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01 PERKY JEAN
PERKY JEAN 4
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「おまえ、あの紫の水着着た女の友達だろ」
戸惑うわたしに、サングラスの男が訊いてきた。みっこのこと?
ていうか、いきなり『おまえ』呼ばわりはやめてよ。
「実はこいつがその子と話したいってサ。だから紹介しろヨ」
『こいつ』と呼ばれたニキビ面の男はにやけ顔で頬を染め、照れている。
な~んだ、みっこが目当てか。
そりゃ、ふたり並んでいて声かけたくなるのは、わたしよりみっこの方だろうけど…
こんな人たちなんか、別にどうでもんだけど、なんとなくヘコんでしまうのは、女の性《さが》かも。
「ちょっとだけでいいんよ。頼むけ」
「でも…」
「いいじゃん。時間とらせねーヨ」
「だけど…」
どうしていいかわからなくて返事に困っていた、とその時、ふたりの肩越しにみっこがやってくるのが見えた。
「さつきぃ。あたしも『午後の紅茶』買いにきたよ。サンドイッチにはやっぱり…」
明るく笑顔を振りまいていた彼女は、ふたりの男に気づいて顔色を変え、口を閉ざした。
「さっきはどーも」
サングラスの男が軽く手を掲げ、みっこは構えるように少し頭を下げる。
「知ってる人?」
小声で聞くと、彼女は吐き捨てるように耳打ちした。
「さっきあたしがつまずいた、『ゴミ箱』よ」
あっ、なるほど。
でもキツい表現。
「あの。ちょっとでいいけ、時間くれん?」
「もうあなた達と話すことはないわ。さよなら」
「へ。そんな気取るなヨ。おまえらだって男に声かけられて嬉しいんだろ」
「さつき行きましょ。紅茶を買ったらもうここに用はないし」
自販機から『午後の紅茶』を取り出すと、みっこはわたしの背中を押す。男達は未練がましくつきまとってきた。
「つきあいわりィな」
「…」
「な。頼むけつきあってくれよ」
「…」
「おまえらも女ふたりで来てんだから、ナンパ目当てなんだろ」
「…」
「俺たちがずっと見よっても、あんたより可愛い女、ほかにはおらんよ」
「…」
「見なヨ、オレのクルマ。あそこのメタルパープルの『セルシオ』だぜ。チューンナップした乗り心地抜群のVIPカーだぜ」
「…」
「あのクルマで、高級フランス料理のフルコースでも食いにいこうぜ。オレいい店知ってんだ」
「…」
「もちろん俺たちのおごりやけ。行こうや」
「…」
代わるがわる話かけてくるふたりの声がまるで聞こえないかのように、みっこはわたしの腕を引っ張って、どんどん歩いていってしまう。そのうちやっとふたりも諦めた。
食事に戻ったみっこは、なにごともなかったかのようにサンドイッチを頬張った。
「あっ!」
わたしは思わず声をあげた。
「どうしたの? さつき」
「これ、さっきのサングラスの人が買ってくれたんだけど… 捨てた方がいいかな」
そう言って、わたしは手もとの缶コーヒーを見せた。
「缶コーヒーに罪はないわ」
「そうよね。ただでもらえてラッキーと思えばいいよね」
「ほんとは紅茶がよかったのにね」
みっこはそう言って微笑んだ。
やっぱりなごむな、この素敵な笑顔。さっきの緊張も、ほぐれてくる。
缶コーヒーのリングプルを引っぱりながら、軽い調子でわたしは言った。
「でも、ちょっともったいなかった気もするなぁ」
「なにが?」
「さっきのふたり」
「さつきは、ああいうのが好みなの?」
「そっ、そんなことないけど… でも、高級フランス料理ってのには惹かれるかも」
「あんなサングラスとニキビ顔見ながら食べる料理が、おいしいって思う?」
「う… そんなことない、よね」
「じゃ、どんな男にでもシッポ振るようなマネはよしなさいよ。くだらない男に関わってると、こちらまでつまらない女に見られるわよ」
「つまらない女って… ひどいんじゃない? みっこ」
「ほんとのこと言っただけよ」
「む…」
少しムッときたけど、まあ、みっこの言うことは正論かも。
それにしても彼女の口調は手厳しい。単にあのふたりに対する嫌悪なのか、それとも、男嫌いなのか…
つづく
戸惑うわたしに、サングラスの男が訊いてきた。みっこのこと?
ていうか、いきなり『おまえ』呼ばわりはやめてよ。
「実はこいつがその子と話したいってサ。だから紹介しろヨ」
『こいつ』と呼ばれたニキビ面の男はにやけ顔で頬を染め、照れている。
な~んだ、みっこが目当てか。
そりゃ、ふたり並んでいて声かけたくなるのは、わたしよりみっこの方だろうけど…
こんな人たちなんか、別にどうでもんだけど、なんとなくヘコんでしまうのは、女の性《さが》かも。
「ちょっとだけでいいんよ。頼むけ」
「でも…」
「いいじゃん。時間とらせねーヨ」
「だけど…」
どうしていいかわからなくて返事に困っていた、とその時、ふたりの肩越しにみっこがやってくるのが見えた。
「さつきぃ。あたしも『午後の紅茶』買いにきたよ。サンドイッチにはやっぱり…」
明るく笑顔を振りまいていた彼女は、ふたりの男に気づいて顔色を変え、口を閉ざした。
「さっきはどーも」
サングラスの男が軽く手を掲げ、みっこは構えるように少し頭を下げる。
「知ってる人?」
小声で聞くと、彼女は吐き捨てるように耳打ちした。
「さっきあたしがつまずいた、『ゴミ箱』よ」
あっ、なるほど。
でもキツい表現。
「あの。ちょっとでいいけ、時間くれん?」
「もうあなた達と話すことはないわ。さよなら」
「へ。そんな気取るなヨ。おまえらだって男に声かけられて嬉しいんだろ」
「さつき行きましょ。紅茶を買ったらもうここに用はないし」
自販機から『午後の紅茶』を取り出すと、みっこはわたしの背中を押す。男達は未練がましくつきまとってきた。
「つきあいわりィな」
「…」
「な。頼むけつきあってくれよ」
「…」
「おまえらも女ふたりで来てんだから、ナンパ目当てなんだろ」
「…」
「俺たちがずっと見よっても、あんたより可愛い女、ほかにはおらんよ」
「…」
「見なヨ、オレのクルマ。あそこのメタルパープルの『セルシオ』だぜ。チューンナップした乗り心地抜群のVIPカーだぜ」
「…」
「あのクルマで、高級フランス料理のフルコースでも食いにいこうぜ。オレいい店知ってんだ」
「…」
「もちろん俺たちのおごりやけ。行こうや」
「…」
代わるがわる話かけてくるふたりの声がまるで聞こえないかのように、みっこはわたしの腕を引っ張って、どんどん歩いていってしまう。そのうちやっとふたりも諦めた。
食事に戻ったみっこは、なにごともなかったかのようにサンドイッチを頬張った。
「あっ!」
わたしは思わず声をあげた。
「どうしたの? さつき」
「これ、さっきのサングラスの人が買ってくれたんだけど… 捨てた方がいいかな」
そう言って、わたしは手もとの缶コーヒーを見せた。
「缶コーヒーに罪はないわ」
「そうよね。ただでもらえてラッキーと思えばいいよね」
「ほんとは紅茶がよかったのにね」
みっこはそう言って微笑んだ。
やっぱりなごむな、この素敵な笑顔。さっきの緊張も、ほぐれてくる。
缶コーヒーのリングプルを引っぱりながら、軽い調子でわたしは言った。
「でも、ちょっともったいなかった気もするなぁ」
「なにが?」
「さっきのふたり」
「さつきは、ああいうのが好みなの?」
「そっ、そんなことないけど… でも、高級フランス料理ってのには惹かれるかも」
「あんなサングラスとニキビ顔見ながら食べる料理が、おいしいって思う?」
「う… そんなことない、よね」
「じゃ、どんな男にでもシッポ振るようなマネはよしなさいよ。くだらない男に関わってると、こちらまでつまらない女に見られるわよ」
「つまらない女って… ひどいんじゃない? みっこ」
「ほんとのこと言っただけよ」
「む…」
少しムッときたけど、まあ、みっこの言うことは正論かも。
それにしても彼女の口調は手厳しい。単にあのふたりに対する嫌悪なのか、それとも、男嫌いなのか…
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