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03 Sweet Memories
Sweet Memories 5
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あの頃…
わたしは紺のブレザーに赤いチェックのプリーツスカート。川島君は詰め襟の黒い学生服だった。
二年間同じクラスで、席が隣同士になって勉強したこともあったっけ。
彼が教科書を忘れてきて、机をくっつけて、わたしの本を見せてあげたこともあった。あとで、わたしの気持ちを知ってる友達にからかわれたな~。だけど川島君とは、そんなときでも、ほとんど話せなかった。
でもわたしは、けっして『根暗で無口な女の子』なんかじゃなかった。
それなりに友達もいたし、クラスの中でもワイワイと賑やかな方だったと思う。
仲のよかった友達は5人。
学校帰りによく『とらや』って甘味屋や『モロゾフ』のケーキ屋なんかにみんなで寄って、時間も忘れていろんな話を、とりとめもなくやってたっけ。
好きなタレントやミュージシャン。
新しくできた喫茶店。
誰かの持ってきた可愛い小物や、最近の流行りの服のこと。
昨日見たテレビ。
だけど、いちばんの話題はなんてったって、『好きな人』のことだった。
「松本君がバレーボールの授業のとき、すごいスパイク決めてたわ。さっすがバレー部キャプテンよね。もうドキドキしちゃった」
「広瀬君、今日も遅刻して校門で生徒手帳取られてたわよ。相変わらずドジなんだから」
「そういえば富村君、授業中とかでもいつもはるみの方見てるじゃない。絶対あなたに気があるって」
「知ってる? 有河くんが後輩の吉永さんから告白されたって!」
「うっそぉ! あの人、3組の真野さんとつきあってるんじゃなかったの?」
「それを知っててラブレター出したっていうから、その子もすごいよね」
女の子同士の情報ネットワークって、信じられないくらいに広くて、わたしも川島君の血液型とか誕生日、身長体重座高から視力、好きなタレントや、昨日食べた学食のメニューまで知ってたっけ。
だけどどんなに情報を集めたって、ほんとの川島君には少しも近づけなかった…
「なに考えてるんだい?」
川島君の声が、わたしを今の自分に引き戻した。
「うん。高校の頃のこと」
「たった半年前なのに、なんだかすごく昔のことに感じるな」
「うん」
「去年の秋の体育祭。後夜祭でのフォークダンスのこと、覚えてるかい?」
「ファイヤーストーン囲んで、三年生だけで踊ったね」
「実はさ。みんな、自分の好きな女子と踊りたくて、必死で順番考えていたんだ」
「へえ。男子でもそんなことするの?」
「みんな、ダンスなんかイヤだとか、めんどくさいとか言ってたけど、ほんとはすごく期待してたんだよ」
「そういえば女子も、好きな人と踊る順番回ってくるかどうかで、みんな大騒ぎしてたわ。だけどお目当の人と踊ってても、まるでバイ菌触るみたいに、相手の指先に、ちょこっとだけ手を載せてるだけだった」
「そうか~。女子もみんな、イヤな振りしながら、相手のことしっかり意識してたのか」
「…」
思わず赤くなった頬を川島君に見られたくなくて、わたしはうつむいた。
自分もそうだったもの。
踊りの輪が回っていっても、わたしは川島君のことばかりが気になっていた。
彼の姿がだんだん近づいてくるにつれて、心臓がどんどん激しく脈打ってきて、ステップ間違えそうになったくらい。
そしてついに、川島君と踊る順番がやってきた。
なのにわたしはイヤそうに、彼の指先をちょこんとつまんだだけだった。
でも本当は、そこに全部の神経を集めてた。
そしたら川島君が『そんなんじゃ踊れないよ』と言って、わたしの手をギュッと握ったんだ。
わたし、びっくりしちゃって息が止まりそうだった。あれはわたしにとって『大事件』だったのよ。
でも…
川島君は踊りたい人って、だれかいたのかな?
つづく
わたしは紺のブレザーに赤いチェックのプリーツスカート。川島君は詰め襟の黒い学生服だった。
二年間同じクラスで、席が隣同士になって勉強したこともあったっけ。
彼が教科書を忘れてきて、机をくっつけて、わたしの本を見せてあげたこともあった。あとで、わたしの気持ちを知ってる友達にからかわれたな~。だけど川島君とは、そんなときでも、ほとんど話せなかった。
でもわたしは、けっして『根暗で無口な女の子』なんかじゃなかった。
それなりに友達もいたし、クラスの中でもワイワイと賑やかな方だったと思う。
仲のよかった友達は5人。
学校帰りによく『とらや』って甘味屋や『モロゾフ』のケーキ屋なんかにみんなで寄って、時間も忘れていろんな話を、とりとめもなくやってたっけ。
好きなタレントやミュージシャン。
新しくできた喫茶店。
誰かの持ってきた可愛い小物や、最近の流行りの服のこと。
昨日見たテレビ。
だけど、いちばんの話題はなんてったって、『好きな人』のことだった。
「松本君がバレーボールの授業のとき、すごいスパイク決めてたわ。さっすがバレー部キャプテンよね。もうドキドキしちゃった」
「広瀬君、今日も遅刻して校門で生徒手帳取られてたわよ。相変わらずドジなんだから」
「そういえば富村君、授業中とかでもいつもはるみの方見てるじゃない。絶対あなたに気があるって」
「知ってる? 有河くんが後輩の吉永さんから告白されたって!」
「うっそぉ! あの人、3組の真野さんとつきあってるんじゃなかったの?」
「それを知っててラブレター出したっていうから、その子もすごいよね」
女の子同士の情報ネットワークって、信じられないくらいに広くて、わたしも川島君の血液型とか誕生日、身長体重座高から視力、好きなタレントや、昨日食べた学食のメニューまで知ってたっけ。
だけどどんなに情報を集めたって、ほんとの川島君には少しも近づけなかった…
「なに考えてるんだい?」
川島君の声が、わたしを今の自分に引き戻した。
「うん。高校の頃のこと」
「たった半年前なのに、なんだかすごく昔のことに感じるな」
「うん」
「去年の秋の体育祭。後夜祭でのフォークダンスのこと、覚えてるかい?」
「ファイヤーストーン囲んで、三年生だけで踊ったね」
「実はさ。みんな、自分の好きな女子と踊りたくて、必死で順番考えていたんだ」
「へえ。男子でもそんなことするの?」
「みんな、ダンスなんかイヤだとか、めんどくさいとか言ってたけど、ほんとはすごく期待してたんだよ」
「そういえば女子も、好きな人と踊る順番回ってくるかどうかで、みんな大騒ぎしてたわ。だけどお目当の人と踊ってても、まるでバイ菌触るみたいに、相手の指先に、ちょこっとだけ手を載せてるだけだった」
「そうか~。女子もみんな、イヤな振りしながら、相手のことしっかり意識してたのか」
「…」
思わず赤くなった頬を川島君に見られたくなくて、わたしはうつむいた。
自分もそうだったもの。
踊りの輪が回っていっても、わたしは川島君のことばかりが気になっていた。
彼の姿がだんだん近づいてくるにつれて、心臓がどんどん激しく脈打ってきて、ステップ間違えそうになったくらい。
そしてついに、川島君と踊る順番がやってきた。
なのにわたしはイヤそうに、彼の指先をちょこんとつまんだだけだった。
でも本当は、そこに全部の神経を集めてた。
そしたら川島君が『そんなんじゃ踊れないよ』と言って、わたしの手をギュッと握ったんだ。
わたし、びっくりしちゃって息が止まりそうだった。あれはわたしにとって『大事件』だったのよ。
でも…
川島君は踊りたい人って、だれかいたのかな?
つづく
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