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05 Love Affair
Love Affair 2
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affair2
10月も終わりに近づいた日曜日の空は、真っ青に澄みわたっていて、あかね色に染まった樹々の葉と、綺麗な補色を描いている。
休日の駅前の『マクドナルド』は、雑多な人たちで賑わっていた。
わたしが店に着いたときは、もうみんな集まっているようだった。
川島君は奥のボックスソファーに陣取っていて、4~5人の男女と話に夢中で、すぐには気づいてもらえなかった。
「川島君。ごめんなさい、遅くなっちゃって」
遠慮しながらみんなの席へ近づいていき、声をかける。ソファーにはたくさんの鞄や資料、作品なんかが山積みにされていて、わたしが腰をおろせる場所もなさそう。
「あっ、さつきちゃん。ごめんな、気がつかなくて。みんな今来たとこでバタバタしてて。紹介するよ」
そう言いながら川島君は座席の荷物を脇に寄せ、自分の向かいにわたしのスペースを作ってくれる。みんな、いっせいにわたしに注目した。ん~、ちょっと恥ずかしいな、こういう瞬間。
一見して大学生とわかる、洗いざらしのジーンズをはいた、太めのオタクっぽい男の人と、背が低くて眼鏡をかけた、ちょっと神経質そうな男の人。
ロングのカーリーヘアの、細くて綺麗な女性に、小さくて可愛いショートヘアの女の人。
みんな原稿を持ったり、封筒を脇に置いたりしている。
「はじめまして。わたし『志摩みさと』です。もちろんペンネ-ムだけどね。甘ったるい少女小説描いてます。
川島君から『小説書く女の子が入会する』って聞いてて、作品読ませてもらうの、楽しみにしてたの。
お互いに刺激しあって、いっしょに頑張りましょうね」
最初に自己紹介してくれたのは、カーリーヘアの綺麗な女性だった。
わぁ、この人、声が素敵。
ふんわりとした空気を纏っているみたいで、瞳が大きく黒目がちで、唇がふっくらとして蠱惑的。
全体から漂ってくる雰囲気が、コケティッシュっていうのかな?
もうひとりの女性が、どちらかというとクールで知的なイメージなのと対照的に、あどけなくて甘さたっぷりな、砂糖菓子みたいな感じで、『少女小説』って言葉がよく似合う。
彼女に続いて、他のメンバーもそれぞれ挨拶してくれた。
「こんにちは、『紗羅』です。川島君から聞いてます。わたしは小説とポエム書いてます」
「俺はペンネーム『悠姫ミノル』です。講義中にマンガを描いているのを川島に見られて、このサークルに誘われたんだ。よろしく」
「松尾っていいます。中学時代の川島の同級生。あ、まだペンネーム考えてなくて、松尾は本名。よろしく」
「松尾以外は、みんなぼくと同じ専門学校生なんだ。専攻は違うけどね」
最後に川島君が説明してくれた。みんな親切そうな人たち。これならうまくやっていけそうかも。
自己紹介も早々に、川島君は訊いてきた。
「さつきちゃんは、原稿仕上がった?」
「うん、なんとか。まだちゃんと校正してないから、誤字脱字があったらゴメン」
そう言いながらわたしは、夜なべして完成させたばかりの原稿用紙の束の入った封筒を、川島君に差し出す。
「よかった。これでだいたい原稿は揃ったな。これから編集作業か。半月くらいで編集終わらせて、印刷して… 12月の頭には完成させたいな」
わたしの原稿を揃え、確かめるように目を通しながら、川島君はこれからの予定をざっくり話した。
「ねえ。印刷はどうするの? あ、わたしにも読ませて」
川島君の隣に座っていた志摩みさとさんが、わたしの原稿を見るために、彼の方にからだを寄せた。
え?
なんか… 距離が近くない?
つづく
10月も終わりに近づいた日曜日の空は、真っ青に澄みわたっていて、あかね色に染まった樹々の葉と、綺麗な補色を描いている。
休日の駅前の『マクドナルド』は、雑多な人たちで賑わっていた。
わたしが店に着いたときは、もうみんな集まっているようだった。
川島君は奥のボックスソファーに陣取っていて、4~5人の男女と話に夢中で、すぐには気づいてもらえなかった。
「川島君。ごめんなさい、遅くなっちゃって」
遠慮しながらみんなの席へ近づいていき、声をかける。ソファーにはたくさんの鞄や資料、作品なんかが山積みにされていて、わたしが腰をおろせる場所もなさそう。
「あっ、さつきちゃん。ごめんな、気がつかなくて。みんな今来たとこでバタバタしてて。紹介するよ」
そう言いながら川島君は座席の荷物を脇に寄せ、自分の向かいにわたしのスペースを作ってくれる。みんな、いっせいにわたしに注目した。ん~、ちょっと恥ずかしいな、こういう瞬間。
一見して大学生とわかる、洗いざらしのジーンズをはいた、太めのオタクっぽい男の人と、背が低くて眼鏡をかけた、ちょっと神経質そうな男の人。
ロングのカーリーヘアの、細くて綺麗な女性に、小さくて可愛いショートヘアの女の人。
みんな原稿を持ったり、封筒を脇に置いたりしている。
「はじめまして。わたし『志摩みさと』です。もちろんペンネ-ムだけどね。甘ったるい少女小説描いてます。
川島君から『小説書く女の子が入会する』って聞いてて、作品読ませてもらうの、楽しみにしてたの。
お互いに刺激しあって、いっしょに頑張りましょうね」
最初に自己紹介してくれたのは、カーリーヘアの綺麗な女性だった。
わぁ、この人、声が素敵。
ふんわりとした空気を纏っているみたいで、瞳が大きく黒目がちで、唇がふっくらとして蠱惑的。
全体から漂ってくる雰囲気が、コケティッシュっていうのかな?
もうひとりの女性が、どちらかというとクールで知的なイメージなのと対照的に、あどけなくて甘さたっぷりな、砂糖菓子みたいな感じで、『少女小説』って言葉がよく似合う。
彼女に続いて、他のメンバーもそれぞれ挨拶してくれた。
「こんにちは、『紗羅』です。川島君から聞いてます。わたしは小説とポエム書いてます」
「俺はペンネーム『悠姫ミノル』です。講義中にマンガを描いているのを川島に見られて、このサークルに誘われたんだ。よろしく」
「松尾っていいます。中学時代の川島の同級生。あ、まだペンネーム考えてなくて、松尾は本名。よろしく」
「松尾以外は、みんなぼくと同じ専門学校生なんだ。専攻は違うけどね」
最後に川島君が説明してくれた。みんな親切そうな人たち。これならうまくやっていけそうかも。
自己紹介も早々に、川島君は訊いてきた。
「さつきちゃんは、原稿仕上がった?」
「うん、なんとか。まだちゃんと校正してないから、誤字脱字があったらゴメン」
そう言いながらわたしは、夜なべして完成させたばかりの原稿用紙の束の入った封筒を、川島君に差し出す。
「よかった。これでだいたい原稿は揃ったな。これから編集作業か。半月くらいで編集終わらせて、印刷して… 12月の頭には完成させたいな」
わたしの原稿を揃え、確かめるように目を通しながら、川島君はこれからの予定をざっくり話した。
「ねえ。印刷はどうするの? あ、わたしにも読ませて」
川島君の隣に座っていた志摩みさとさんが、わたしの原稿を見るために、彼の方にからだを寄せた。
え?
なんか… 距離が近くない?
つづく
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