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01 PERKY JEAN
PERKY JEAN 7
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「サッキの趣味はなん?」
ニキビがいきなり、話をわたしに振ってきた。
口に運ぼうとしていたさかなのソテーを乗せたフォークを、わたしは慌てて止めて答えた。
「えっ? えっと… 本読んだりとか、お菓子作ったりとか… くらい」
「俺も本読むんよ。赤川次郎とか山田詠美とか。『ノルウェイの森』はわけわからんであんまりおもしろなかったけど、映画化されたら見たいだい」
「そうかな? 最近の原作つきの映画って、解釈が浅いくせに表現が奇抜に走りすぎで、原作の世界観を壊しちゃってるものが多い気がする。小説には活字でしか表現できない世界があるから、その映像化にはまず、世界観の共有から入らないといけないんじゃないかな。
それに今の若者向けの小説って、ムードばかりに流され過ぎてて、刹那的でおもしろくない。わかる人にしかわかんないって感じで、普遍性もないし、語彙もステロ化して乏しいと思う」
「…」
わたしがしゃべった後は、しばらく誰も口をきかなかった。
みっこはひとりでクスクス笑ってる。
や、やっぱり場に合わない話だったかな…
「あ。シャンパンもとろうゼ。乾杯しよう!」
サングラスはそう言って、話をはぐらかした。
それでも会話のイニシアチブはみっこが握っていた。
彼女は巧みに彼らの恋愛観や、好みの女の子のタイプなんかを聞き出す。そんなふたりの話を側で聞いていて、わたしは失望してしまった。
ふたりが女の子のことを話すとき、よく『ギャル』って言葉を使うんだけど、わたしには『GAL』は『GIRL』より一字足りない、女性を見下したスラングにしか聞こえない。
彼らの理想の『ギャル』ってのは、つぶらな瞳で笑顔が可愛いだけがとりえな、男の人に「はいはい」と従う、意志のない女の子。
それって、女の子をただの「もの」としてしか、見てないみたい?
男と女には、性愛的な欲望がつきまとう。
そんなものに囚わずに相手の中身を見て、魂と魂が理解し合うこととか、できないものなのかな?
う~ん…
こんなこと考えながら食事したって、ちっともおいしくない。
「ねえ。ナンパはよくやるの?」
おっと~。
大胆なみっこの質問が飛び出した。さすがにふたりも慌てる。
「いいのよ、気にしないから。ナンパ成功したのって、あたしたちが初めてってわけじゃないでしょ。今までひっかけた女の子、どうだった? すぐころんだ?」
「あ… アブナイ会話だな。みっこはやっぱりおもしれーゼ」
「はぐらかしたってダメよ。言っちゃいなさいよ。あんなカッコいいクルマに乗ってて、こんな素敵なレストラン知ってるんだもの。女の扱い上手よね」
「そ、そうか?」
「これだったら、女の子の方から寄ってくるんじゃない?」
「ん… ま、まあな」
「ね。教えてよ。あのクルマの助手席に座れた羨ましい女って、どんな感じだったのかな?」
「ま、まあ、ワンレンボディコンの女は、クルマ見ただけでついてくるな。それからDCグッズを買ってやって、テレビに出たレストランとかカフェ・バーに連れていったら、もう舞い上がりまくりだゼ」
「わぁ、いいな~。さすが、女の子の好みを知ってるわね」
「へへ。『ポパイ』とかで常に研究してるからな」
「じゃあ盛り上がったあとで、海辺の夜の国道をドライブして、『イルパラッツォ』あたりのシティホテルに連れ込む、って流れ?」
「はは。それ、いいな。そんなホテルだったらもう浮かれちまって、何でもやらしてくれるゼ。まったく九州のイモねーちゃんどもはレベル低いよな」
「ふぅ~ん。そっか。同じクルマに乗せてもらってるあたしも、レベル低いんだ」
「いやいや。みっこは全然違うゼ。格が違うっていうか、場慣れしてるっていうか、お嬢様っぽくて。
おまえを知ってしまったら、もう他の女なんか助手席に座らせられねーゼ」
「お、おれもそう思う。やっぱりみっこがイカすギャルやね。この前の女なんかブクブク肥えててよ。ブスブタは女の価値ないやろ」
「ああ、あれか。ボディコンミニスカはいいんだけどさ、パツンパツンに広がっててよ。網タイツの脚はまるでボンレスハムだったな」
「ブスはボディコン着るなち思ったぜ」
「そりゃそうだ。女は見た目でなんぼだゼ」
「みっこやサッキみたいなマブいギャルなら、連れて歩いて自慢できるよな」
「ああ。ふたりとも最高だゼ」
つづく
ニキビがいきなり、話をわたしに振ってきた。
口に運ぼうとしていたさかなのソテーを乗せたフォークを、わたしは慌てて止めて答えた。
「えっ? えっと… 本読んだりとか、お菓子作ったりとか… くらい」
「俺も本読むんよ。赤川次郎とか山田詠美とか。『ノルウェイの森』はわけわからんであんまりおもしろなかったけど、映画化されたら見たいだい」
「そうかな? 最近の原作つきの映画って、解釈が浅いくせに表現が奇抜に走りすぎで、原作の世界観を壊しちゃってるものが多い気がする。小説には活字でしか表現できない世界があるから、その映像化にはまず、世界観の共有から入らないといけないんじゃないかな。
それに今の若者向けの小説って、ムードばかりに流され過ぎてて、刹那的でおもしろくない。わかる人にしかわかんないって感じで、普遍性もないし、語彙もステロ化して乏しいと思う」
「…」
わたしがしゃべった後は、しばらく誰も口をきかなかった。
みっこはひとりでクスクス笑ってる。
や、やっぱり場に合わない話だったかな…
「あ。シャンパンもとろうゼ。乾杯しよう!」
サングラスはそう言って、話をはぐらかした。
それでも会話のイニシアチブはみっこが握っていた。
彼女は巧みに彼らの恋愛観や、好みの女の子のタイプなんかを聞き出す。そんなふたりの話を側で聞いていて、わたしは失望してしまった。
ふたりが女の子のことを話すとき、よく『ギャル』って言葉を使うんだけど、わたしには『GAL』は『GIRL』より一字足りない、女性を見下したスラングにしか聞こえない。
彼らの理想の『ギャル』ってのは、つぶらな瞳で笑顔が可愛いだけがとりえな、男の人に「はいはい」と従う、意志のない女の子。
それって、女の子をただの「もの」としてしか、見てないみたい?
男と女には、性愛的な欲望がつきまとう。
そんなものに囚わずに相手の中身を見て、魂と魂が理解し合うこととか、できないものなのかな?
う~ん…
こんなこと考えながら食事したって、ちっともおいしくない。
「ねえ。ナンパはよくやるの?」
おっと~。
大胆なみっこの質問が飛び出した。さすがにふたりも慌てる。
「いいのよ、気にしないから。ナンパ成功したのって、あたしたちが初めてってわけじゃないでしょ。今までひっかけた女の子、どうだった? すぐころんだ?」
「あ… アブナイ会話だな。みっこはやっぱりおもしれーゼ」
「はぐらかしたってダメよ。言っちゃいなさいよ。あんなカッコいいクルマに乗ってて、こんな素敵なレストラン知ってるんだもの。女の扱い上手よね」
「そ、そうか?」
「これだったら、女の子の方から寄ってくるんじゃない?」
「ん… ま、まあな」
「ね。教えてよ。あのクルマの助手席に座れた羨ましい女って、どんな感じだったのかな?」
「ま、まあ、ワンレンボディコンの女は、クルマ見ただけでついてくるな。それからDCグッズを買ってやって、テレビに出たレストランとかカフェ・バーに連れていったら、もう舞い上がりまくりだゼ」
「わぁ、いいな~。さすが、女の子の好みを知ってるわね」
「へへ。『ポパイ』とかで常に研究してるからな」
「じゃあ盛り上がったあとで、海辺の夜の国道をドライブして、『イルパラッツォ』あたりのシティホテルに連れ込む、って流れ?」
「はは。それ、いいな。そんなホテルだったらもう浮かれちまって、何でもやらしてくれるゼ。まったく九州のイモねーちゃんどもはレベル低いよな」
「ふぅ~ん。そっか。同じクルマに乗せてもらってるあたしも、レベル低いんだ」
「いやいや。みっこは全然違うゼ。格が違うっていうか、場慣れしてるっていうか、お嬢様っぽくて。
おまえを知ってしまったら、もう他の女なんか助手席に座らせられねーゼ」
「お、おれもそう思う。やっぱりみっこがイカすギャルやね。この前の女なんかブクブク肥えててよ。ブスブタは女の価値ないやろ」
「ああ、あれか。ボディコンミニスカはいいんだけどさ、パツンパツンに広がっててよ。網タイツの脚はまるでボンレスハムだったな」
「ブスはボディコン着るなち思ったぜ」
「そりゃそうだ。女は見た目でなんぼだゼ」
「みっこやサッキみたいなマブいギャルなら、連れて歩いて自慢できるよな」
「ああ。ふたりとも最高だゼ」
つづく
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