あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「だれにでもヤラせるレイヤーでしょうか?」

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 ようやく撮影が終わり、ノマドさんは脂汗を拭きながら、満足げに言った。

「今日の撮影は楽しかったね」
「え。ええ…」
「だれも見たことない美月ちゃんがいっぱい撮れて、ぼくも大満足だよ。うふ♪」
「…」

あなたにしか見せてないわたしなんか、ないわよ。
しかも、そのあとがさらに衝撃だった。

「今日はサプライズを用意してあるんだ」
「サプライズ、ですか?」
銀座ザギンのレストランを予約してるんだよ。テレビのバラエテイにも出てるカリスマシェフがオーナーの、高級イタめしなんだ。今日の記念にふたりでワインでも傾けようよ。うふ♪」

ワインを傾けるって、、、
もしかしてわたしが、あなたとふたりっきりで食事するってわけ?
その方がよっぽど驚愕サプライズだわ。
しかも、バブル時代じゃあるまいし、今どき『ザギン』とか『イタめし』なんて言わないわよ。

「いえ。悪いです。それにわたし、未成年ですから」
「大丈夫だよ。今日のためにせっかく予約とったんだし。そのレストランは人気店だから、なかなか入れないんだよ。めちゃくちゃレアなんだよ!」
「でも…」
「ねえ。ぼくに尽させてよ。美月ちゃんのためだったら、ぼくはお金を惜しまないから」
「だけど…」
「ねぇ。頼むから。予約キャンセルするとキャンセル料も払わないといけないし」
「…(セコい)」
「いいだろ~。一度だけだから」
「はぁ…」

何度も断ったが、ノマドさんの執拗な押しに根負けし、仕方なくノマドさんお薦めの『ザギンの高級イタめしレストラン』とやらに入る。
テーブル越しに彼のにやけ顔を見ながら食べるイタリアンは、せっかくの料理の味もパッとしなかった。
手元もたどたどしいノマドさんは、ナイフとフォークを使う姿がぎこちない。
こういうレストランで食べ慣れてなくて、背伸びしてる感がありあり。
しかも会計のときは、

「えっ? ふつーの水が800円もするの? 頼んでもないのに納得いかないなぁ」

とボヤく始末。
銀座のレストランを予約するくらいなら、水の一杯や二杯でグダグダ言ってほしくない。

『ほら。やっぱり他のカメコと撮影したって、時間のムダだったろ? ははははは』

どこからか、ヨシキさんの高笑いが聞こえてくるみたいだった。



 それでも、イベント内で豊富な人脈を持ち、ブログやサイトのアクセスも多い『超有名カメコ』のノマドさんと撮影したのは、よくも悪くもわたしの評価を変えた。

『四駆デブ(ノマドさんのこと?)なんかと個撮するなんて、狂夜も堕ちたな』
『あの高嶺の花感がよかったのに、、、 だれにでもヤラせるレイヤーになった。狂夜オワタ』

と、掲示板では悪口を書かれる一方で、カメコからの個撮オファーは一気に増えた。

『美月さんは綺麗すぎて、とてもぼくなんかが個撮させてもらえるわけないと思ってましたが、ノマドさんが撮ってるのを見て、勇気を出してお誘いしてみました』
『美月さまのことはずっと憧れていましたが、ヨシキさんとしか個撮しないと思って諦めていました。
そうじゃないなら、ぼくとも個撮してほしいです。腕も機材もノマドさんに引けをとりません!』
『ノマドさんの使っているカメラは国産だけど、わたしは全部ライカです。描写のよさなら勝ってます。わたしに美月さんの素敵な写真を撮らせて下さい!』

どの依頼メールもこんな調子で、写真を見せてもらっても、大口叩いてる割にノマドさんに勝てず優れず、冴えないカメコばかり。
だけど、ヨシキさんへの意地も当てつけもあって、個撮を申し込んでくるカメコを適当に見繕い、わたしはいろんなカメコと撮影に出かけていった。

確かに、、、
これじゃあ、『だれにでもヤラせるレイヤー』って言われてもしかたないかも。

つづく
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