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05 Love Affair
Love Affair 7
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affair4
次に川島君に会ったのは、小説講座の開催された金曜の夜。
講座の帰り道に『紅茶貴族』へ寄って、ふたりでお茶を飲みながら、おしゃべりをした。
ここへ来るのは、今夜で4回目。
もう見慣れた店内に、いつものアールグレイ。
いつものような、文学やサークルの話。
今まではそれで満足していたんだけど、今日はなんだか落ち着かなかった。
みっこの言うように、蘭さんのことを訊いてみたい。
蘭恵美さんと川島君との関係を、はっきりさせたい。
話に相槌打ちながらも、わたしはどんなタイミングで蘭さんのことを切り出そうか、内心焦っていた。だけど、わたしはみっこみたいに、会話のイニシアチブをとるなんてできないし、気ばかり焦るだけで、彼の話もうわの空だった。
「そうそう。今、学校のパソコンでみんなの原稿入力してるところだけど、さつきちゃんの小説の入力終わったから、校正しといてくれる?」
そう言って川島君は、活字になったわたしの原稿のプリントを取り出した。
「わあ。こうして活字で読むと、自分の文章も客観的に見れる気がするわね」
「最後の余韻がよかったな。『パセリ』ちゃんのその後がいろいろ想像できるみたいで」
「あ、ありがとう」
「次はどんなの書く予定?」
「ん~。まだわかんないけど…」
と思案しながら、頭のなかにひらめくものが浮かんだ。
「…今度は、恋愛小説を書いてみたいと思ってるの」
「ふぅん。恋愛小説か。さつきちゃんが書くと、面白いのができそうだな」
「でもわたし、恋愛の男性心理とか、よくわからないの。
だから… 川島君に、教えてほしいんだけど」
小説の話題にかこつけて、このまま恋愛話に持っていって、うまいこと蘭さんのことを聞き出せれば。
そんなわたしの思惑に、川島君は気づくこともない様子で、乗ってきてくれた。
「そうだな… ぼくの乏しい経験じゃ、たいしたアドバイスもできないと思うよ」
「そう? でも川島君って高校の頃、すごいモテてたじゃない?」
「ぼくが? そんなことないと思うけど」
「クラスの女の子が、川島君の噂してるの聞いたこともあるし、『川島君が好き』って女子も、いたのよ」
「へえ。そうなんだ」
「それに…」
さりげなく切り出したつもりだけど、わたしの台詞、語尾が震えていたような気がする。
「わたし、見たことあるのよ。川島君が、蘭さんと下校してるとこ」
どんな反応が返ってくるか、不安でたまらない。
心臓の音が、テーブル越しの川島君に聞こえてしまいそうなくらい、激しく高鳴っていた。でも川島君は、わたしの気持ちにはまったく気づかないみたいで、なんでもないように言った。
「あぁ。えみちゃんには高校の時からモデルやってもらってるから、いっしょに帰ることもあったな」
「川島君と蘭さん、お似合いだったわよ」
作り笑顔を浮かべて、わたしは努めて明るく話した。なんでこんな、心にもないこと言っちゃうんだろ。
しかし川島君は、急に表情を曇らせた。
「イヤなんだよな。そういうの」
「え?」
わたしはドキリとした。もしかして、川島君の気に障るようなこと、なにか言った?
「えみちゃんのことは、ぼくは純粋に作品づくりのための、カメラマンとモデルの関係と、割り切っているんだ。
なのに、いっしょに帰ったとか、写真撮ったとかだけで、彼氏だの彼女だのいう奴もいて、『ヌード撮ったか?』とか『ヤったか?』とかくだらないこと訊いてくる奴までいる。
恋愛と作品づくりは別のものと、ぼくは考えてるんだ。そういう興味本位な視線で見られるのって、イヤなんだよ」
「ごっ、ごめんなさい。わたし」
「あ… さつきちゃんのこと言ってるわけじゃないよ」
うつむいているわたしを見て、川島君はフォローを入れてくれた。
そうか…
蘭恵美さんのことは、川島君はただの『モデル』としか見てないのか…
つづく
次に川島君に会ったのは、小説講座の開催された金曜の夜。
講座の帰り道に『紅茶貴族』へ寄って、ふたりでお茶を飲みながら、おしゃべりをした。
ここへ来るのは、今夜で4回目。
もう見慣れた店内に、いつものアールグレイ。
いつものような、文学やサークルの話。
今まではそれで満足していたんだけど、今日はなんだか落ち着かなかった。
みっこの言うように、蘭さんのことを訊いてみたい。
蘭恵美さんと川島君との関係を、はっきりさせたい。
話に相槌打ちながらも、わたしはどんなタイミングで蘭さんのことを切り出そうか、内心焦っていた。だけど、わたしはみっこみたいに、会話のイニシアチブをとるなんてできないし、気ばかり焦るだけで、彼の話もうわの空だった。
「そうそう。今、学校のパソコンでみんなの原稿入力してるところだけど、さつきちゃんの小説の入力終わったから、校正しといてくれる?」
そう言って川島君は、活字になったわたしの原稿のプリントを取り出した。
「わあ。こうして活字で読むと、自分の文章も客観的に見れる気がするわね」
「最後の余韻がよかったな。『パセリ』ちゃんのその後がいろいろ想像できるみたいで」
「あ、ありがとう」
「次はどんなの書く予定?」
「ん~。まだわかんないけど…」
と思案しながら、頭のなかにひらめくものが浮かんだ。
「…今度は、恋愛小説を書いてみたいと思ってるの」
「ふぅん。恋愛小説か。さつきちゃんが書くと、面白いのができそうだな」
「でもわたし、恋愛の男性心理とか、よくわからないの。
だから… 川島君に、教えてほしいんだけど」
小説の話題にかこつけて、このまま恋愛話に持っていって、うまいこと蘭さんのことを聞き出せれば。
そんなわたしの思惑に、川島君は気づくこともない様子で、乗ってきてくれた。
「そうだな… ぼくの乏しい経験じゃ、たいしたアドバイスもできないと思うよ」
「そう? でも川島君って高校の頃、すごいモテてたじゃない?」
「ぼくが? そんなことないと思うけど」
「クラスの女の子が、川島君の噂してるの聞いたこともあるし、『川島君が好き』って女子も、いたのよ」
「へえ。そうなんだ」
「それに…」
さりげなく切り出したつもりだけど、わたしの台詞、語尾が震えていたような気がする。
「わたし、見たことあるのよ。川島君が、蘭さんと下校してるとこ」
どんな反応が返ってくるか、不安でたまらない。
心臓の音が、テーブル越しの川島君に聞こえてしまいそうなくらい、激しく高鳴っていた。でも川島君は、わたしの気持ちにはまったく気づかないみたいで、なんでもないように言った。
「あぁ。えみちゃんには高校の時からモデルやってもらってるから、いっしょに帰ることもあったな」
「川島君と蘭さん、お似合いだったわよ」
作り笑顔を浮かべて、わたしは努めて明るく話した。なんでこんな、心にもないこと言っちゃうんだろ。
しかし川島君は、急に表情を曇らせた。
「イヤなんだよな。そういうの」
「え?」
わたしはドキリとした。もしかして、川島君の気に障るようなこと、なにか言った?
「えみちゃんのことは、ぼくは純粋に作品づくりのための、カメラマンとモデルの関係と、割り切っているんだ。
なのに、いっしょに帰ったとか、写真撮ったとかだけで、彼氏だの彼女だのいう奴もいて、『ヌード撮ったか?』とか『ヤったか?』とかくだらないこと訊いてくる奴までいる。
恋愛と作品づくりは別のものと、ぼくは考えてるんだ。そういう興味本位な視線で見られるのって、イヤなんだよ」
「ごっ、ごめんなさい。わたし」
「あ… さつきちゃんのこと言ってるわけじゃないよ」
うつむいているわたしを見て、川島君はフォローを入れてくれた。
そうか…
蘭恵美さんのことは、川島君はただの『モデル』としか見てないのか…
つづく
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