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02 Fashion Plate
Fashion Plate 4
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みっこが入っていったのは『Blanche(ブランシュ)』と看板の掲げられた、フランス窓のあるアンティーク調で、いかにもデザイナーズブランドって感じのブティックだった。
店先のワンピースでさえ、3万円以上の値札がついている。奥からはすました感じのマヌカンが、『なにしに来たの』といった顔で、わたしたちを冷ややかに見返している。昔からわたしの興味は本とか料理に向いていて、ファッションにはあまり関心がなく、女磨きは怠りがちだったから、こんな高級そうなお店は敷居が高い。
「みっこって、いつもこういうとこで服買ってるの?」
戸惑いながら訊くわたしに、みっこは笑いながら答える。
「まさかぁ。こんなとこでいつも買ってちゃ、おこずかいがいくらあっても足りないわよ。ふだんはショッピングモールとかディスカウントショップとかのショップをのぞいてるわ。こまめにいろんなお店を回って、安くていいものを探すようにしてるの。バーゲンにも早起きして出かけるしね」
「そう! わかるわかる! 安くていい服探すのって大変よね~」
「最近は、路地裏のインディーズショップ巡りにはまってるの。まだ無名だけど、おもしろい服作るお店に出会えたら、すごく得した感じよ」
「そっかー。でも『プリティウーマン』みたいに、ブランドものの服をポンと大人買いするのなんて、快感だろな~」
「まあね。でもあたしは脚で探す方が、好きかな」
「脚で探す?」
「ほしいお洋服をイメージして、脚が棒になるくらいあちこちのお店を回って、探しまわるの。ものによっては何年も探し続けることだってあるわ。そうやってやっと理想のものを見つけたときは、とっても感動するわよ。宝物を発掘したみたいにね」
「うん、わかる! わたしもレアな本に巡り会ったときは、宝物発掘した気分になるもの」
「そうよね。オシャレって、お金で買える物じゃない」
彼女は入口のワンピースから順に眺めていきながら、話を切り出した。
「さつきは、カラスが舞踏会に行く話、知ってる?」
「えと… いちばん美しい鳥を決める舞踏会が開かれたけど、カラスだけは『真っ黒で醜い』って理由で招かれなくて。でも、どうしても舞踏会に行きたかったカラスは、他の鳥たちが落とした綺麗な羽をまとって参加した、ってお話し?」
「さすがに読書が好きだけあるわね。
それから、舞踏会でカラスは、『いちばん美しい鳥』だって称えられるけど、他の鳥の羽をまとっているのがバレて、身ぐるみはがれて醜い羽をさらけだすでしょ。わけも分からずに有名ブランドに群がっている人たちって、そんなカラスみたい。
自分じゃ価値の判断ができなくて、みんなが褒めるものを欲しがるのなんて、みっともないだけよ」
「みっこはブランド嫌いなの?」
「そんなことないわ。ブランドものって確かに品質もデザインもよくて、素敵な物もたくさんある。というか、よいものが長い時をかけて選ばれ続けたものが、ブランドだしね、
だからこそ、あたしみたいな小娘が、シャネルのスーツ着て、ロレックスの時計はめて、ヴィトンのバッグからグッチの財布出して、親のカードでミンクのコートとか買ってたりするのって、カッコ悪すぎるわ」
「そうよね~。でも世の中バブルのせいかなぁ。最近はそんな女子大生が多いじゃない。
デパートのブランド服売り場で、若い女の子が何十万円もするコートやワンピースをバンバン買いあさってるのなんて、まさに『醜いカラス』ね」
「笑っちゃうわよね。老舗の高級ブランドって、その価値に似合う品格とセンスを身につけなきゃ、持つ資格がないと思うのよ。チャラチャラしたエセお嬢様の見栄で買われるのって、デザイナーやお洋服に対する冒涜だわ」
そう言ってみっこは、つんと鼻をそむけた。
お金にあかせてDCブランドを買い漁る女の子たちを、明らかに軽蔑している様子。
わたしだってそういうのは、自分ができないというやっかみもあって好きになれないけど、みっこからは彼女たちに対する反感以上に、服やファッションに対するポリシーを感じる。
「…カラスもね」
洋服を選ぶ手をとめて、みっこは言った。
「つやつやした漆黒の羽は、とっても謎めいて綺麗だわ。カラスが、それが自分の個性だと自信を持って舞踏会に行けば、きっと他の鳥たちにも認めてもらえたと思うのよ」
「そうか。おしゃれって、個性の表現なのね」
「だと思う」
つづく
店先のワンピースでさえ、3万円以上の値札がついている。奥からはすました感じのマヌカンが、『なにしに来たの』といった顔で、わたしたちを冷ややかに見返している。昔からわたしの興味は本とか料理に向いていて、ファッションにはあまり関心がなく、女磨きは怠りがちだったから、こんな高級そうなお店は敷居が高い。
「みっこって、いつもこういうとこで服買ってるの?」
戸惑いながら訊くわたしに、みっこは笑いながら答える。
「まさかぁ。こんなとこでいつも買ってちゃ、おこずかいがいくらあっても足りないわよ。ふだんはショッピングモールとかディスカウントショップとかのショップをのぞいてるわ。こまめにいろんなお店を回って、安くていいものを探すようにしてるの。バーゲンにも早起きして出かけるしね」
「そう! わかるわかる! 安くていい服探すのって大変よね~」
「最近は、路地裏のインディーズショップ巡りにはまってるの。まだ無名だけど、おもしろい服作るお店に出会えたら、すごく得した感じよ」
「そっかー。でも『プリティウーマン』みたいに、ブランドものの服をポンと大人買いするのなんて、快感だろな~」
「まあね。でもあたしは脚で探す方が、好きかな」
「脚で探す?」
「ほしいお洋服をイメージして、脚が棒になるくらいあちこちのお店を回って、探しまわるの。ものによっては何年も探し続けることだってあるわ。そうやってやっと理想のものを見つけたときは、とっても感動するわよ。宝物を発掘したみたいにね」
「うん、わかる! わたしもレアな本に巡り会ったときは、宝物発掘した気分になるもの」
「そうよね。オシャレって、お金で買える物じゃない」
彼女は入口のワンピースから順に眺めていきながら、話を切り出した。
「さつきは、カラスが舞踏会に行く話、知ってる?」
「えと… いちばん美しい鳥を決める舞踏会が開かれたけど、カラスだけは『真っ黒で醜い』って理由で招かれなくて。でも、どうしても舞踏会に行きたかったカラスは、他の鳥たちが落とした綺麗な羽をまとって参加した、ってお話し?」
「さすがに読書が好きだけあるわね。
それから、舞踏会でカラスは、『いちばん美しい鳥』だって称えられるけど、他の鳥の羽をまとっているのがバレて、身ぐるみはがれて醜い羽をさらけだすでしょ。わけも分からずに有名ブランドに群がっている人たちって、そんなカラスみたい。
自分じゃ価値の判断ができなくて、みんなが褒めるものを欲しがるのなんて、みっともないだけよ」
「みっこはブランド嫌いなの?」
「そんなことないわ。ブランドものって確かに品質もデザインもよくて、素敵な物もたくさんある。というか、よいものが長い時をかけて選ばれ続けたものが、ブランドだしね、
だからこそ、あたしみたいな小娘が、シャネルのスーツ着て、ロレックスの時計はめて、ヴィトンのバッグからグッチの財布出して、親のカードでミンクのコートとか買ってたりするのって、カッコ悪すぎるわ」
「そうよね~。でも世の中バブルのせいかなぁ。最近はそんな女子大生が多いじゃない。
デパートのブランド服売り場で、若い女の子が何十万円もするコートやワンピースをバンバン買いあさってるのなんて、まさに『醜いカラス』ね」
「笑っちゃうわよね。老舗の高級ブランドって、その価値に似合う品格とセンスを身につけなきゃ、持つ資格がないと思うのよ。チャラチャラしたエセお嬢様の見栄で買われるのって、デザイナーやお洋服に対する冒涜だわ」
そう言ってみっこは、つんと鼻をそむけた。
お金にあかせてDCブランドを買い漁る女の子たちを、明らかに軽蔑している様子。
わたしだってそういうのは、自分ができないというやっかみもあって好きになれないけど、みっこからは彼女たちに対する反感以上に、服やファッションに対するポリシーを感じる。
「…カラスもね」
洋服を選ぶ手をとめて、みっこは言った。
「つやつやした漆黒の羽は、とっても謎めいて綺麗だわ。カラスが、それが自分の個性だと自信を持って舞踏会に行けば、きっと他の鳥たちにも認めてもらえたと思うのよ」
「そうか。おしゃれって、個性の表現なのね」
「だと思う」
つづく
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