとですの? 森田さん」
ミキちゃんが驚いて聞き返す。
「ええ」
みっこは続けた。
「それに、舞台に立ったり写真撮られたりしているのって、ほんのわずかの間よ。そのわずかな時間のために、ふだんからちゃんと自己管理して、スタイルや美容に気をつけて、汗だくになってダンスやウォーキング、ムーブメントの練習をするのよ。
自分のからだだけが資本だから、なんの保証もないし、友だちと夜更かししたり、自由に遊ぶことだってできなくなる。
モデルって名前だけに憧れているのなら、絶対続かない。本当に心から、モデルの仕事を愛してなきゃ、とてもできないわ」
あ…
みっこの最後のせりふ。
『本当に心から、モデルの仕事を愛してなきゃ、とてもできないわ』
この言葉がわたしの中で、なにかをかすった。
みっこはモデルって仕事を憎んでいたの?
それとも愛していたの?
「そんなの平気。すぐ慣れるわよぉ。それよりモデルになって、いつもきれいなカッコして、パリとかニューヨークに仕事で飛び回るのって、カッコいいじゃない!」
あまりにもあっけらかんとしたナオミの答えに、さすがのみっこもあきれた様子。立ち上がったみっこは、教科書を入れたバインダーをナオミの頭の上に乗せながら言った。
「じゃあナオミ。このバインダーを乗せたまま、教室のはしまで行って、戻ってきてみて」
つづく
あの『毎日ファッション・コンクール』にも上位入賞するくらいの天才で、もうアパレル系の会社からオファーがあって、服作ってるって聞きましたのよ。わたしの尊敬する大先輩なんです」
「だいたい西蘭女子大のファッションショーってぇ、ほとんどミスコンなんだって。全キャンパスからきれいな子選んでるのよぉ」
「それに小池先輩はモデル選びが特に厳しくって、去年だって自分でオーディションしたって話ですのよ。そんな人から選ばれて、森田さんってほんとにすごいなって、思ってましたのに」
「おまけに今年のショーは、東京のモデルクラブの人が見にくるんだってぇ。
えへ! スカウトされるチャンスじゃない!」
ミキちゃんとナオミはかわるがわるみっこに言う。特にナオミの方は、なんだか口調がはずんでいる。
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そう言いながらナオミはコロコロと笑う。
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「モデルって『派手』なイメージあるけど、本当はとっても地味な仕事なのよ。そんなに甘いものじゃないわ」
浮かれているナオミに水をさすように、みっこは冷ややかに言った。
「そうぉ? きれいな服着てパチパチ写真撮られてりゃいいんじゃん。簡単よぉ」
「パチパチ写真撮られるようになるには、いろんなことをガマンしなきゃいけないわ。特に新人モデルってのは、クライアントには絶対服従なのよ。『もっとやせろ』だの『腹の肉を減らせ』だの、『髪を切れ』だの『笑顔が暗い』だの、さんざん注文つけられて。結局、『他にイメージに合う子が見つかった』なんて、簡単に切り捨てられたりして。
そうやって潰れていった新人モデルを、あたし、たくさん見た」
「ほんとですの? 森田さん」
ミキちゃんが驚いて聞き返す。
「ええ」
みっこは続けた。
「それに、舞台に立ったり写真撮られたりしているのって、ほんのわずかの間よ。そのわずかな時間のために、ふだんからちゃんと自己管理して、スタイルや美容に気をつけて、汗だくになってダンスやウォーキング、ムーブメントの練習をするのよ。
自分のからだだけが資本だから、なんの保証もないし、友だちと夜更かししたり、自由に遊ぶことだってできなくなる。
モデルって名前だけに憧れているのなら、絶対続かない。本当に心から、モデルの仕事を愛してなきゃ、とてもできないわ」
あ…
みっこの最後のせりふ。
『本当に心から、モデルの仕事を愛してなきゃ、とてもできないわ』
この言葉がわたしの中で、なにかをかすった。
みっこはモデルって仕事を憎んでいたの?
それとも愛していたの?
「そんなの平気。すぐ慣れるわよぉ。それよりモデルになって、いつもきれいなカッコして、パリとかニューヨークに仕事で飛び回るのって、カッコいいじゃない!」
あまりにもあっけらかんとしたナオミの答えに、さすがのみっこもあきれた様子。立ち上がったみっこは、教科書を入れたバインダーをナオミの頭の上に乗せながら言った。
「じゃあナオミ。このバインダーを乗せたまま、教室のはしまで行って、戻ってきてみて」
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