17 / 300
02 Fashion Plate
Fashion Plate 5
しおりを挟む
そういえばみっこは、学校やちょっとしたショッピングのときは、麻とか綿のジーンズとか、パッと見ふつうっぽい服を着ていることが多い。
なのに、誰とも違う個性が光っているのは、そんな格好の中にもどこか必ず、おしゃれな要素が入っているから。
シンプルなシャツやパンツでも、形が綺麗だとか、ディテールのデザインが凝っていたりとか、色や柄や素材が違うアイテムを、大胆にさらりと組み合わせたりしているからだ。
いつかも、講義の空き時間にファンシーショップで買った安いレースの端切れを、ジーンズのスカートにザクザク縫いつけて、綿シャツに合わせて着てたりしたこともあったな。ジーンズとレースの組み合わせなんて考えつかなかったけど、みっこがやるととたんにおしゃれになってしまう。(作者註:1990年頃はまだ、異なるテイストの組み合わせはコーデの常識からはずれていた)
うちの大学にもそれなりにお嬢様っぽい女の子はいるけど、他の子たちがどんなに高級なブランド服を着てきたって、みっこの方がさりげないけど、ハッと目を惹きつけられるおしゃれをしている。それが森田美湖の個性で、ファッションに対する哲学なのかもしれない。
みっこの『羽』は、人から借りたものじゃなく、自分自身のものなんだ。
彼女からは自分の築いてきたスタイルに対する自信を、いつだって感じられる。
羨ましい。
ちょっとしたことで自信がぐらついて、すぐに不安になってしまうわたしとしては。
「いらっしゃい、美湖ちゃん。お待ちしてましたよ」
奥から出てきた五十がらみのオーナーらしい、品のある綺麗な女性が、そう言ってみっこに会釈した。
『美湖ちゃん』って…
ここはみっこの知り合いのお店だったのか。みっこも親しげな微笑みを返した。
「お久し振りです伊藤さん。今、こちらの方の店舗の視察中だなんて、ラッキーでした」
「ええ。明後日までいて、そのあとは東京に戻りますよ。でもびっくりしましたよ。美湖ちゃんが福岡の大学に進学しているなんて。よくお母様がお許しに…」
「ママのことはいいです」
みっこは彼女の話を遮った。
「それより今日は話したとおり、よろしくお願いします」
「はいはい。美湖ちゃんにはかないませんね」
伊藤さんはニコニコ微笑みながら答えた。
ふたりはしばらくなにか話していたが、「決まったら呼びますね」と言って、みっこはまた服を見はじめた。
なんか場慣れしてるんだな~。
サングラスたちと行ったフレンチレストランでも感じたけど、みっこはこういう高級っぽい場所でも、品よく堂々とふるまえる。自分の身の丈に合ってなくて、ビビってるわたしとは、なんだか距離を感じちゃう。
「このお店って、ノスタルジックな雰囲気のワンピースが多いのよ。生地や細部に凝っていて、今じゃほとんど見られない様なアンティークな素材とかを、探し出してきて使ったりしているの。あまり派手さはないけれど、その分いくつになっても着られるようなデザインと素材だから、値段よりお得なのよ」
そう解説しながら、みっこは店内を回る。
『ブランシュ』は10メートル四方のこぎれいなブティックで、通りに向いたフランス窓と、二階へ上がる螺旋階段が洒落ている。ショー・ウインドにはシルクのローズピンクの豪華なドレスが、ダウンライトにほんのり照らされて浮かんでいる。
トルソーに飾られた服も、確かに派手さはないけど、どこかレトロ調で懐かしい。襟元や袖のレースの使い方が絶妙。ボタンの形もハート型とか貝殻型とか凝っていて可愛い。服にはあんまり詳しくないけど、こういうのは好みかなぁ。わたしだって女の子だから、こんな素敵な服は欲しくなる。でも簡単に買えるような値段じゃないだろうし、怖いから値札は見ないことにした。
「美湖ちゃんのお友達の方ですね」
螺旋階段を登ってみっこが二階の服を見に行っている間に、伊藤さんが声をかけてきた。
「みっ… 森田さんの。はい、そうですけど」
彼女は微笑みながら、丁寧に挨拶をして下さる。
「これを機に、以後おつきあい下さいね」
「あっ、はい…」
「なにしろ、美湖ちゃんがお店にお友達を連れてきたのは、小学生の時以来ですもの」
「小学生? そんなに古いつきあいなんですか?」
「ええ。森田さんとはお母様がモデルをされていた頃からのつきあいですから、もう30年になりますね。もちろん美湖ちゃんはまだ生まれてなかったですよ。あの頃の私達は洋裁学校のデザイナー志望と、モデルの卵でしたの」
「森田さんのお母さんって、モデルだったんですか!?」
はじめて聞いた。
みっこのお母さんがモデルやってたなんて。
つづく
なのに、誰とも違う個性が光っているのは、そんな格好の中にもどこか必ず、おしゃれな要素が入っているから。
シンプルなシャツやパンツでも、形が綺麗だとか、ディテールのデザインが凝っていたりとか、色や柄や素材が違うアイテムを、大胆にさらりと組み合わせたりしているからだ。
いつかも、講義の空き時間にファンシーショップで買った安いレースの端切れを、ジーンズのスカートにザクザク縫いつけて、綿シャツに合わせて着てたりしたこともあったな。ジーンズとレースの組み合わせなんて考えつかなかったけど、みっこがやるととたんにおしゃれになってしまう。(作者註:1990年頃はまだ、異なるテイストの組み合わせはコーデの常識からはずれていた)
うちの大学にもそれなりにお嬢様っぽい女の子はいるけど、他の子たちがどんなに高級なブランド服を着てきたって、みっこの方がさりげないけど、ハッと目を惹きつけられるおしゃれをしている。それが森田美湖の個性で、ファッションに対する哲学なのかもしれない。
みっこの『羽』は、人から借りたものじゃなく、自分自身のものなんだ。
彼女からは自分の築いてきたスタイルに対する自信を、いつだって感じられる。
羨ましい。
ちょっとしたことで自信がぐらついて、すぐに不安になってしまうわたしとしては。
「いらっしゃい、美湖ちゃん。お待ちしてましたよ」
奥から出てきた五十がらみのオーナーらしい、品のある綺麗な女性が、そう言ってみっこに会釈した。
『美湖ちゃん』って…
ここはみっこの知り合いのお店だったのか。みっこも親しげな微笑みを返した。
「お久し振りです伊藤さん。今、こちらの方の店舗の視察中だなんて、ラッキーでした」
「ええ。明後日までいて、そのあとは東京に戻りますよ。でもびっくりしましたよ。美湖ちゃんが福岡の大学に進学しているなんて。よくお母様がお許しに…」
「ママのことはいいです」
みっこは彼女の話を遮った。
「それより今日は話したとおり、よろしくお願いします」
「はいはい。美湖ちゃんにはかないませんね」
伊藤さんはニコニコ微笑みながら答えた。
ふたりはしばらくなにか話していたが、「決まったら呼びますね」と言って、みっこはまた服を見はじめた。
なんか場慣れしてるんだな~。
サングラスたちと行ったフレンチレストランでも感じたけど、みっこはこういう高級っぽい場所でも、品よく堂々とふるまえる。自分の身の丈に合ってなくて、ビビってるわたしとは、なんだか距離を感じちゃう。
「このお店って、ノスタルジックな雰囲気のワンピースが多いのよ。生地や細部に凝っていて、今じゃほとんど見られない様なアンティークな素材とかを、探し出してきて使ったりしているの。あまり派手さはないけれど、その分いくつになっても着られるようなデザインと素材だから、値段よりお得なのよ」
そう解説しながら、みっこは店内を回る。
『ブランシュ』は10メートル四方のこぎれいなブティックで、通りに向いたフランス窓と、二階へ上がる螺旋階段が洒落ている。ショー・ウインドにはシルクのローズピンクの豪華なドレスが、ダウンライトにほんのり照らされて浮かんでいる。
トルソーに飾られた服も、確かに派手さはないけど、どこかレトロ調で懐かしい。襟元や袖のレースの使い方が絶妙。ボタンの形もハート型とか貝殻型とか凝っていて可愛い。服にはあんまり詳しくないけど、こういうのは好みかなぁ。わたしだって女の子だから、こんな素敵な服は欲しくなる。でも簡単に買えるような値段じゃないだろうし、怖いから値札は見ないことにした。
「美湖ちゃんのお友達の方ですね」
螺旋階段を登ってみっこが二階の服を見に行っている間に、伊藤さんが声をかけてきた。
「みっ… 森田さんの。はい、そうですけど」
彼女は微笑みながら、丁寧に挨拶をして下さる。
「これを機に、以後おつきあい下さいね」
「あっ、はい…」
「なにしろ、美湖ちゃんがお店にお友達を連れてきたのは、小学生の時以来ですもの」
「小学生? そんなに古いつきあいなんですか?」
「ええ。森田さんとはお母様がモデルをされていた頃からのつきあいですから、もう30年になりますね。もちろん美湖ちゃんはまだ生まれてなかったですよ。あの頃の私達は洋裁学校のデザイナー志望と、モデルの卵でしたの」
「森田さんのお母さんって、モデルだったんですか!?」
はじめて聞いた。
みっこのお母さんがモデルやってたなんて。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
ブラック企業との戦い YOU乗す労働スター
今村 駿一
ライト文芸
ブラック企業に勤める渡辺は度重なるサービス残業とパワハラ、長時間勤務で毎日過酷な日々を送っていた。退職しようにも辞められない。
そんな環境の中で自分と正反対の素敵な存在を見つける。
その後の愛すべき不思議な家族
桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】
ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。
少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。
※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。
咲かない桜
御伽 白
ライト文芸
とある山の大きな桜の木の下で一人の男子大学生、峰 日向(ミネ ヒナタ)は桜の妖精を名乗る女性に声をかけられとあるお願いをされる。
「私を咲かせてくれませんか?」
咲くことの出来ない呪いをかけられた精霊は、日向に呪いをかけた魔女に会うのを手伝って欲しいとお願いされる。
日向は、何かの縁とそのお願いを受けることにする。
そして、精霊に呪いをかけた魔女に呪いを解く代償として3つの依頼を要求される。
依頼を通して日向は、色々な妖怪と出会いそして変わっていく。
出会いと別れ、戦い、愛情、友情、それらに触れて日向はどう変わっていくのか・・・
これは、生きる物語
※ 毎日投稿でしたが二巻製本作業(自費出版)のために更新不定期です。申し訳ありません。
人外さんに選ばれたのは私でした ~それでも私は人間です~
こひな
ライト文芸
渡利美里30歳。
勤めていた会社を訳あって辞め、フリーターをやっている美里は、姉のフリーマーケットのお手伝いに出かけた日に運命の出会いをする。
ずっと気になっていたけれど、誰にも相談できずにいた、自分の肩に座る『この子』の相談したことをきっかけに、ありとあらゆる不思議に巻き込まれていく…。
凪の始まり
Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。
俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。
先生は、今年で定年になる。
教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。
当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。
でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。
16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。
こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。
今にして思えば……
さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか?
長編、1年間連載。
Calling me,Kiss me
秋月真鳥
BL
この世界にはダイナミクスと呼ばれる第二の性がある。
警察の科学捜査班のラボの職員、アリスター・ソウルの第二の性はSubだ。
Subは相手に支配されたい、従いたい、尽くしたいという欲求を持っている。
一般的にSubは抱かれる方であるために、Subであることを隠して抑制剤で欲求を制御して暮らしていたアリスターの前に、Subを支配したい、従わせたい、甘やかしたい、守りたいという欲求を持つDomのリシャールが現れる。
世界的に有名なモデルであるリシャールの大ファンだったアリスターは、リシャールの前で倒れてしまって、第二の性を見抜かれて、プレイに誘われる。
リシャールはDomなのに抱かれたい性質のため、プレイ相手がいなくて困っていたのだ。
Subのアリスター×Domのリシャールのボーイズラブ。
※Sub攻め、Dom受けです。
※DomSubユニバース作品です。
※DomSubユニバースの説明に関しては本文にあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる