あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
227 / 259
level 24

「すべてをわたしは受け入れてきたつもりです」

しおりを挟む
「桃李ちゃんってさぁ、、、」

気が進まなそうに、ヨシキさんは切り出した。

「情に脆いだろ。すぐに同情してくれるし、頼られたら自分を投げ出してでも、相手に尽くすタイプだし。
そういう相手を落とすには、自分の不幸話をするのが、いちばん効果的なんだよ」
「そんなくだらない、ナンパテクニックを訊いてるんじゃありません。
ヨシキさんが桃李さんに話したこと。
ずっと家庭不和で、お父さまの不倫が元でご両親が離婚したってことや、お父さまからネグレクト受けて、家から逃げ出したこと。お母さまもすぐに恋人を作って、家にいられなくなって、今のひとり暮らしをはじめたってことが、ほんとの話なのかを訊いてるんです」
「おしゃべりだな。桃李ちゃんは…」
「それで。本当はどうなんですか?」
「ん~、、、」
「ちゃんと言って下さい!」
「そんなこと、白黒つけて、どうなるんだ?」
「わたしが納得できないんです」
「…」

しばらく考え込んでいたヨシキさんは、ようやく重い口を開いた。

「、、、本当のことだよ。全部」
「…」

一瞬、めまいがしそうになった。
頭が真っ白になり、なにも考えられない。
ヨシキさんは続けた。

「凛子ちゃんにだけは知られたくなかった。いや。だれにも言いたくなかった。
他人の不幸なんて蜜の味じゃん。そんな娯楽ネタを提供するのなんて、まっぴらだし」
「わたしって、、、 『他人』なんですか? ヨシキさんにとって」
「違う! 凛子ちゃんは、オレの最高の恋人だよ!!」
「じゃあどうして。どうして打ち明けてくれなかったんですか?!」
「…怖かったんだよ」
「怖い?」
「オレは凛子ちゃんには、全然似合ってないから」
「え?」
「ぶっちゃけ、コンプレックスだよ。
生まれも育ちも、オレは凛子ちゃんの足元にも及ばない。
凛子ちゃんは超絶美少女で才色兼備で文武両道。由緒正しい島津のお姫様で、しっかりと教育してくださる立派なご両親が揃っている。
例のお仕置きのとき、オレにもお母さんから電話がかかってきただろ。
『娘を傷物にして!』とか、めっちゃ怒られるかと思ったけど、すごく理性的な口調で、理路整然と話してて、なのに威圧感があって、立派なお母さんだって感心したよ。
凛子ちゃんの家庭がすごくしっかりしてるってのを、肌で感じた。
それにひきかえこのオレは、愛欲まみれのグダグダな家庭に育って、卑しくて醜いバカ親の血が流れてる。
そう考えると、どうしても言えなかった」
「、、、がっかりです」
「がっかり、か。そりゃそうだろうな」
「そういう意味じゃないです。
ただ、ちゃんと、なんでも話してほしかったからです。
だってわたしたち、恋人同士じゃないですか。
ヨシキさんのすべてを、わたしは受け入れてきたつもりです。
生い立ちなんて、気にしたこともありません。
なのにヨシキさんは、生まれとか、育ちとかにこだわって、、、
わたしってヨシキさんにとって、その程度の存在だったんですか?
わたし、こんな形で、ヨシキさんの過去を知りたくなんか、なかったです」
「はは、、、」

自嘲気味にヨシキさんは笑う。
が、そのあとにはまた、静寂が訪れた。

「どうして、『だれにも言いたくない』って過去を、桃李さんにだけは話せるんですか?」

畳みかけるように、わたしは詰問した。

「『桃李ちゃんは桃李ちゃん。わたしにない、いいところもいっぱいある』そうじゃないですか」
どうしてヨシキさんは、桃李さんにだけは心を開けたんですか?
桃李さんにあって、わたしにないものって、なんですか?」
「…」
「それを訊くまでわたし、帰れません」

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

処理中です...