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04 Tea Time
Tea Time 4
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彼女は続ける。
「それにあたし、小さい頃からずっとピアノとかバレエ習ってて、学校が終わってもあまり友達と遊べなかったし、ママは厳しくて、あたしが外で間食するのを許してくれなかったの。だから、友達から『喫茶店に行こう』とか誘われても断るしかなくて、そうするうちに誰も誘ってくれなくなって…
クラスのみんなはあたしのこと、『お高く止まったとっつきにくい、わがままな女』って思ってたみたい。多分」
「みっこはそれがイヤだったのね。それで、大学に入ったら自分のしたいことしようって、決めてたのね?」
「そう」
「みっこって、妥協できない性格なんだ」
「どういうこと?」
「なんて言うのかな… ふつう、友達の恋なんてけっこうどうでもいい話で、相談したって、みんな当たりさわりのないこと言って、無難に答えるものでしょ。でもみっこって、本当に真剣に考えてくれて、答えてくれたわ。言い方はきついけど」
「…」
「でもわたし、そんなみっこと親友になれて、本当によかったって思ってるよ」
わたしがそう言うと、彼女はクルリと背を向けて、その場に立ち止まった。
「どうしたの? みっこ」
「なんでも、ない」
むこうを向いたまま、みっこはひとことだけ答えた。
バッグからハンカチを取り出し、それを顔に当てている。
えっ?
みっこ…
背中を向けたままうつむいて、彼女は目頭を押さえている。
その姿がいつもの彼女より、さらに華奢で、小さく見えた。
あんなに生意気でわがままな彼女に、こんなに脆い面があるなんて…
やだ。
なんだかわたしの方まで、目頭が熱くなってきちゃったじゃない。
「あたし。近ごろ。思うの」
わたしの方を見ないまま、ゆっくり言葉を区切って、みっこは話しはじめた。
「恋って、結果じゃない。
『恋をした』『誰かを愛した』ってことそのものが、大切なことなんじゃないかな、って」
ハンカチをしまいながら、みっこはようやくこちらを振り向いた。
「そしてそれが、女の子をもっと磨いてくれるんじゃないかなって。
あたし、さつきには、あとで振り返っても悔いのない恋愛、してほしいなって思う」
みっこの話は、現在完了進行形。
もう『結果』の出てしまった恋を、彼女はいろんな形で想い出しているのかもしれない。
『この話は、もうやめよ』
ふたりで海に行ったとき、彼女はわたしの質問を拒んだ。
それはきっと、まだ傷跡の生々しい想いがあるから。
だからこそみっこは、わたしの恋のアドバイスにも、あんなにもひたむきになれるのかもしれない。
「それにね」
わたしの思いを遮るように、みっこは明るく言った。
「あたし、川島君もさつきのこと、好きなんじゃないかな? って思うの」
『えっ! どうして?」
「カンよ。だいいち『さつきちゃんって呼んでみたかった』なんて、あなたのこと好く思ってる証拠じゃない。
家まで送ってくれるのだって、同人誌に誘ったのだって、どんな理由をつけてでも、少しでも長く、あなたといたいからじゃないの?」
「ほんとに、そう思う?!」
返事の代わりに、みっこはニッコリと微笑んでみせた。
「さつきが自分らしくしていれば、川島君はもっとあなたのこと好きになるんじゃない?
あなた、ブスなんかじゃないわ。むしろ可愛いし、とっても魅力あるもん」
「魅力って」
「この際、恵美ちゃんが川島君のカノジョがどうかは置いといて,さつきは全力でぶつかってみたら? どう転んでも、その方がすっきりすると思うわよ」
「ん… そうね。やってみる」
そう言ってわたしも、みっこに微笑み返した。
彼女のさりげないひとことが、わたしの恋のゆくえを、ほんのりと小さな光で照らしてくれたみたい。
校門を抜けた丘から見える街並みに目をやると、宵闇に沈んだ家々には、ポツリポツリと明かりが灯りはじめていた。
END
9th FEB 2011 初稿
26th May 2017 改稿
30th Aug.2017 改稿
18th Nov.2019 改稿
「それにあたし、小さい頃からずっとピアノとかバレエ習ってて、学校が終わってもあまり友達と遊べなかったし、ママは厳しくて、あたしが外で間食するのを許してくれなかったの。だから、友達から『喫茶店に行こう』とか誘われても断るしかなくて、そうするうちに誰も誘ってくれなくなって…
クラスのみんなはあたしのこと、『お高く止まったとっつきにくい、わがままな女』って思ってたみたい。多分」
「みっこはそれがイヤだったのね。それで、大学に入ったら自分のしたいことしようって、決めてたのね?」
「そう」
「みっこって、妥協できない性格なんだ」
「どういうこと?」
「なんて言うのかな… ふつう、友達の恋なんてけっこうどうでもいい話で、相談したって、みんな当たりさわりのないこと言って、無難に答えるものでしょ。でもみっこって、本当に真剣に考えてくれて、答えてくれたわ。言い方はきついけど」
「…」
「でもわたし、そんなみっこと親友になれて、本当によかったって思ってるよ」
わたしがそう言うと、彼女はクルリと背を向けて、その場に立ち止まった。
「どうしたの? みっこ」
「なんでも、ない」
むこうを向いたまま、みっこはひとことだけ答えた。
バッグからハンカチを取り出し、それを顔に当てている。
えっ?
みっこ…
背中を向けたままうつむいて、彼女は目頭を押さえている。
その姿がいつもの彼女より、さらに華奢で、小さく見えた。
あんなに生意気でわがままな彼女に、こんなに脆い面があるなんて…
やだ。
なんだかわたしの方まで、目頭が熱くなってきちゃったじゃない。
「あたし。近ごろ。思うの」
わたしの方を見ないまま、ゆっくり言葉を区切って、みっこは話しはじめた。
「恋って、結果じゃない。
『恋をした』『誰かを愛した』ってことそのものが、大切なことなんじゃないかな、って」
ハンカチをしまいながら、みっこはようやくこちらを振り向いた。
「そしてそれが、女の子をもっと磨いてくれるんじゃないかなって。
あたし、さつきには、あとで振り返っても悔いのない恋愛、してほしいなって思う」
みっこの話は、現在完了進行形。
もう『結果』の出てしまった恋を、彼女はいろんな形で想い出しているのかもしれない。
『この話は、もうやめよ』
ふたりで海に行ったとき、彼女はわたしの質問を拒んだ。
それはきっと、まだ傷跡の生々しい想いがあるから。
だからこそみっこは、わたしの恋のアドバイスにも、あんなにもひたむきになれるのかもしれない。
「それにね」
わたしの思いを遮るように、みっこは明るく言った。
「あたし、川島君もさつきのこと、好きなんじゃないかな? って思うの」
『えっ! どうして?」
「カンよ。だいいち『さつきちゃんって呼んでみたかった』なんて、あなたのこと好く思ってる証拠じゃない。
家まで送ってくれるのだって、同人誌に誘ったのだって、どんな理由をつけてでも、少しでも長く、あなたといたいからじゃないの?」
「ほんとに、そう思う?!」
返事の代わりに、みっこはニッコリと微笑んでみせた。
「さつきが自分らしくしていれば、川島君はもっとあなたのこと好きになるんじゃない?
あなた、ブスなんかじゃないわ。むしろ可愛いし、とっても魅力あるもん」
「魅力って」
「この際、恵美ちゃんが川島君のカノジョがどうかは置いといて,さつきは全力でぶつかってみたら? どう転んでも、その方がすっきりすると思うわよ」
「ん… そうね。やってみる」
そう言ってわたしも、みっこに微笑み返した。
彼女のさりげないひとことが、わたしの恋のゆくえを、ほんのりと小さな光で照らしてくれたみたい。
校門を抜けた丘から見える街並みに目をやると、宵闇に沈んだ家々には、ポツリポツリと明かりが灯りはじめていた。
END
9th FEB 2011 初稿
26th May 2017 改稿
30th Aug.2017 改稿
18th Nov.2019 改稿
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