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07 Carnival Night
Carnival Night 2
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「えっ? それは聞かなかった」
驚いたけど、それはだいたい想像ついていた。
みっこのファッションに対する愛情やポリシーを聞き、彼女の些細な仕草や、歩き方とかを見ていると、たとえ彼女から『昨日までモデルをしていた』って聞かされても、納得できる。
それにしても…
みっこが自分のことをすすんで話すのって、珍しいかもしれない。
視線を床に落としながら、みっこは言った。
「だけど、あたしはイヤだったの。そんな、人から押しつけられた人生なんて。そんなの、イヤ」
その言葉は違和感あって、なにか、しっくりこない。
「そんなものかな?」
「そんなものよ」
「わたし、わかんないな。みっこの考えてること。
モデルの才能がないならともかく、だれがどう見たって、みっこはモデルに向いてると思うし、小池さんだってそう思ってるから、あんなに熱心にみっこを誘ってたんじゃない。
だからやろうよ、モデル。
わたしだって、みっこがステージに立ってるとこ、見てみたいし。今からでも遅くないわよ」
「…」
みっこはまた、思案するように頭を窓ガラスにもたれかけて、首をかしげたままうつむいた。今日のみっこは、返事をするのもなにかと物憂げで、声も心なしか、いつもより低い。
「ね。みっこ。まだ間に合うから」
「…」
「みっこ!」
「…さつきはもう、川島君に関わりたくないんでしょう? だからお別れを言ったのよね」
「な… なによ。いきなり」
「あたしがモデルと手を切ったのも、それとおんなじ理由よ」
「みっこって、ひどい例え方するのね」
「さつきがしつこくモデルを勧めるから、その仕返しよ」
「そ、そんな、わたし…」
みっこはわたしをじっと見つめると、ペロッと舌を出す。
「…なぁんてね。さ、もう帰ろ。陽も暮れちゃったし」
気持ちを切り替えるかのように、みっこはニコリと微笑んで立ち上がると、スカートをパンパンと払う。そのとき教室のドアが開いて、ふたりの女の子が入ってきた。
「森田さん、モデルの話、断ったんですか?」
「もったいなぁい。引き受けちゃえばよかったのにぃ」
口々に言いながら、ふたりはわたしたちのそばへやってくる。彼女たちとは時々同じ講義になって、何回かしゃべったことがある程度のつきあいだった。
ひとりはあまり目立たない、地味な感じで、髪をうさぎのように頭の両側で結んだメガネっ子。
どことなく内気で奥手っぽいとこがわたしに似てるんだけど、被服科だからなのか、けっこう個性的なお洒落さんで、一風変わったデザインの服をよく着ている。
もうひとりの子は、うさぎ髪の子とは対照的な、目が醒めるような美少女。
みっこ程洗練されてないけど、なによりそのメリハリのきいたスタイルが、日本人離れしていて、すごい。
170センチオーバーの背丈に、バンキュッボンのナイスボディ。睫毛が長くて色素の薄いつぶらな瞳も、ぽってりとした唇も、とっても官能的。肌は透きとおりそうなくらい白く、明るい茶色の髪と瞳の色もあって、西洋人のハーフと間違えてしまいそうなくらい。
どちらかというと、みっこがキリリとした知的で清楚な魅力なのに対して、彼女の方は、女の香りがプンプン匂ってくる、お色気系。
うさぎ髪の子は『小島美樹』、ナイスバディは『河合奈保美』って名前だったが、ふだんはみんなから『ミキちゃん』『ナオミ』と呼ばれていた。
つづく
驚いたけど、それはだいたい想像ついていた。
みっこのファッションに対する愛情やポリシーを聞き、彼女の些細な仕草や、歩き方とかを見ていると、たとえ彼女から『昨日までモデルをしていた』って聞かされても、納得できる。
それにしても…
みっこが自分のことをすすんで話すのって、珍しいかもしれない。
視線を床に落としながら、みっこは言った。
「だけど、あたしはイヤだったの。そんな、人から押しつけられた人生なんて。そんなの、イヤ」
その言葉は違和感あって、なにか、しっくりこない。
「そんなものかな?」
「そんなものよ」
「わたし、わかんないな。みっこの考えてること。
モデルの才能がないならともかく、だれがどう見たって、みっこはモデルに向いてると思うし、小池さんだってそう思ってるから、あんなに熱心にみっこを誘ってたんじゃない。
だからやろうよ、モデル。
わたしだって、みっこがステージに立ってるとこ、見てみたいし。今からでも遅くないわよ」
「…」
みっこはまた、思案するように頭を窓ガラスにもたれかけて、首をかしげたままうつむいた。今日のみっこは、返事をするのもなにかと物憂げで、声も心なしか、いつもより低い。
「ね。みっこ。まだ間に合うから」
「…」
「みっこ!」
「…さつきはもう、川島君に関わりたくないんでしょう? だからお別れを言ったのよね」
「な… なによ。いきなり」
「あたしがモデルと手を切ったのも、それとおんなじ理由よ」
「みっこって、ひどい例え方するのね」
「さつきがしつこくモデルを勧めるから、その仕返しよ」
「そ、そんな、わたし…」
みっこはわたしをじっと見つめると、ペロッと舌を出す。
「…なぁんてね。さ、もう帰ろ。陽も暮れちゃったし」
気持ちを切り替えるかのように、みっこはニコリと微笑んで立ち上がると、スカートをパンパンと払う。そのとき教室のドアが開いて、ふたりの女の子が入ってきた。
「森田さん、モデルの話、断ったんですか?」
「もったいなぁい。引き受けちゃえばよかったのにぃ」
口々に言いながら、ふたりはわたしたちのそばへやってくる。彼女たちとは時々同じ講義になって、何回かしゃべったことがある程度のつきあいだった。
ひとりはあまり目立たない、地味な感じで、髪をうさぎのように頭の両側で結んだメガネっ子。
どことなく内気で奥手っぽいとこがわたしに似てるんだけど、被服科だからなのか、けっこう個性的なお洒落さんで、一風変わったデザインの服をよく着ている。
もうひとりの子は、うさぎ髪の子とは対照的な、目が醒めるような美少女。
みっこ程洗練されてないけど、なによりそのメリハリのきいたスタイルが、日本人離れしていて、すごい。
170センチオーバーの背丈に、バンキュッボンのナイスボディ。睫毛が長くて色素の薄いつぶらな瞳も、ぽってりとした唇も、とっても官能的。肌は透きとおりそうなくらい白く、明るい茶色の髪と瞳の色もあって、西洋人のハーフと間違えてしまいそうなくらい。
どちらかというと、みっこがキリリとした知的で清楚な魅力なのに対して、彼女の方は、女の香りがプンプン匂ってくる、お色気系。
うさぎ髪の子は『小島美樹』、ナイスバディは『河合奈保美』って名前だったが、ふだんはみんなから『ミキちゃん』『ナオミ』と呼ばれていた。
つづく
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