36 / 300
05 Love Affair
Love Affair 4
しおりを挟む
補足する様に、悠姫ミノルさんが言う。
「出版社も今、どんどんMacを導入しているけど、それと同じシステムで同じアプリケーションだから、原理的には商業出版物と同じ様な本になるはずだよ。印刷方法の違いはあるけど」
「すごいですね! コンピューターで同人誌作るなんて。なんかハイテクです。
自分のお話しが活字になるのに憧れてたから、嬉しいです」
「ビジュアルアーツ専門学校生なら、そのくらいできないとな」
ちょっぴり誇らしげに、川島君が言う。
「まあ、『Adobe』社もドロー系のDTPソフト出してるけど、『Illustrator』はテキストの編集が面倒で、『FreeHand』よりはまだ使い勝手が悪いかな~」
「『PhotoShop』もまだまだ機能面で物足りないところ多いよな。特に複数の画像を合成するときとか、一度合成したら修正きかないの、なんとかならないかな」
「ピクセル単位で演算するから、複数の画像を扱うには、まずパソコンのスペックを要求されるだろ」
「そういえば今度のMacは、68系のプロセッサからRISCチップのPowerPCへ変わるって話じゃないか。そうしたら演算速度もかなり速くなって、フィルタ処理も楽になりそうだな」
川島君と悠姫さんはパソコンの話に没頭していく。
男の人って、こういうメカの話が好きなんだな。わたしにはなにがなんだかさっぱりだけど。
「ふうん」
そんな話で盛り上がっていたふたりの隣で、わたしの原稿を読み終わった志摩みさとさんが、感心したように言った。
「弥生さん。とっても素敵なお話し書くのね。この主人公の『パセリ』ちゃんに感情移入しちゃって、ラストシーンはなんだかホロっとしてきちゃった」
「え? そうですか?!」
「すごく面白かったわ。他にも今まで書いたものがあるんだったら、見せてほしいんだけど、どぉう?」
「じゃあ、今度の集会の時に持ってきます」
わたしの声は、きっと弾んでいたと思う。
人から褒められるのは、やっぱり嬉しい。
『それじゃあ、わたしのも読んで感想聞かせてね』と、志摩さんも微笑みながら言う。
川島君と創作活動をいっしょにできるのは、もちろん嬉しいことだけど、こんな風にだれかと作品を見せ合ったりするのは、創作意欲を刺激されてモチベーションもテンションも上がってくる。最初は不安だったけど、やっぱりこのサークルに入れてもらって、よかったかな。
「えみちゃん、遅いわね」
ハンバーガーを食べながら、持ち寄った作品や編集の話なんかをしているとき、不意に、志摩みさとさんが漏らした。
わたしはドキリとした。
『えみちゃん』って、まさか… 蘭恵美さんのこと?
みさとさん、彼女のこと知ってるの?
しかし、蘭恵美さんのことを知ってるのは、彼女だけじゃないみたいだった。
「えみちゃん、今日は学校に寄らないといけないんだってさ。もうすぐ来ると思うよ」
川島君が原稿に目をやったまま、コーヒーを飲みながら話す。彼の口から「えみちゃん」という親しげな呼び方を聞くと、やっぱり心がざわついてしまう。
「やった。きゃわゆい女子高生の制服ミニスカ姿が見れるな」
「ミノル、よだれたらすなよ」
「まあ、えみちゃん美少女だしね。男どもが鼻の下伸ばすのも、無理ないか」
「それを知ってて武器にするタイプだものね。彼女」
志摩さんの言葉に、紗羅さんが冷静に分析を加える。
みんなの会話に、わたしは心臓の音が速くなるのを感じながら、口をはさんだ。
「あの… えみちゃんって?」
「ああ。ぼくの高校の時のクラブの後輩だよ」
「すっごいわがままな子なのよ。可愛いから許すけど」
川島君のあとに、志摩みさとさんがつけ足した。
「あ。写真見ます? 川島が撮ったやつ」
そう言いながら、松尾さんが封筒から数枚の写真を取り出した。
それは、綺麗な夕焼けの海に、ひとりの少女が佇んでいる写真だった。
真っ赤な景色の中に、小さく写った少女の後ろ姿。
だけどそれは、川島君の心の中の海に、入ることを請われた女の子。
次の写真は彼女のアップ。レンズを通して川島君を見つめて微笑む表情が、ふたりの距離の近さを語っていた。
まさか…
こんなところで、蘭さんといっしょに活動することになるなんて…
もしかして、このサークルにいる限り、わたしは川島君と蘭さんをずっと端から見ていることになるの?
そんなこと、今のわたしに耐えられる?
つづく
「出版社も今、どんどんMacを導入しているけど、それと同じシステムで同じアプリケーションだから、原理的には商業出版物と同じ様な本になるはずだよ。印刷方法の違いはあるけど」
「すごいですね! コンピューターで同人誌作るなんて。なんかハイテクです。
自分のお話しが活字になるのに憧れてたから、嬉しいです」
「ビジュアルアーツ専門学校生なら、そのくらいできないとな」
ちょっぴり誇らしげに、川島君が言う。
「まあ、『Adobe』社もドロー系のDTPソフト出してるけど、『Illustrator』はテキストの編集が面倒で、『FreeHand』よりはまだ使い勝手が悪いかな~」
「『PhotoShop』もまだまだ機能面で物足りないところ多いよな。特に複数の画像を合成するときとか、一度合成したら修正きかないの、なんとかならないかな」
「ピクセル単位で演算するから、複数の画像を扱うには、まずパソコンのスペックを要求されるだろ」
「そういえば今度のMacは、68系のプロセッサからRISCチップのPowerPCへ変わるって話じゃないか。そうしたら演算速度もかなり速くなって、フィルタ処理も楽になりそうだな」
川島君と悠姫さんはパソコンの話に没頭していく。
男の人って、こういうメカの話が好きなんだな。わたしにはなにがなんだかさっぱりだけど。
「ふうん」
そんな話で盛り上がっていたふたりの隣で、わたしの原稿を読み終わった志摩みさとさんが、感心したように言った。
「弥生さん。とっても素敵なお話し書くのね。この主人公の『パセリ』ちゃんに感情移入しちゃって、ラストシーンはなんだかホロっとしてきちゃった」
「え? そうですか?!」
「すごく面白かったわ。他にも今まで書いたものがあるんだったら、見せてほしいんだけど、どぉう?」
「じゃあ、今度の集会の時に持ってきます」
わたしの声は、きっと弾んでいたと思う。
人から褒められるのは、やっぱり嬉しい。
『それじゃあ、わたしのも読んで感想聞かせてね』と、志摩さんも微笑みながら言う。
川島君と創作活動をいっしょにできるのは、もちろん嬉しいことだけど、こんな風にだれかと作品を見せ合ったりするのは、創作意欲を刺激されてモチベーションもテンションも上がってくる。最初は不安だったけど、やっぱりこのサークルに入れてもらって、よかったかな。
「えみちゃん、遅いわね」
ハンバーガーを食べながら、持ち寄った作品や編集の話なんかをしているとき、不意に、志摩みさとさんが漏らした。
わたしはドキリとした。
『えみちゃん』って、まさか… 蘭恵美さんのこと?
みさとさん、彼女のこと知ってるの?
しかし、蘭恵美さんのことを知ってるのは、彼女だけじゃないみたいだった。
「えみちゃん、今日は学校に寄らないといけないんだってさ。もうすぐ来ると思うよ」
川島君が原稿に目をやったまま、コーヒーを飲みながら話す。彼の口から「えみちゃん」という親しげな呼び方を聞くと、やっぱり心がざわついてしまう。
「やった。きゃわゆい女子高生の制服ミニスカ姿が見れるな」
「ミノル、よだれたらすなよ」
「まあ、えみちゃん美少女だしね。男どもが鼻の下伸ばすのも、無理ないか」
「それを知ってて武器にするタイプだものね。彼女」
志摩さんの言葉に、紗羅さんが冷静に分析を加える。
みんなの会話に、わたしは心臓の音が速くなるのを感じながら、口をはさんだ。
「あの… えみちゃんって?」
「ああ。ぼくの高校の時のクラブの後輩だよ」
「すっごいわがままな子なのよ。可愛いから許すけど」
川島君のあとに、志摩みさとさんがつけ足した。
「あ。写真見ます? 川島が撮ったやつ」
そう言いながら、松尾さんが封筒から数枚の写真を取り出した。
それは、綺麗な夕焼けの海に、ひとりの少女が佇んでいる写真だった。
真っ赤な景色の中に、小さく写った少女の後ろ姿。
だけどそれは、川島君の心の中の海に、入ることを請われた女の子。
次の写真は彼女のアップ。レンズを通して川島君を見つめて微笑む表情が、ふたりの距離の近さを語っていた。
まさか…
こんなところで、蘭さんといっしょに活動することになるなんて…
もしかして、このサークルにいる限り、わたしは川島君と蘭さんをずっと端から見ていることになるの?
そんなこと、今のわたしに耐えられる?
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
悪役令嬢にはブラック企業で働いてもらいます。
ガイア
ライト文芸
ライヴァ王国の令嬢、マスカレイド・ライヴァは最低最悪の悪役令嬢だった。
嫌われすぎて町人や使用人達から恨みの刻印を胸に刻まれ、ブラック企業で前世の償いをさせられる事に!?
深見小夜子のいかがお過ごしですか?
花柳 都子
ライト文芸
小説家・深見小夜子の深夜ラジオは「たった一言で世界を変える」と有名。日常のあんなことやこんなこと、深見小夜子の手にかかれば180度見方が変わる。孤独で寂しくて眠れないあなたも、夜更けの静かな時間を共有したいご夫婦も、勉強や遊びに忙しいみんなも、少しだけ耳を傾けてみませんか?安心してください。このラジオはあなたの『主観』を変えるものではありません。「そういう考え方もあるんだな」そんなスタンスで聴いていただきたいお話ばかりです。『あなた』は『あなた』を大事に、だけど決して『あなたはあなただけではない』ことを忘れないでください。
さあ、眠れない夜のお供に、深見小夜子のラジオはいかがですか?
サロン・ルポゼで恋をして
せいだ ゆう
ライト文芸
「リフレクソロジー」―― それは足裏健康法と呼ばれるセラピーである。
リフレクソロジー専門のサロン「ルポゼ」で働くセラピストの首藤水(しゅとう すい)
彼は多くのお悩みとお疲れを抱えたお客様へ、施術を通して暖かいメッセージを提供するエースセラピストだった。
そんな眩しい彼へ、秘めた恋を抱く受付担当の井手みなみ(いで みなみ)
果たして想いは伝わるのか……。
施術によって変化する人間模様、そして小さなサロンで起きる恋愛模様。
『ヒューマンドラマ×恋愛』
人が癒される瞬間を。
可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス
竹比古
ライト文芸
先生、ぼくたちは幸福だったのに、異常だったのですか?
周りの身勝手な人たちは、不幸そうなのに正常だったのですか?
世の人々から、可ではなく、不可というレッテルを貼られ、まるで鴉(カフカ)を見るように厭な顔をされる精神病患者たち。
USA帰りの青年精神科医と、その秘書が、総合病院の一角たる精神科病棟で、或いは行く先々で、ボーダーラインの向こう側にいる人々と出会う。
可ではなく、不可をつけられた人たちとどう向き合い、接するのか。
何か事情がありそうな少年秘書と、青年精神科医の一話読みきりシリーズ。
大雑把な春名と、小舅のような仁の前に現れる、今日の患者は……。
※以前、他サイトで掲載していたものです。
※一部、性描写(必要描写です)があります。苦手な方はお気を付けください。
※表紙画:フリーイラストの加工です。
ボッチ時空を越えて
東城
BL
大学生の佐藤は新宿の公園で未来人と遭遇する。未来人の強引な依頼で1980年代にタイムリープしてしまう。
タイムリープした昭和の時代でバンドマンのパワーくんという青年と出会う。名前が力だから、あだ名がパワーくん。超絶イケメンで性格も良いパワーくんは、尊すぎて推しという存在だ。
推し活に励み楽しい日々が過ぎていくが、いずれは元の時代に戻らないといけないことは佐藤もわかっていた。
都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる