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01 PERKY JEAN
PERKY JEAN 6
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サングラスの運転するクルマは、おなかの底に響く低音を残して、夏の海をあとにした。
「どうしてオレ達と付き合う気になったんだ?」
『サザンオールスターズ』のCDをカーコンポにセットしながら、サングラスは鼻先を得意げに上に向けて、みっこに訊いてきた。
「高級フレンチのフルコース、おごってもらうためよ」
「それだけか?」
「そのあとのことは、気分しだいね」
「ははは。『気分しだいで責めないで』ってか? そういう気の強い女って好きだゼ。じゃ、さっそく食いにいくか。オレ、うまいレストラン知ってるんだゼ。神戸牛の…」
サングラスの話をさえぎるように、スピーカーからすごい音が飛び出してきた。シャンシャンと甲高い音が、なんとも耳障りで不愉快。こんな大音量じゃ会話するどころじゃない。
サングラスが案内してくれた店は、『田舎の日曜日』という、グルメ雑誌にでも載っていそうな、洒落たフレンチレストラン。
煉瓦作りの瀟洒な洋館で、開放的な掃き出し窓と、そこから続くテラスがおしゃれ。
室内の柔らかいダウンライトに浮かび上がった家具や建具は、フランスのカントリー調で、サングラスのエスコートにしては上出来。
「あたし、このいちばん高いディナーにする。みんなもこれでいいでしょ。ワインは赤のフルボディでお願いね」
テーブルについてメニューを開いたみっこは、ためらわずに『憧れのブローニュの森』ってネーミングの、12,000円もするフルコースを注文した。そしてすぐに、向かいの席に座った男たちと会話をはじめる。こんな時、わたしはいったい、なにをしゃべればいいんだろ。
「そういや自己紹介まだだったな。おまえらの名前、教えてくれヨ」
サングラスが聞いてきた。
わたしが口を開くよりも早く、みっこが答える。
「あたしは河合美津子。この子は松田早紀。でも『みっこ』と『サッキ』でいいわ」
「福岡に住んでるのか?」
「ううん。埼玉県人」
「でも福岡の大学に行ってるんだろ。ふたりともお嬢っぽいよな。アリス女学院かその辺だろ」
「残念でした。埼玉のフツーの大学よ。今は夏休みで九州のおばさんちに遊びに来てるの。あたしたち、いとこなの」
「仲いいんだな」
「わかる? いとこで親友なのよ」
そう言ってみっこはコロコロと笑う。わたしはあっけにとられて会話に入れない。
名前はもちろん、『埼玉』だの『いとこ』だの、み~んなデタラメ。
なんとまぁ、こうもすらすらと嘘が出てくるの?
みっこはこのふたりに、全然気を許してないんだ。なのに『ニックネームで呼んでいい』って言って、打ち解けてるフリしてる。巧妙な手だな。
実際、ふたりは馴れ馴れしく話してくるようになった。名前も教えてもらったけど、すぐに忘れちゃったので、『サングラス』と『ニキビ』で通すことにする。
「でも大学生ってヒマなのねー。夏休みに一日中ナンパやってるの?」
「んな事ないゼ。テニスやウィンドサーフィンなんかやるし、毎年冬には北海道にスキーにも行くんだゼ。北海道の雪はパウダースノーで最高にごきげんサ。最近はゴルフにこってて、この前なんか5番ホールでイーグル出してサ。スコア90切ったことだってあるんだゼ」
「ふうん。すごいすごい」
みっこのひやかしにも気づかないで、サングラスは得意げに続ける。
ん~。この人の語尾って、なんかキザっぽくって、わざとらしい話し方。
「それにクルマの事ならメチャ詳しいゼ。あの『セルシオ』も新車で買ったんだ」
「500万だぜ。500万!」
ニキビが口をはさむ。
「それを自分でチューンアップして、オイルクーラーつけてローダウンさせて、ホイールも16インチはかせてサ。こいつはピエゾTEMSでサスが可変だから、そこも固めにチューンしてコーナーの喰い付きを上げてるのサ」
「カーコンポもSONYのグライコ付きなんよ。しかもDAT装備してデジタルアンプで、スピーカーもツィーターとスーパーウーファー2発足して6チャンネルにしてるから、すげー音がいいやろ」
ああ…
わたしには理解不能の会話。
めまいがしそう。
どーでもいいけど、ふたりとも食べ物口に入れたまましゃべるのはやめてよね。クッチャクチャと品がないから。それにその犬食い。みっともないったらありゃしない。
まあ、いいか。最初の目的に専念しよ。
このお店のメインディッシュ、お肉が柔らかくってソースもおいしい。サングラスのおすすめってのは気に入らないけど、みっこ風に言うなら『レストランに罪はない』よね。
それにしても、みっこは食べ方も綺麗。
ピンと背筋を伸ばして,優雅にナイフとフォークを使ってる。
なのにわたしは、こんなオシャレなフランス料理のレストランなんて、来たことないから、いまいちテーブルマナーはぎこちないかも。これじゃあ、『サングラス』と『ニキビ』のこと、笑えない。
つづく
「どうしてオレ達と付き合う気になったんだ?」
『サザンオールスターズ』のCDをカーコンポにセットしながら、サングラスは鼻先を得意げに上に向けて、みっこに訊いてきた。
「高級フレンチのフルコース、おごってもらうためよ」
「それだけか?」
「そのあとのことは、気分しだいね」
「ははは。『気分しだいで責めないで』ってか? そういう気の強い女って好きだゼ。じゃ、さっそく食いにいくか。オレ、うまいレストラン知ってるんだゼ。神戸牛の…」
サングラスの話をさえぎるように、スピーカーからすごい音が飛び出してきた。シャンシャンと甲高い音が、なんとも耳障りで不愉快。こんな大音量じゃ会話するどころじゃない。
サングラスが案内してくれた店は、『田舎の日曜日』という、グルメ雑誌にでも載っていそうな、洒落たフレンチレストラン。
煉瓦作りの瀟洒な洋館で、開放的な掃き出し窓と、そこから続くテラスがおしゃれ。
室内の柔らかいダウンライトに浮かび上がった家具や建具は、フランスのカントリー調で、サングラスのエスコートにしては上出来。
「あたし、このいちばん高いディナーにする。みんなもこれでいいでしょ。ワインは赤のフルボディでお願いね」
テーブルについてメニューを開いたみっこは、ためらわずに『憧れのブローニュの森』ってネーミングの、12,000円もするフルコースを注文した。そしてすぐに、向かいの席に座った男たちと会話をはじめる。こんな時、わたしはいったい、なにをしゃべればいいんだろ。
「そういや自己紹介まだだったな。おまえらの名前、教えてくれヨ」
サングラスが聞いてきた。
わたしが口を開くよりも早く、みっこが答える。
「あたしは河合美津子。この子は松田早紀。でも『みっこ』と『サッキ』でいいわ」
「福岡に住んでるのか?」
「ううん。埼玉県人」
「でも福岡の大学に行ってるんだろ。ふたりともお嬢っぽいよな。アリス女学院かその辺だろ」
「残念でした。埼玉のフツーの大学よ。今は夏休みで九州のおばさんちに遊びに来てるの。あたしたち、いとこなの」
「仲いいんだな」
「わかる? いとこで親友なのよ」
そう言ってみっこはコロコロと笑う。わたしはあっけにとられて会話に入れない。
名前はもちろん、『埼玉』だの『いとこ』だの、み~んなデタラメ。
なんとまぁ、こうもすらすらと嘘が出てくるの?
みっこはこのふたりに、全然気を許してないんだ。なのに『ニックネームで呼んでいい』って言って、打ち解けてるフリしてる。巧妙な手だな。
実際、ふたりは馴れ馴れしく話してくるようになった。名前も教えてもらったけど、すぐに忘れちゃったので、『サングラス』と『ニキビ』で通すことにする。
「でも大学生ってヒマなのねー。夏休みに一日中ナンパやってるの?」
「んな事ないゼ。テニスやウィンドサーフィンなんかやるし、毎年冬には北海道にスキーにも行くんだゼ。北海道の雪はパウダースノーで最高にごきげんサ。最近はゴルフにこってて、この前なんか5番ホールでイーグル出してサ。スコア90切ったことだってあるんだゼ」
「ふうん。すごいすごい」
みっこのひやかしにも気づかないで、サングラスは得意げに続ける。
ん~。この人の語尾って、なんかキザっぽくって、わざとらしい話し方。
「それにクルマの事ならメチャ詳しいゼ。あの『セルシオ』も新車で買ったんだ」
「500万だぜ。500万!」
ニキビが口をはさむ。
「それを自分でチューンアップして、オイルクーラーつけてローダウンさせて、ホイールも16インチはかせてサ。こいつはピエゾTEMSでサスが可変だから、そこも固めにチューンしてコーナーの喰い付きを上げてるのサ」
「カーコンポもSONYのグライコ付きなんよ。しかもDAT装備してデジタルアンプで、スピーカーもツィーターとスーパーウーファー2発足して6チャンネルにしてるから、すげー音がいいやろ」
ああ…
わたしには理解不能の会話。
めまいがしそう。
どーでもいいけど、ふたりとも食べ物口に入れたまましゃべるのはやめてよね。クッチャクチャと品がないから。それにその犬食い。みっともないったらありゃしない。
まあ、いいか。最初の目的に専念しよ。
このお店のメインディッシュ、お肉が柔らかくってソースもおいしい。サングラスのおすすめってのは気に入らないけど、みっこ風に言うなら『レストランに罪はない』よね。
それにしても、みっこは食べ方も綺麗。
ピンと背筋を伸ばして,優雅にナイフとフォークを使ってる。
なのにわたしは、こんなオシャレなフランス料理のレストランなんて、来たことないから、いまいちテーブルマナーはぎこちないかも。これじゃあ、『サングラス』と『ニキビ』のこと、笑えない。
つづく
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