190 / 259
level 21
「十字砲火のようにふたりの叱責が飛んできました」
しおりを挟む
level 21
「凛子! あなたって子は!」
ドスドスと荒々しく廊下を足早に歩いてきた母は、いきなり玄関先でわたしの頬をぶった。
突然のできごとに、頬を押さえて呆然と突っ立ったままのわたしを、母は恐ろしい形相で睨んでる。
こんなに取り乱した母を、わたしは見たことがない。
一瞬、なにが起こったかわからなかった。
いったいわたしがなにしたの?
今日は門限守ってるし。
「まあまあ、お母さん。落ち着いて。凛子もちょっと、こっちへ来なさい」
滅多に玄関先になど顔を出さない父が、取りなすようにやってくると、わたしを床の間へ促した。
頬を押さえながら、わたしは黙ってふたりのあとについていった。
「そこへ座りなさい」
床の間を背にしてきちんと正座した父は、わたしを向かいに座らせる。
表情を固く強ばらせ、『コホン』と咳払いをひとつすると、一枚の紙切れを畳の上に置いて指差した。
「これがなにか、ちゃんと説明しなさい」
「…」
、、、ついに、来るべき時が来た。
観念して、わたしは瞳を閉じた。
その紙切れは、、、
わたしが勝手に親の印鑑を持ち出し、サインを偽造して提出した、モデル事務所の契約書と保護者同意書だったのだ。
「鹿児島の従兄弟から連絡をもらって、わたしは魂消たぞ。
凛子。おまえはテレビのコマーシャルに出ているそうだな」
「…」
「わたしたちに黙って、おまえは本当にモデルの仕事なんかしているのか?」
「………」
沈黙してるわたしに痺れを切らしたかのように、横から母も口を出してくる。
「『あのCMに出てるの凛子ちゃんでしょ? すごく勇ましくて、格好よくて綺麗ね。先生を目指しているって聞いていたのに、モデルなんてやってるのね』って、親戚から電話で言われてたわ。
親のわたしがなにも答えられなくて、大恥をかいたのよ。どうしてわたしたちに言わないの?!」
「…」
「黙ってちゃわからん。これはいったいどういうことなのだ?」
「…」
「勝手にうちの印鑑持ち出して、サインまでするなんて。どうしてキチンと、わたしたちの許可をとらなかったのだ?!」
「…」
「最近のあなたは嘘とごまかしばっかり。どうしてこんな娘になってしまったの?」
「…」
「凛子!」「凛子!」
十字砲火のように、ふたりの叱責が飛んでくる。
拳をギュッと握りしめ、わたしはなにも言えずにうつむき、ただ、畳の目を凝視して耐えた。
「凛子。わたしたちになにも釈明できないのなら、今後モデル事務所への出入りは、いっさい禁ずるぞ。もちろんモデル活動も、今すぐやめてもらう」
「…えっ? そんな… ひどい!」
父の厳しい言葉に、わたしは狼狽えて叫んだ。
事務所への出入り禁止って…
追い討ちをかけるように、母が続ける。
「『ひどい』じゃありません!
あなたが最近、わたしたちに隠れて、なにかコソコソしているのは知っていたわ。
休みの度に外出するし、学校のある日も帰りが遅い。
だけどあなたも、もう18歳。
自分のことは自分で判断できる年頃だから、あなたの意思を尊重しようと考えて、あなたの方からキチンと言ってくるのを、わたしたちは待っていたんです!」
「…」
「なのに姑息にも、勝手に文書を偽造したり、コマーシャルに出たのを隠していたり、挙げ句の果てには嘘をついて外泊までしたり。
来月にはセンター試験だというのに、全然勉強もしないで、学校の成績も模試の順位も下がっているし。
これ以上勝手な真似をするようだったら、こちらにも考えがあります。
ちゃんと納得できる説明を聞かせてもらうまで、あなたは外出禁止。当分謹慎してもらいます!」
「謹慎…」
「まったく…」
『はぁ』と、大きくため息ついた母は、諭すように言った。
つづく
「凛子! あなたって子は!」
ドスドスと荒々しく廊下を足早に歩いてきた母は、いきなり玄関先でわたしの頬をぶった。
突然のできごとに、頬を押さえて呆然と突っ立ったままのわたしを、母は恐ろしい形相で睨んでる。
こんなに取り乱した母を、わたしは見たことがない。
一瞬、なにが起こったかわからなかった。
いったいわたしがなにしたの?
今日は門限守ってるし。
「まあまあ、お母さん。落ち着いて。凛子もちょっと、こっちへ来なさい」
滅多に玄関先になど顔を出さない父が、取りなすようにやってくると、わたしを床の間へ促した。
頬を押さえながら、わたしは黙ってふたりのあとについていった。
「そこへ座りなさい」
床の間を背にしてきちんと正座した父は、わたしを向かいに座らせる。
表情を固く強ばらせ、『コホン』と咳払いをひとつすると、一枚の紙切れを畳の上に置いて指差した。
「これがなにか、ちゃんと説明しなさい」
「…」
、、、ついに、来るべき時が来た。
観念して、わたしは瞳を閉じた。
その紙切れは、、、
わたしが勝手に親の印鑑を持ち出し、サインを偽造して提出した、モデル事務所の契約書と保護者同意書だったのだ。
「鹿児島の従兄弟から連絡をもらって、わたしは魂消たぞ。
凛子。おまえはテレビのコマーシャルに出ているそうだな」
「…」
「わたしたちに黙って、おまえは本当にモデルの仕事なんかしているのか?」
「………」
沈黙してるわたしに痺れを切らしたかのように、横から母も口を出してくる。
「『あのCMに出てるの凛子ちゃんでしょ? すごく勇ましくて、格好よくて綺麗ね。先生を目指しているって聞いていたのに、モデルなんてやってるのね』って、親戚から電話で言われてたわ。
親のわたしがなにも答えられなくて、大恥をかいたのよ。どうしてわたしたちに言わないの?!」
「…」
「黙ってちゃわからん。これはいったいどういうことなのだ?」
「…」
「勝手にうちの印鑑持ち出して、サインまでするなんて。どうしてキチンと、わたしたちの許可をとらなかったのだ?!」
「…」
「最近のあなたは嘘とごまかしばっかり。どうしてこんな娘になってしまったの?」
「…」
「凛子!」「凛子!」
十字砲火のように、ふたりの叱責が飛んでくる。
拳をギュッと握りしめ、わたしはなにも言えずにうつむき、ただ、畳の目を凝視して耐えた。
「凛子。わたしたちになにも釈明できないのなら、今後モデル事務所への出入りは、いっさい禁ずるぞ。もちろんモデル活動も、今すぐやめてもらう」
「…えっ? そんな… ひどい!」
父の厳しい言葉に、わたしは狼狽えて叫んだ。
事務所への出入り禁止って…
追い討ちをかけるように、母が続ける。
「『ひどい』じゃありません!
あなたが最近、わたしたちに隠れて、なにかコソコソしているのは知っていたわ。
休みの度に外出するし、学校のある日も帰りが遅い。
だけどあなたも、もう18歳。
自分のことは自分で判断できる年頃だから、あなたの意思を尊重しようと考えて、あなたの方からキチンと言ってくるのを、わたしたちは待っていたんです!」
「…」
「なのに姑息にも、勝手に文書を偽造したり、コマーシャルに出たのを隠していたり、挙げ句の果てには嘘をついて外泊までしたり。
来月にはセンター試験だというのに、全然勉強もしないで、学校の成績も模試の順位も下がっているし。
これ以上勝手な真似をするようだったら、こちらにも考えがあります。
ちゃんと納得できる説明を聞かせてもらうまで、あなたは外出禁止。当分謹慎してもらいます!」
「謹慎…」
「まったく…」
『はぁ』と、大きくため息ついた母は、諭すように言った。
つづく
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる