あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「拒めないのを見透かされているのかもしれません」

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「なんか… うまくはぐらかされちゃった感じ。結局、証拠も見せてもらえなかったし」

ぼんやりと、さっきまでヨシキさんとメールのやりとりをしていた、開けっ放しの窓を眺めながら、わたしはひとりつぶやいた。

ヨシキさんのいう『証拠』って、エッチすること?
求められるとわたしが拒めないのを、ヨシキさんには見透かされているのかもしれない。
エッチすることで、わたしを懐柔して。
結局わたしも、ヨシキさんのペースに巻き込まれて、『思いどおりにできる女』として、利用されているだけかもしれない。
所詮わたしも、ヨシキさんの『つまらない恋』の相手のひとり・・・

いったんエッチの効果が切れると、『クスリ』をする前よりも、不快感やイライラが募ってくる。
こうしてひとりになってしまうと、どうでもいいことばかり考えて、切なさと虚しさに翻弄されてしまう。

以前は、そんなことはなかった。
離れていても幸せを感じていた。
だけど、漠然といだいていたヨシキさんへの不信感が、こうして具体的なものになってしまうと、彼の『過去』が生々しい現実として、わたしの胸を掻きむしる。
『信じたい』という気持ちと、『信じられない』という気持ちが、ぶつかりあってせめぎあい、心を乱す。

「あ~~、もうっ!」

勢いよく起き上がると、わたしはパソコンの電源を入れた。
インターネットブラウザを立ち上げて、惰性に任せて掲示板に目を通す。

なにやってんだ、わたし?!
こんな悪口だらけの掲示板に依存したって、いいことなんてあるわけない。

ブラウザを閉じたわたしは、代わりにメールソフトを立ち上げる。
新しいメールが来ていた。
カメコのノマドさんからの、個撮の誘いだった。
そういえばこの人は、わたしがイベントに行きはじめた頃からずっと、熱心に誘ってくれる。
自慢している割にはたいした写真を撮るわけでもないし、本人の容姿や言動にもイタいところがあるので、適当な理由をつけて、個撮は断っていた。

『凛子ちゃんが満足できるカメコなんて、オレ以外にいないだろ。他のカメコとは撮影するだけムダ』
『他の男に撮られてみれば、凛子ちゃんもオレのよさが、改めてわかるだろう』

熱のこもったノマドさんの誘いのメールを読みながら、わたしはヨシキさんの言葉を思い出していた。
ヨシキさんは頭っから他のカメコさんをバカにしているみたいで、そういう自信たっぷりな態度も、なんだか鼻につく。

ほんとにそうだろうか?
わたしにとって、ヨシキさんが本当に最高のカメラマンなんだろうか?

他のカメラマンさんと個撮したことがないわたしには、ヨシキさんの良し悪しを測る『定規』がない。
ヨシキさん自身、他のカメコさんと撮影するのを止めなかったし、むしろ勧めるくらいだった。
ヤツばかりがいろいろなレイヤーと『個撮』と称して遊び回り、わたしひとりだけがこうやって悶々としているのも、割に合わない。

わたしもヨシキさん以外の人と、個撮、やってみようかな。
でも、ノマドさんだと今いち気分が乗らないし…

そう思いながら、メールの署名のURLをクリックする。
そこは、ノマドさんのホームページだった。
たくさんのコスプレイヤーを撮影した画像が、延々と並んでいる。
どれも、イベント会場で頂いたような、のっぺりと明るい、やたら色の派手な画像。
しかし、設置されていたアクセスカウンターを見て、わたしは驚いた。
軽く100万を超えている。

そういえばノマドさんは、『イベントカメラマンの大御所』と言われていたっけ。
こんなにたくさんのアクセスがあるのなら、きっと人気があるのだろうし、『派手すぎる』と思っている色作りも、実は今のコスプレ界の流行に合わせているのかもしれない。

「いいじゃん凛子。なにごとも経験よ。やってみれば?」

ひとりごちながらキーボードを叩き、わたしはメールを返した。
ノマドさんからの個撮を受けるメールを。

MODELSIDE END

7th Sep.2018 改稿
17th Feb 2021 改稿
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