Campus91

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
56 / 300
07 Carnival Night

Carnival Night 2

しおりを挟む
「えっ? それは聞かなかった」
驚いたけど、それはだいたい想像ついていた。
みっこのファッションに対する愛情やポリシーを聞き、彼女の些細ささいな仕草や、歩き方とかを見ていると、たとえ彼女から『昨日までモデルをしていた』って聞かされても、納得できる。
それにしても…
みっこが自分のことをすすんで話すのって、珍しいかもしれない。

視線を床に落としながら、みっこは言った。
「だけど、あたしはイヤだったの。そんな、人から押しつけられた人生なんて。そんなの、イヤ」
その言葉は違和感あって、なにか、しっくりこない。
「そんなものかな?」
「そんなものよ」
「わたし、わかんないな。みっこの考えてること。
モデルの才能がないならともかく、だれがどう見たって、みっこはモデルに向いてると思うし、小池さんだってそう思ってるから、あんなに熱心にみっこを誘ってたんじゃない。
だからやろうよ、モデル。
わたしだって、みっこがステージに立ってるとこ、見てみたいし。今からでも遅くないわよ」
「…」
みっこはまた、思案するように頭を窓ガラスにもたれかけて、首をかしげたままうつむいた。今日のみっこは、返事をするのもなにかと物憂げで、声も心なしか、いつもより低い。

「ね。みっこ。まだ間に合うから」
「…」
「みっこ!」
「…さつきはもう、川島君に関わりたくないんでしょう? だからお別れを言ったのよね」
「な… なによ。いきなり」
「あたしがモデルと手を切ったのも、それとおんなじ理由よ」
「みっこって、ひどい例え方するのね」
「さつきがしつこくモデルを勧めるから、その仕返しよ」
「そ、そんな、わたし…」
みっこはわたしをじっと見つめると、ペロッと舌を出す。
「…なぁんてね。さ、もう帰ろ。陽も暮れちゃったし」
気持ちを切り替えるかのように、みっこはニコリと微笑んで立ち上がると、スカートをパンパンと払う。そのとき教室のドアが開いて、ふたりの女の子が入ってきた。

「森田さん、モデルの話、断ったんですか?」
「もったいなぁい。引き受けちゃえばよかったのにぃ」

口々に言いながら、ふたりはわたしたちのそばへやってくる。彼女たちとは時々同じ講義になって、何回かしゃべったことがある程度のつきあいだった。
ひとりはあまり目立たない、地味な感じで、髪をうさぎのように頭の両側で結んだメガネっ子。
どことなく内気で奥手っぽいとこがわたしに似てるんだけど、被服科だからなのか、けっこう個性的なお洒落さんで、一風変わったデザインの服をよく着ている。
もうひとりの子は、うさぎ髪の子とは対照的な、目が醒めるような美少女。
みっこ程洗練されてないけど、なによりそのメリハリのきいたスタイルが、日本人離れしていて、すごい。
170センチオーバーの背丈に、バンキュッボンのナイスボディ。睫毛が長くて色素の薄いつぶらな瞳も、ぽってりとした唇も、とっても官能的。肌は透きとおりそうなくらい白く、明るい茶色の髪と瞳の色もあって、西洋人のハーフと間違えてしまいそうなくらい。
どちらかというと、みっこがキリリとした知的で清楚な魅力なのに対して、彼女の方は、女の香りがプンプン匂ってくる、お色気系。
うさぎ髪の子は『小島美樹』、ナイスバディは『河合奈保美』って名前だったが、ふだんはみんなから『ミキちゃん』『ナオミ』と呼ばれていた。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

医者兄と病院脱出の妹(フリー台本)

ライト文芸
生まれて初めて大病を患い入院中の妹 退院が決まり、試しの外出と称して病院を抜け出し友達と脱走 行きたかったカフェへ それが、主治医の兄に見つかり、その後体調急変

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...