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03 Sweet Memories
Sweet Memories 8
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「あのあと、松田は篠倉さんを校舎の裏に呼び出して、告白したんだって」
おもむろに、川島君は切り出す。
「うん、雅美から聞いた。卒業式の後に電話があって、困ってた」
「あのふたり、今つき合ってるってさ」
「なんだか、信じられないけど… 雅美が好きだったのは、別のクラスの男子だったのに」
夏に雅美に会ったとき、ずいぶん綺麗になっていた。
『ラブラブなの』と言って、松田君のことを嬉しそうに話してたっけ。
キスもして、ホテルにも何度か行ったって、話してくれた。
『自分とは違う人種の女の子に進化したんだな~』と、雅美に対して違和感を持ったのを覚えている。
そのときの雅美からは、もう、高校の時に想っていた人の話は、ひとことも聞けなかった。
『人の気持ちって、変わっていくんだな~』
彼女の話を聞きながら、わたしは漠然と感じた。
わたしだって、川島君への想いは、とっくに、懐かしいだけの、甘い記憶になっていると思っていた。
思っていたはずなのに…
こうして再会すると、やっぱり心がざわめいてしまう。
わたしの気持ちは変わってない。
やっぱり川島君のことが、今でも好き…
『恋したことは、あるんでしょ?』
って、夏の海でみっこに訊かれたときも、真っ先に心に浮かんだのは、川島君のことだった。
高校卒業して半年。
今でもなにかの拍子に、川島君のことを想ってしまうわたし。
この想いはいつまで引きずるんだろ。
こうして再会してしまって、どうしたらいいの…
「もう出ようか」
川島君の言葉にハッと気がついて時計を見ると、短針はもう10時を回っている。
「ええっ! もうこんな時間?」
楽しい時間って、どうしてかけ足で過ぎちゃうんだろ。わたしは立ち上がってバッグから財布を取り出す。川島君はレシートをサッと手にとると、わたしにかまわずレジをすませた。
「今日はぼくが誘ったんだから、おごるよ」
「そんなの悪いわ。わたし払う」
お札を差し出すわたしの手を押し戻しながら、彼は言う。
「じゃあ、次におごってもらうよ」
「そ、そう? ごちそうさま…」
ドキドキして、うまく言えない。
次?
わたしたちに、次はあるの?
それは、今日と同じようなひとときを、また過ごせるってことなの?
川島君は、そうしてもいいって思ってるの?
ほとんどの店がシャッターを下ろしている地下街は、人影もまばらで、わたしのパンプスと川島君の靴の音だけが、“カツン”“カツン”と冷たく響きわたる。
卒業するまで、どうしても伝えられなかった気持ちが、胸の奥でもやもや渦巻いて、わたしはなにもしゃべれず、川島君もさっきまでより口数も少なくなって、長い間、ふたりは黙って歩いていた。
川島君、今夜わたしを誘ったこと、後悔してないかな?
喫茶店にいたときも緊張しっぱなしで、あまりしゃべらなかったから、退屈な子だと思われたかもしれない。
せっかく、『いろいろ深い話ができるんじゃないかな』って言ってもらえたのに、がっかりさせてしまったかも。
わたしは焦って、話題を探した。
「だけど…」
川島君の方が先に、口を開いた。
「高校を卒業してしまうと、急に大胆になれるな」
「そ、そうね」
「あの頃は弥生さんと、こうやっていっしょに歩くことがあるなんて、思いもしなかったのに」
「わたしも…」
ううん。
そうじゃない。
わたしはずっと夢見ていた。
川島君の隣にいて、いっしょに歩いているわたしを。
蘭さんみたいに、肩を寄せ合って…
川島君はポツリとつぶやく。
「たった半年前なのに、人って変わっていくものなんだな」
「あ…」
「なに?」
「う、ううん。なんでもない」
そう繕ってうつむきながらも、わたしは動悸が昂まるのを抑えられなかった。
つづく
おもむろに、川島君は切り出す。
「うん、雅美から聞いた。卒業式の後に電話があって、困ってた」
「あのふたり、今つき合ってるってさ」
「なんだか、信じられないけど… 雅美が好きだったのは、別のクラスの男子だったのに」
夏に雅美に会ったとき、ずいぶん綺麗になっていた。
『ラブラブなの』と言って、松田君のことを嬉しそうに話してたっけ。
キスもして、ホテルにも何度か行ったって、話してくれた。
『自分とは違う人種の女の子に進化したんだな~』と、雅美に対して違和感を持ったのを覚えている。
そのときの雅美からは、もう、高校の時に想っていた人の話は、ひとことも聞けなかった。
『人の気持ちって、変わっていくんだな~』
彼女の話を聞きながら、わたしは漠然と感じた。
わたしだって、川島君への想いは、とっくに、懐かしいだけの、甘い記憶になっていると思っていた。
思っていたはずなのに…
こうして再会すると、やっぱり心がざわめいてしまう。
わたしの気持ちは変わってない。
やっぱり川島君のことが、今でも好き…
『恋したことは、あるんでしょ?』
って、夏の海でみっこに訊かれたときも、真っ先に心に浮かんだのは、川島君のことだった。
高校卒業して半年。
今でもなにかの拍子に、川島君のことを想ってしまうわたし。
この想いはいつまで引きずるんだろ。
こうして再会してしまって、どうしたらいいの…
「もう出ようか」
川島君の言葉にハッと気がついて時計を見ると、短針はもう10時を回っている。
「ええっ! もうこんな時間?」
楽しい時間って、どうしてかけ足で過ぎちゃうんだろ。わたしは立ち上がってバッグから財布を取り出す。川島君はレシートをサッと手にとると、わたしにかまわずレジをすませた。
「今日はぼくが誘ったんだから、おごるよ」
「そんなの悪いわ。わたし払う」
お札を差し出すわたしの手を押し戻しながら、彼は言う。
「じゃあ、次におごってもらうよ」
「そ、そう? ごちそうさま…」
ドキドキして、うまく言えない。
次?
わたしたちに、次はあるの?
それは、今日と同じようなひとときを、また過ごせるってことなの?
川島君は、そうしてもいいって思ってるの?
ほとんどの店がシャッターを下ろしている地下街は、人影もまばらで、わたしのパンプスと川島君の靴の音だけが、“カツン”“カツン”と冷たく響きわたる。
卒業するまで、どうしても伝えられなかった気持ちが、胸の奥でもやもや渦巻いて、わたしはなにもしゃべれず、川島君もさっきまでより口数も少なくなって、長い間、ふたりは黙って歩いていた。
川島君、今夜わたしを誘ったこと、後悔してないかな?
喫茶店にいたときも緊張しっぱなしで、あまりしゃべらなかったから、退屈な子だと思われたかもしれない。
せっかく、『いろいろ深い話ができるんじゃないかな』って言ってもらえたのに、がっかりさせてしまったかも。
わたしは焦って、話題を探した。
「だけど…」
川島君の方が先に、口を開いた。
「高校を卒業してしまうと、急に大胆になれるな」
「そ、そうね」
「あの頃は弥生さんと、こうやっていっしょに歩くことがあるなんて、思いもしなかったのに」
「わたしも…」
ううん。
そうじゃない。
わたしはずっと夢見ていた。
川島君の隣にいて、いっしょに歩いているわたしを。
蘭さんみたいに、肩を寄せ合って…
川島君はポツリとつぶやく。
「たった半年前なのに、人って変わっていくものなんだな」
「あ…」
「なに?」
「う、ううん。なんでもない」
そう繕ってうつむきながらも、わたしは動悸が昂まるのを抑えられなかった。
つづく
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