あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「こんなに布の少ない水着は生まれてはじめてです」

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 海に面したホテルの前に広がる広場は、『庭』というよりは『草原』といった感じだった。
よく手入れされた緑の芝生が一面に広がり、所々に熱帯樹が茂っていて、南国の雰囲気を醸している。その向こうには透きとおった海が横たわり、さっき渡った角島大橋が真っ白な軌跡を描きながら水平に伸びている。
広々とした敷地には、他のお客がほとんどいない。
夏の終わりの平日だからだろうけど、これほど人のいないリゾートホテルなんて、東京あたりでは考えられない。
この綺麗な海や空を、わたしとヨシキさんとでふたりじめ。
もう、最高!

「おぉ~~っ。すげ~っ!!」

ビーチチェアとパラソルの並んだ砂浜に出て、水着の上に着ていたワンピースを脱いだわたしを見て、ヨシキさんは嬉しそうに声を上げた。

…恥ずかしい。
こんなに布の少ない水着なんて、生まれてはじめて着たから。

薄いラベンダーピンクにドット柄のビキニ。
三角ブラは胸のホールド感がないし、ローライズのショーツは細いひもが腰に引っかかっているだけで、今にもずり落ちそうで、危なっかしい。
思わず脱いだワンピースで、胸元を隠す。

「おっ、おかしくないですか?」
「すごくいい! ローライズビキニは、凛子ちゃんみたいに腰が高くて脚が長くないと、穿きこなせないからな。胸の位置も高くて、ウエストも細くてスラリとくびれてて、おなかも平らでおへそも見事に縦に割れてて、もうパーフェクト!」
「はっ、恥ずかしいです。いちいち解説しないで下さい」
「照れることないよ。もっと堂々としなよ。そっちの方が綺麗に見える。それにしても、大胆な水着だな」
「ヨシキさんが、『エロい水着』ってリクエストするから」
「ははは。凛子ちゃんって、素直だな。はははは」
「もう… 笑い過ぎです」

むくれてそっぽを向いたわたしに、ヨシキさんは真顔に戻って肩を抱く。グッと自分の方へわたしを引き寄せ、ヨシキさんはおでこをくっつけて言った。

「嬉しいよ。凛子ちゃんはまぶしくて、キラキラ光ってるよ。まだまだ原石だけど、その分磨き甲斐がある。オレがもっと輝かせてやるよ」

まったくキザなんだから。
でも、ヨシキさんが言うと、それが実現するような気がする。

「さ、ここに寝て。夏の終わりとはいえ、すぐに真っ黒になるからな」

そう言ってヨシキさんは、波打ち際のビーチチェアにわたしをうつ伏せに寝かせ、日焼け止めクリームを手に取り、背中に塗りはじめた。
男の人からクリームを塗ってもらうなんて、これもはじめての経験。
大きな手が肩や背中をなぞっていくのが、恥ずかしいけど気持ちいい。
こうして夏の太陽の下ではだかでいると、もっと大胆になれる気がする。

「次はわたしに塗らせて下さい」
「お。嬉しいな」

ひととおり塗ってもらったあと、今度はわたしが日焼け止めを手にして、ヨシキさんを寝かせた。
両手にクリームをとって、広い背中に伸ばしていく。
ゴツゴツとした筋肉の感触。
細いように見えて、ヨシキさんの肩や二の腕は見た目よりずっと固くて逞しい。
やっぱり男の人は違う。
この太い腕に、わたしは抱かれているんだな。
そう思うと、なんだかドキドキする。

 日が傾くまで、わたしたちは海で遊んだり、プールで泳いだりして過ごした。
もちろん、写真もたくさん撮ったのは言うまでもない。
だけど、水着で撮られるときの緊張感は、今までの撮影とはまったく違うものだった。


「もっと胸を張って。そう! 腰をぐっとひねって!」

からだのラインが強調されるようなポーズを、ヨシキさんは要求してくる。
彼自身も水着姿で、砂浜に寝そべりながらわたしを見上げたり、なぎさに横たわるわたしを、真上から見下ろしたりして撮っている。
カメラを操作する度に、腕の筋肉や腹筋がググッと盛り上がるのが、なんだかセクシー。
水しぶきを上げて、波打ち際を駆けるわたしを、いっしょになって追いかけながら写真を撮ったりするところも、アクティブでカッコいい。

つづく
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